2010年2月13日

演出家としての必死な抵抗

『トゥルー・クライム』

True Crime
1999年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド イザイア・ワシントン ジェームズ・ウッズ デニス・リアリー ダイアン・ヴェノーラ リサ・ゲイ・ハミルトン

評点:★★★★★★★☆☆☆

 イーストウッドは一貫している。孤高のアウトロー。年食っても若い女にモテる。まさに自作自演の怪気炎。

 映画として普通に面白いが、ストーリーがハリウッド的ご都合主義という批判もあろう。ラストのクリスマスシーンでイザイア・ワシントンが生きて家族と戯れるのをイーストウッドが見かけるのだが、ここでは一切の会話が交わされていないし、イーストウッドが見つめる視線も、何か訝しげな雰囲気があるのを見過ごしてはいけない。あのワシントン一家は亡霊なのである。やはりあの(途中で中止された)処刑で死んでしまったのだ。そして嫁は娘とショックのあまり無理心中。

 俺はそう解釈したのだが、これは穿った見方だろうか? 陳腐な脚本に苛立ったイーストウッドの演出家としての必死な抵抗と言えば、これもさすがに彼を擁護し過ぎだろうか?

 早口で捲くし立てるジェームズ・ウッズがとてもいい。

2010年2月7日

戦後最大のスター、若尾文子

『女は二度生まれる』

1961年/東宝
監督:川島雄三
出演:若尾文子 山村聰 フランキー堺 藤巻潤 江波杏子 山岡久乃 倉田マユミ 村田知栄子 高野通子 紺野ユカ 

評点:★★★★★★★☆☆☆

 川島はすごいなぁ。行き当たりばったりな若尾文子の生き方に感情移入は正直できなかったのだけど、もう演出が完璧で参ってしまった。ややあおり気味のショットとか、はざまに障害物を置いてのカメラの使い方などは、撮影監督ではなく川島雄三のセンスだと思う。
 山村聰が唐突に死んでしまうシーンのシンプルな残酷さ。そして、高校生の少年と思いつきで長野へ行くシーンの、不都合な不条理さ。さらにここでは昔少しねんごろになったフランキー堺と出会う。その視線の微妙な交わり。
 しかし何より、若尾文子の可愛さがこの映画を支えている。紛れもなく戦後日本映画最大のスターのひとりでしょう。この危うい美しさと可愛さを見よ!!

2010年2月6日

アルドリッチの潔さを堪能しよう

『ロンゲスト・ヤード』

The Longest Yard
1974年/アメリカ
監督:ロバート・アルドリッチ
出演:バート・レイノルズ エディ・アルバート マイケル・コンラッド ジム・ハンプトン エド・ローター ジョン・スティードマン

評点:★★★★★★★★☆☆

 もう、スポ根ものには弱くてね。例えば『メジャーリーグ』なんていう作品があって、映画としての出来がどうこうとか、主演のトム・ベレンジャーに決定的に才能が欠けているとか、そんなことどうでもよくなるくらいラストシーンには涙してしまう。そういえばその『メジャーリーグ』でインディアンスがワールドシリーズを制するラストは、逆転サヨナラ満塁ホームランとか無死満塁のピンチを三者三振に抑えるとかそんな(野球をよく知らない人にも)劇的で判りやすい展開ではなかった。ベレンジャーが予告ホームランをした直後のセーフティスクイズという、地味で、一瞬何が起こったのかわからない成り行きだったからこそ、妙に印象に残っているのかもしれない。
 クライマックスが地味という意味では、この『ロンゲスト・ヤード』も『メジャー』と似ている。レイノルズが選手たちの背中に駆け上がり、その瞬間残り時間がゼロになる。レイノルズは選手ともどもゴールラインに倒れこむ。審判がピーッと笛を吹き、囚人チームが勝利したことがわかる。こんな地味な成り行きが映画のクライマックスに正当的になるのだから、演出家アルドリッチは凄い。残り時間をつぶさに捉えて寒いサスペンスを作り出すのは御免こうむりたい。じゃあ、あっという間に残り時間をゼロにしちゃえばいいか。レイノルズがどうやってタッチダウンをするかなんて、別になんでもいいんじゃないの。こんな成り行きで作られた奇跡のクライマックスだろう。潔いといえばこんな潔さもない。
 それにしても、寄せ集めチームを作るためにメンバーを掻き集めるシーンっていうのはワクワクするね。映画における「活劇」と言ってもいいかもしれない。本作も『メジャー』もそうだが、例えば『スペースカウボーイ』でイーストウッドが旧友ジジイ連中に声をかけて回るシークエンスもとても面白い。