2009年12月22日

人情紙風船

1937年/東宝
監督:山中貞雄
出演:中村翫右衛門 河原崎長十郎 山岸しづ江 霧立のぼる 瀬川菊之丞 橘小三郎 市川笑太郎 市川莚司

オープニングからラストカットまで、全編の隅から隅まで「死」の臭いが纏わりついた山中貞雄の遺作。もちろん、おたきを演じる山岸しづ江の不気味なまでの悲愴感がそれに拍車をかけていることは間違いないだろうが、それにしても何と厳格で聡明な演出だろう。役者の情感をフィルムに定着させる術においても神業だ。最後の10分間は涙が出そうになった。ラストで側溝にゆっくりと落ちて揺らぐ小さな紙風船・・・!

思えば、これほど天才の遺作に相応しいペシミスティックな情感に満ち溢れた映画もないだろうと思う。この傑作を最後に山中貞雄は中国へ出征し、戦死を遂げてしまった。名誉の戦死なんかではない。世界に誇る逸材を失った戦争の代償は計り知れない。

最近のCGばかりのハリウッド映画や、TVドラマに毛が生えた「映画」とも呼べないようなシロモノに食傷気味になっている貴方、ぜひこの『人情紙風船』を観てみなさい。間違いなく当時の日本映画はアメリカ映画、ドイツ映画と並んで世界最高峰のクオリティと完成度を発揮していた。本作を観ればそれを充分に理解できるだろう。また、山中貞雄という人がいかに偉大であったかも瞬時に実感できるはずだ。

★★★★★★★★★☆

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