2009年12月15日

丹下左膳餘話 百萬兩の壺

1935年/日活京都
監督:山中貞雄
出演:大河内傳次郎 喜代三 沢村国太郎 山本礼三郎 花井蘭子

先月11月にBS2で3日連続で放映した、山中貞雄の現存するフィルム3本。その撮りためておいたものを満を持して観賞。そのうちの1本である。

俺はこれが初めての山中貞雄作品なのだが、完璧だ。完璧すぎる! 先日観た成瀬の『乱れる』同様、この映画がずっと終わらなければいい、そう思いながら観る作品だ。「これで92分はあまりにも短すぎる」という心境になることの贅沢さ! 70年以上前、戦前の日本映画がこれだけの完成度を誇っていたのだ! 同時期のハリウッド映画、そう例えばエルンスト・ルビッチのスクリューボール・コメディのような佇まい。

人物とカメラとの位置の適切さと完璧さ。そして、深淵たる人物造形。これは主役である丹下左膳の、だけではない。主要登場人物すべてのキャラ付けが素晴らしいのだ! 幾度と繰り返されるセリフのお洒落さと、壷はもちろん招き猫や達磨、小判などの小道具の使い方が絶妙すぎる。

良い場面ばかり・・・というか悪い場面などひとつも無い映画だが、一番好きなのは道場破りのくだりだ。役者の演技とか脚本とか照明とかカメラとか演出とか、そういうものを全て超越した、映画の神が降りてきたような奇跡のシークエンスと言ったら言い過ぎだろうか? いや、それだけこの一連のシーンには驚愕したのだから仕方ない。また、子供が寺子屋で習った字を使って左膳とお藤に別れの手紙を書くあたりなんて、泣かせるじゃないか。言うまでもなくここでは、物語に泣くのではなく演出の巧みさに泣くのである。

自分の生涯ベスト50に入るのはもちろん、ベスト10にすら影響を及ぼすであろう大傑作。今までこの映画を見ていなかった自分に恥じ入るばかりである。

さて、次は『河内山宗俊』を見よう!

★★★★★★★★★★

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