『アルカトラズからの脱出』
Escape from Alcatraz
1979年/アメリカ
監督:ドン・シーゲル
出演:クリント・イーストウッド パトリック・マクグーハン ロバート・ブロッサム ジャック・チボー フレッド・ウォード ポール・ベンジャミン ラリー・ハンキン
評点:★★★★★★★★☆☆
脱獄モノと言えば、まず思い浮かぶのがジャック・ベッケルの『穴』(1960)か。何度も何度も観たなあ。実にサスペンスフルな傑作であった。ブレッソンの『抵抗-死刑囚の手記より-』(1956)も、変化球ではあるが良作。しかしそれでの脱獄囚は、暇潰しがてらちょっと脱獄でも企ててみましょうかという感じで、確かにサスペンスではあるが、いかにもヘンな映画ではあった。あとは、アラン・パーカ-の『ミッドナイト・エクスプレス』(1976)も鮮烈に脳裏に焼きつく。しかしこれはラストシーンで僥倖的に脱獄のチャンスが巡って来たというだけであって、正確に言えば脱獄モノではないと思う。映画史には『ショーシャンクの何とか(笑)』なんという、愚にも付かぬ凡庸で恥ずかしいジャンル映画があったが、あれは何か質の悪い冗談だったことにしておこう。スティーヴン・キングの傑作小説「刑務所のリタ・ヘイワース」を、どのようにすればあれほど平面的な画面設計に映画化することができるのだろうか。フランク・ダラボンに全く才能が欠けていることは間違いない。
さて、この『アルカトラズの脱出』はまさに正統派の脱獄映画だ。まず、ブルース・サーティースの撮影が素晴らしいとしか言い様がない。何というクリアーで透明感の強い画面作りだろう。映画は終始、暗い暗いアルカトラズ刑務所の中で展開されるわけだが、3人が脱獄に成功した後の陽光が燦燦と降り注ぐラストシーン(パトリック・マクグーハンが菊の花びらを手に取る!)と、それまでの大部分との対比が見事だ。
また、本作は「音」の映画だ。看守の靴音。牢屋の扉が閉まる重い音。スプーンが床に落ちる音。イーストウッドが腐ったコンクリートを爪切りで削る音。そして、”ドク”が自分の指を鉄斧で切り落とす鈍い音・・・。この場面での静かなサスペンス演出には心底感動した。ウルフとイーストウッドの微妙な距離感なんかも至妙であって、どうやったらあんなことが可能なのか。やっぱりシーゲルは凄いと思う。
いわくつきの刑務所の金属探知機をはじめとしたセキュリティがあんな稚拙なわけないだろ!とは思うし、説話論的なツッコミどころは多数ある映画ではあるけども、そんなことを微塵も感じさせずに映画的な真実として観客に納得させてしまうところは、やっぱり作り手が上手なんですよ。
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