2010年1月8日

これじゃあ「説得力」に欠ける

『もののけ姫』

1997年/スタジオジブリ他
監督:宮崎駿

評点:★★★★☆☆☆☆☆☆

 人間を文明の象徴として描くのは当然だろう。アニメ作品とはいえ、やっぱり観客は人間が画面に映っていればまずは人間を見てしまうものだ。時代や国がどこかもよくわからない設定の上、主役どころのアシタカやサンは相当人間離れした様相を漂わせている。それにしても、だ。人間が主役じゃないと映画は成立しない、と言い切ってしまってもいい。
 しかし、その対立構造としての相手方を、自然=神・偶像としてしまったのはいただけない。これじゃあ説得力に欠ける。ここでいうその説得とは、この映画の根底に流れる「説教臭さ」によって逆に収斂されているのだから尚更だ。そもそも本作や『風の谷のナウシカ』は、深淵なるテーマ性というやつでここまでの評価と栄光を勝ち得たのだし、だからこそ『ナウシカ』に出現する巨大なイモ虫や腐海のような、ある意味観客にとって判りやすい象徴のほうに軍配が上がる。『ナウシカ』が実像だったから今度は虚像にしようじゃあ、あまりにも観客を舐めすぎているんじゃないか。
 とは言え、冒頭から映画がかなりの助走をつけて勢いよく走り出しているのはさすがに宮崎駿作品だ。なかなか走り出さなくてイライラする、それどころか最後まで歩いたままの日本映画のいかに多いことか。物々しいタタリ神とアシタカの、山の斜面における追跡劇の昂揚感。それまで気持ちいいほど猛々しかったタタリ神が、両目に矢を打ち込まれて急速に朽ち果てていくメリハリの利いた画面作りにはハッとさせられたのだが、その一連のシークエンスを超える場面がけっきょく最後まで見られなかったのは残念だ。
 本作がいかに『ナウシカ』より劣っているかをひとつひとつ論うのは慎むが、声優の質が圧倒的に劣化してるのは致命的だと思うがどうか。調べてみたら、サンの声は石田ゆり子。全く声に張りがない。あとは小林薫とか西村雅彦とか森光子とか。客寄せのためなんですかねこれは。そういえば最近のハリウッド製含めたアニメ映画の声や吹き替えは、プロの声優じゃない人選をしていることが多い。これは文明の後退と言えるんじゃないか?

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