2009年11月30日

ダーティハリー

Dirty Harry
1971年/アメリカ
監督:ドン・シーゲル
出演:クリント・イーストウッド ハリー・ガーディノ アンディ・ロビンソン ジョン・ヴァーノン レニ・サントーニ ジョン・ラーチ

NHKのBS-2は、とにかくあらゆるジャンルの名作を放送してくれるなあ。もちろんCMなしのノーカット。受信料払ってないのに多少罪の意識を感じるところではあるw

さて、70年代アメリカ映画というのは、かつてないほどの多様性を見せた時代である。この『ダーティハリー』は俺が小学生のときに初めて淀川さんの「日曜洋画劇場」(山田康夫の吹き替え!)で観て、アメリカ映画の面白さというものをハッキリと実感した映画でもあった。そう、ドン・シーゲルとイーストウッドによって、アメリカ映画を発見させられたのだ。この映画を観た翌日、学校でイーストウッドの真似をして「ダーティハリー恭平だぜ!」とか言って粋がってたのが懐かしくも恥ずかしい(笑)

おそらく、本作とスピルバーグの『ジョーズ』そしてトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』。この3本が、「面白さ」と大ヒットという「栄光」を同時に獲得した、幸運な70年代アメリカ映画のベスト3だと思う。

光と影の演出。横へ横への移動を始めとした映画内空間の造形。やっぱり技術的にもとても優れた映画だ。黒々と光るマグナム44の迫力と、前半でチンピラをいたぶるシーンとクライマックスのシンクロニシティ。そしてイーストウッドのヒロイックな人物造形。やはりこれは傑作でしょう。

目標の300本まであと25本! 12月で25本か。極端に仕事が忙しくならなければ何とか行けそうですな(汗

★★★★★★★★☆☆

2009年11月28日

レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード

Once Upon a Time in Mexico
2003年/メキシコ=アメリカ
監督:ロバート・ロドリゲス
出演:アントニオ・バンデラス サルマ・ハエック ジョニー・デップ ミッキー・ローク ウィレム・デフォー エヴァ・メンデス ダニー・トレホ エンリケ・イグレシアス

積極的に悪口を言いたくなるようなデキでもないが、傑作『デスペラード』の続編(?)がこれでは困る。せっかく印象的で魅力に溢れた登場人物をたくさん造形しているのに、それぞれの掘り下げ方が甘い。ジョニー・デップのCIAに至っては、何のために登場したのかすらワカラン。脚本に問題があるのか演出が拙いのか、ストーリーがいまいち判りにくい。

銃火器をふんだんに使用し映画内スペースを縦横無尽に使用したガン・アクションは、今作でもかなりの標準にあるとは思うが、そのクオリティが映画的興奮を喚起するに至っているかというとそうでもなく、映画的悦楽にガン・アクションの質が昇華されている、というわけでもない。

まあ簡単に言えば、全てが中途半端なのだ。サルマ・ハエックの出番が少ないのも個人的にNG!

★★★★☆☆☆☆☆☆

Kids Return キッズ・リターン

1996年/オフィス北野=バンダイビジュアル
監督:北野武
出演:金子賢 安藤政信 森本レオ 山谷初男 柏谷享助 大家由祐子 石橋凌 モロ師岡 寺島進 丘みつ子 津田寛治 大杉漣

凡作。

観客に媚びない姿勢は評価したいが、ファンはたけしのこういう映画を望んでいるのではない。アバンタイトルとラストで2人が自転車で校庭をグルグル回るシーンも、感伽うに暗喩の理解を強いており、あまり愉快ではないぞ。

やさぐれた雰囲気を醸し出すモロ師岡や、喫茶店のお姉さん大家由祐子など、脇役のキャラクターがとてもいい味を出しているのはいつもの北野作品。唐突な暴力描写もうまい具合にブレンドされており、決して失望することはないのだけどね。

★★★★★☆☆☆☆☆

フューリー

The Fury
1978年/アメリカ
監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:カーク・ダグラス ジョン・カサヴェテス エイミー・アーヴィング チャールズ・ダーニング キャリー・スノッドグレス アンドリュー・スティーヴンス

ドラマの最後の最後にジョン・カサヴェテスが内臓を撒き散らして木っ端微塵に爆発する。そのシーンだけのために119分が消費される映画と言っても言いすぎではないが、肉体の爆発場面をあらゆる角度から何度も何度も見せるこの描写はとにかく凄まじい。特殊メイク担当のリック・ベイカーはとてもいい仕事をしている。

映画全体で言うと、中盤でちょっと中だるみする。この流れなら90分で収めなきゃイカンでしょうな。しかしまあ、デ・パルマにしてはサスペンスの盛り上げ方もそんなに悪くないと思う。ロビンが屋根から落下して死ぬ場面なんかは「お前さっき浮いてたじゃんかwww」と突っ込みたくもなるが、許せる範囲。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年11月25日

歌行燈

1943年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:花柳章太郎 山田五十鈴 柳永二郎 大矢市次郎 伊志井寛 瀬戸英一 村田正雄 南一郎 吉岡啓太郎

成瀬の芸道モノらしい王道の画面作りと展開を予想していたのだが、いやはや、中盤以降の幻想的な雰囲気にびっくりした。ヒュ~ドロドロとした効果音に乗せてアンマの亡霊が出てくるあたりなんかは、まさか成瀬が怪談映画を狙っていたとは思えないが、得体の知れない只ならぬ雰囲気を感じた。そして、画面全体がとても力強いなあ。

無表情で舞う山田五十鈴の素晴らしさ。この五十鈴の佇まいにも怪奇映画っぽいムードが漂っている。とても立体的な音の使い方を含め、成瀬映画の中でもとりわけ異色作だと思う。惜しむらくは、章太郎が演じた役を長谷川一夫にやってほしかった。

★★★★★★★☆☆☆

2009年11月24日

暖簾

1958年/東宝
監督:川島雄三
出演:森繁久弥 山田五十鈴 中村鴈治郎 乙羽信子 中村メイ子 浪花千栄子 

森繁久弥が父と息子の1人2役を演じる。途中まで気付かなかったが(笑) シネスコの利点を最大限に駆使し、この1人2役を川島は巧く演出している。

山田五十鈴と結婚した初夜の、五十鈴のあまりの肝っ玉ぶりと森繁の情けなさの対比。そしてその直後、屋台うどん屋で寄り添ってうどんをすするシーン。森繁が死ぬラストまで一気に、涙と笑いをふんだんに盛り込んで見せる川島はさすが。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年11月23日

デスペラード

Desperado
1995年/アメリカ
監督:ロバート・ロドリゲス
出演:アントニオ・バンデラス サルマ・ハエック ヨアキム・デ・アルメイダ チーチ・マリン スティーヴ・ブシェミ カルロス・ゴメス クエンティン・タランティーノ

お馬鹿アクション映画の秀作。バンデラスとブシェミのダイアローグの緩さと面白さ。銃撃シーンのカット割とゆったりとしたスローモーション。このへんの演出にはペキンパーの影響もかなり伺い知れる。先日観た『ゴースト・オブ・マーズ』もそうだが、何も考えずに観れば脳味噌が筋肉化すること必至w

やっぱ映画はこうでなくっちゃいけませんな! あんだけの銃撃戦なのに、主役のバンデラスに向かってくる銃弾は、銃弾のほうから避けまくる。そりゃそうさ、主役なんだから、弾丸の方から避けるのが当たり前でしょう。ドン・シーゲルの『ダーティハリー』から引き継がれてきた、アクション映画の方程式だ。いや、たまに居るんだよね。「なんで主人公に弾が当たらないんだ! おかしいだろ!」って言うアホな人達がね。映画の主役なんだから、「当たらない」のが当たり前だろっつーね。なんでこんなことわざわざ説明しなきゃならんのだ、と思うけど。こういう人達は、何が愉しみで映画観てるんだろうね。

それにしてもサルマ・ハエック! 足がすげー細いのにパイオツがドーン!っていうね。いやぁ、ラテン系美女の肢体は素晴らしいですな。特別出演っぽい感じのタランティーノの唐突な登場と、あっさりな殺され方も爆笑必至w

★★★★★★★★☆☆

2009年11月22日

見知らぬ乗客

Strangers on a Train
1951年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ファーリー・グレンジャー ロバート・ウォーカー ルース・ローマン レオ・G・キャロル パトリシア・ヒッチコック ローラ・エリオット

冒頭で足元にカメラを寄せて「接近」の演出。テニスの試合とアリバイ工作をクロスカッティングで見せるの見事さ。ライター、眼鏡、靴などの小道具を効果的に使った演出。とにかくヒッチコックのあざといまでの巧みさが集積された、ヒッチコックのアメリカ時代の最高傑作とも言える完成度の高い映画だ。

テニス会場の観客席と、パルテノン神殿を思わせる建物の片隅でガイがブルーノを発見するシーン。パーティーに紛れ込んでご夫人に殺人講義をするブルーノの不気味さの演出。クライマックスのメリーゴーラウンドでのアクションとサスペンス!

印象的な演出や場面を挙げていけばキリがないほど、魅力的な細部に溢れている傑作です。

★★★★★★★★★☆

2009年11月21日

マグノリア

Magnolia
1999年/アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:トム・クルーズ ジュリアン・ムーア ジェレミー・ブラックマン メリンダ・ディロン フィリップ・ベイカー・ホール フィリップ・シーモア・ホフマン ウィリアム・H・メイシー ジョン・C・ライリー ジェイソン・ロバーズ


先だっての『マルホランド・ドライブ』じゃないけど、俺はもうこの映画を何度も何度も繰り返し見ている。なぜかって? それは、この映画が人々にとって「癒し」を発散する作品だと思うからだ。少なくとも俺はこの傑作を観て救われた1人だ。あらゆる面で壁にブチ当たっていた自分に勇気と希望をくれた映画。これだから映画を観るのをやめられない! 一度NGだった人だって、人生をやり直せる。たとえ明日死ぬとしたって、今日やり直しちゃいけないなんて、誰にも決める権利なんかありゃしない! 

映画の中に溢れ出る、情感。人々のエモーション。かつてサミュエル・フラーは言った。映画とは、「アクション、愛、そしてエモーション」なのだと、それが新興監督のクソ長い作品に唐突に現れようと、果たして我々観客は思うだろうか?

これは果たして映画なのだろうか? NO! これは映画以上の何かだ! これは真実の物語か? 残念だがNO! しかし、この映画で誰も救われないし、誰も何も劇的な事を起こしちゃいない。でも、最後は天から「あれ」が降ってくる。映画の中で、それは確かに「起こった」ことだ。お前らならそれは判るはずじゃないか! 

人生はやり直せる。一度失敗した人間でもやり直せる。やり直しちゃいけないなんて誰が決めたんだ? 自分が生きていく上で、高い壁にブチ当たっているときに出会った映画だから、思い入れはハンパじゃないっす。

そして、ラストシーン。ヤク&セックス中毒になったメリンダ・ディロンは、仲良くなったデブ警官じゃなくて、スクリーンを観ている我々に向かって一瞬、微笑みかける。エイミー・マンのスコアに乗じて、だ。貴方にはそれが信じられる? もし貴方が少しでも時間があるのなら、その事について少しだけ考えてほしい。そして、何度でも何度でも繰り返し、この映画を観て欲しい。その度にあらゆる発見があるはずだからだ。

★★★★★★★★★★

秋日和

1960年/松竹
監督:小津安二郎
出演:原節子 司葉子 岡田茉莉子 佐田啓二 佐分利信 沢村貞子 桑野みゆき 島津雅彦 笠智衆 北竜二

『晩春』では笠の娘役だった原節子が、本作では司葉子の母親役っていうのは果たしてどうなのかw まぁそれを映画史的な事実として観客に納得させむるのは、さすが小津と言っておこうか。

最後のシーンが地方の温泉宿であるところは、なるほど『晩春』の換骨奪胎かもしれない。ストーリーとしてはとても面白いのだけど、映画の一作品としては果たしてどうなのだろう? 原節子はもちろんイイし、岡田茉莉子のドライ加減なんかもとても清々しいのだけど。いや、この映画は岡田茉莉子の映画と言ってもイイのかもしれない。

傑作だと思う。

★★★★★★★★☆☆

2009年11月20日

天空の城ラピュタ

1986年/スタジオジブリ
監督:宮崎駿

宮崎アニメらしい飛翔と疾走のイメージの数々。そしてこの世界観。『風の谷のナウシカ』はもちろん『ルパン三世 カリオストロの城』にすら及ばないとはいえ、『ラピュタ』の映画内での登場人物のテンションと縦横無尽ぶりは、世界に冠たるに恥じない出来栄えと言えるだろう。何より、久石譲の音楽の素晴らしさ。

近年の作品こそ「巨匠」じみた画面作りが鼻につきこそすれ、宮崎駿は少なくとも80年代の日本映画を引っ張ってきた。日本映画界がほとんど壊滅状況のなかで、ひとり気を吐いてきたわけだ。今日の日本映画界の活況を、宮崎駿はどのように見ているのだろうか。

★★★★★★★☆☆☆

2009年11月19日

ゴースト・オブ・マーズ

Ghosts of Mars
2001年/アメリカ
監督:ジョン・カーペンター
出演:アイス・キューブ ナターシャ・ヘンストリッジ ジェイソン・ステイサム クレア・デュヴァル パム・グリア ジョアンナ・キャシディ ジュアン・デイヴィス

火星人ゴーストにとり憑かれた英語の話せない連中をアメリカ先住民インディアンに見立てた、火星を舞台にしたSF風味のウエスタン。『ヴァンパイア/最期の聖戦』以降、カーペンターはようやく自分を優れたアクション演出家として自覚したようだが、本作においては数回観れば脳味噌が筋肉になること請け合いの、見事な頭からっぽ格闘アクションを展開。何度か観ないと良さはわからないかもしれないね。21世紀になってもこんな『ゴーストハンターズ』『ニューヨーク1997』のセルフリメイクのような怪作を放つカーペンター親父には尊敬の念を禁じえない。

アイス・キューブや巨乳ナターシャももちろんいいが、パム・グリア姐さんやクレア”パラサイト”デュヴァルなど、脇を固めるキャストもワクワクするような個性的な面子を集めている。牢屋に悪党4人揃って閉じ込められるシーンや、デュヴァルがあまりにも呆気なく首をスッ飛ばされる唐突さなどは、抱腹絶倒間違いなしだw

カーペンターは最近は劇場映画の演出からは遠ざかっているようだが、まだまだこういう小品をたくさん撮り続けてほしいと切に願う。

★★★★★★★☆☆☆

2009年11月17日

月蒼くして

The Moon is Blue
1953年/アメリカ
監督:オットー・プレミンジャー
出演:ウィリアム・ホールデン マギー・マクナマラ ドーン・アダムス デヴィッド・ニーヴン トム・テューリー

プレミンジャーの人物配置や編集のうまさ。ホールデンのアパート内だけでほとんど物語は進むのだが、ぜんぜん飽きさせないのはさすがだ。マクナマラやデヴィッド・ニーヴンのキャラクターもなかなか面白い。

しかし、ドーン・アダムスがただのアホ女にしか見えず、もう少しストーリーに絡ませてほしかった。まあ、そこまでやっちゃうと110分程度になってしまうだろうし、プレミンジャーにしてはコンパクトにまとまったこのくらいの尺でイイのかもしれない。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年11月16日

東京流れ者

1966年/日活
監督:鈴木清順
出演:渡哲也 松原智恵子 吉田毅 二谷英明 郷えい治 江角英明 川地民夫 浜川智子

清順流美学の集大成か。原色を基調とした舞台装置の美術が素晴らしく、とても見ごたえがある。あんなキチガイじみたセットを映画で使おうとすること自体がすごいw

プロットはかなり使い古されたものだし(でも、途中からワケわかんなくなりますが。ストーリーを上手く語るという意味で、この演出家ほど下手糞な人はいないだろう)、清順のある意味フェティッシュな画面造形がなければ、とっくに忘れ去られている作品だろうと思う。

本作の白眉は、渡哲也がエレベーターと部屋の間の妙な落とし穴(?)に唐突に落下するところ。あの場面は演出もカメラも演技もとてつもなくシュールだ。それと、ラストの銃撃戦。投げた銃を自分で再キャッチして敵を一撃!という、もう中国雑技団的な離れ業をやってのける。まー腹抱えて笑いましたw

★★★★★★☆☆☆☆

2009年11月15日

マルホランド・ドライブ

Mulholland Drive
2001年/アメリカ
監督:デヴィッド・リンチ
出演:ナオミ・ワッツ ローラ・エレナ・ハリング アン・ミラー ジャスティン・セロー ダン・ヘダヤ マーク・ペルグリノ ブライアン・ピーコック


有無を言わさぬ大傑作。

もう何度も何度も何度もこの作品を観ているが、俺はその度にいつも泣いてしまう。それは、ナオミ・ワッツの登場の可憐さと、後半の加速度的に崩れてゆく佇まいの対比だけでは決してない!(しかしながら、ここでのナオミ・ワッツの演技力の凄まじさといったら特筆モノなんだが!) はたまた、ローラ・ハリングの前半の脅えっぷりと後半のふてぶてしさの対比か?(いや、最初からこのハリングのスタンディングは図抜けていたではないか!シャワーを浴びているところをワッツに見られた場面の立ち姿はどうだ!)

長い映画で、ミステリーとしてもサイコ・サスペンスとしても筋立てがとてもよく出来ており(あくまでリンチの映画としては、という注釈は付くのだけどね)、殺人事件を私立探偵まがいに捜索するワッツとハリングももちろんなのだが、ブルーボックスの小道具としての筋立てや、カフェで打ち合わせする気の弱そうな男と刑事のやり取り。どうやら彼らは悪夢を見ていたらしい。しかし、カフェを出たあとの裏通りで悪夢に出たままの浮浪者と対峙し気を失う場面の凄まじい悪意の発散! そして、中盤に唐突に出現するスペイン語での歌劇。「泣き女」の”圧倒的”と呼ぶしかない存在感!

人生で何度か出会うことのできる、魂を根本から揺さぶられる映画です。やっぱりデヴィッド・リンチはすごい。あまりにも切ない切ない、恋愛映画の大傑作。この映画を観ていない人は人生を少しばかり損している、かもしれないね。そう、映画にとって何が重要かは結局、ストーリーの辻褄合わせではなく、映像と音響に他ならないのだから。

観終わったあと、あまりのショックでしばらく座席から立てなくなる映画がたまにある。私にとってはそんな作品のひとつです。凄まじい情感を発動する映画の中の映画。 絶対的映画。

★★★★★★★★★★

2009年11月14日

エル・マリアッチ

El Mariachi
1992年/メキシコ=アメリカ
監督:ロバート・ロドリゲス
出演:カルロス・ガラルドー コンスエロ・ゴメス ジョイム・デ・ホヨス ピーター・マルカルド レーノル・マルティネス

まあ確かにロバート・ロドリゲスの処女作らしい瑞々しさに溢れてはいるけども、アバンタイトルの音響効果以上の演出や映像・音響を、それ以降見ることができなかったのがとても残念だ。マリアッチ役の俳優にまったく魅力がないのもさることながら、演出が押しなべて画一的・・・、というか、もっと面白くできるだろうに!という「残念感」を観ている最中ずっと感じてしまいました。素人の俺にそんなことを思わせる時点で、この映画は果たしてどうなんだろう、と。

しかし予算7000ドルってのはすごいな。きょうび、日本のテレビドラマでも正味45分の作品で役400~500万円が消費されてるというのに。金をかけなくてもソコソコのものは出来るという意味では、興味深い映画ではあると思う。

★★★★☆☆☆☆☆☆

サランドラ

The Hills Have Eyes
1977年/アメリカ
監督:ウェス・クレイヴン
出演:スーザン・レイニア ロバート・ヒューストン マーティン・スピアー ディー・ウォーレス ラス・グリーヴ ジョン・ステッドマン

ウェス・クレイヴンによる『悪魔のいけにえ』の換骨奪胎だが、そんなに出来はよろしくない。が、全体にザラついた映像はとてもよく雰囲気が出ているし、ラストで女が毒ヘビを掴んで仲間の喉笛に噛み付かせ、男がトドメに胸や腹を何度も何度もナイフで突き刺す場面。そこで画面が真っ赤に転じエンドクレジットが重なる演出なんか、個人的にはまあ悪くはないんでは?と思う。聞くところによれば、公開当時はえらく評判悪かったみたいなんで。

邦題のサランドラってどういう意味かねこれ。原題を直訳すれば「丘に目あり」みたいなニュアンスだろうが、サランドラ??

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年11月7日

夜の流れ

1960年/東宝
監督:成瀬巳喜男 川島雄三
出演:司葉子 山田五十鈴 宝田明 三橋達也 白川由美 水谷良重 草笛光子 越路吹雪 志村喬

成瀬と川島の監督としての力量が如何なく発揮されている佳作だが、やはり共同監督のせいか、それぞれのエピソード同士のまとまりに欠け、全体として散漫な印象を与える。ミもフタもないことを言ってしまえば、失敗作かもしれない。冒頭のプールのシーンからして、「ちょっと違うなぁ」という感じがしてしまう。

しかし、山田五十鈴が三橋達也に台所で無理心中を謀る場面、宝田明が尻手駅で新しい花嫁の白川由美を電車飛び込みで失う場面など、衝撃的かつ魅力的な細部に満ち溢れている。五十鈴が46歳という設定で、すっぴんの顔まで晒すわけだが(撮影当時43歳)、三橋に迫る場面の迫力は凄まじい。

成瀬巳喜男、そして川島雄三。二人とも日本を代表する演出家だ。それぞれが単独で監督した映画をやはりたくさん観たい!

★★★★★★☆☆☆☆

裏窓

Rear Window
1954年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジェームズ・スチュワート グレース・ケリー レイモンド・バー セルマ・リッター ウェンデル・コーリイ

閉じた空間で映画は展開されるが、そこはヒッチコック、素晴らしいテクニックと語り口、見せ方で、2時間まったく飽きさせないのはさすが。物語の核心に入るまでの前半、自分にはスチュワートとケリー、リッターそれぞれとの会話が冗長に思え、そこをもう少しスピーディにして全体で100分程度に纏めてほしかったところではある。まあ面白いことに違いはないけども。

しかしこれを観ると、『めまい』はやっぱりグレース・ケリーで撮ってほしかったなあ。

★★★★★★★☆☆☆

2009年11月6日

悪魔の赤ちゃん

It's Alive!
1973年/アメリカ
監督:ラリー・コーエン
出演:ジョン・P・ライアン シャロン・ファレル ジェームズ・ディクソン ウィリアム・ウェルマン・Jr シェイマス・ロック アンドリュー・ダガン

驚くべき緊張感のない映像! どうやってここまで詰まらなくできるのか? 変なズーミングや意味なくピントを外したカメラの使い方も苦学生みたいでイヤだが、まぁこの弛緩したシーンの連続は主に監督の責任でしょうな。音楽や効果音でなんとか盛り上げようという苦心は見えるが、焼け石に水。バーナード・ハーマンのメロウな音楽が泣いてるぞ。

しかし、ラストシーンで父親が自分の赤ちゃんを製薬会社の悪い奴に投げつける場面には衝撃(笑撃)を受けた! あの涙はなんだったんだ(笑) この場面だけで星2つプラスしますw

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年11月3日

ブロークン・フラワーズ

Broken Flowers
2005年/アメリカ
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ビル・マーレイ ジェフリー・ライト シャロン・ストーン フランセス・コンロイ ジェシカ・ラング ティルダ・スウィントン ジュリー・デルピー

まずまず、かなあ。ビル・マーレイのゆる~い感じがとても良かったが。ジャームッシュはどうも肌に合わない。才覚溢れる演出家であることは承知してるんだけど・・・。もちろん『ダウン・バイ・ロー』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』といった昔の作品はとても素晴らしい。ただ、最近のジャームッシュはどうもなあ・・・。狙いすぎ?という感じが。

冒頭の、ジャン・ユスターシュへの献辞はなぜ? ユスターシュの映画に似てるとも思えないけど。

★★★★★☆☆☆☆☆

東京暮色

1957年/松竹
監督:小津安二郎
出演:原節子 有馬稲子 笠智衆 山田五十鈴 杉村春子 高橋貞二 田浦正巳 山村聰 信欣三 藤原釜足

暗い。とても暗い小津作品。自宅に有馬稲子が静かに帰宅する場面などは、まるで60年代イギリスの恐怖映画のような演出。

かなり(小津としては)ドラマティックな構成を、小津らしい淡々としたリアリズムで演出しようと試みるあまり、140分という、当時の日本映画としてもかなりの長尺になってしまい、結果的にはやはりこの長さがこの映画の致命傷と思う。(でも、これでもかなり省略した部分があるのではないかな?)

有馬稲子に尽きる。陰鬱だが、やはりキレイな女優さんだ。山田五十鈴もさすがの存在感。ラスト、青森行きの列車で窓を開けて覗き込み、ウイスキーをぐいと呷る場面。うまいです。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年11月1日

トレインスポッティング

Trainspotting
1996年/イギリス
監督:ダニー・ボイル
出演:ユアン・マクレガー ユエン・ブルムナー ジョニー・リー・ミラー ロバート・カーライル ケリー・マクドナルド

ダメ人間のダメな生活を、ドラッグ、酒、セックス、暴力を織り交ぜて描いているが、とてもとても退屈な映画だ。ドラッグ絡みの映画はたくさんあるが、なぜか自分にはほとんど訴求しない。ソダーバーグの『トラフィック』とかもひどく退屈だった。

同じイギリス映画サブカルの先駆けである『時計じかけのオレンジ』の影響が明らかだが、偉大なる本家には遠く遠く及ばない駄作。天井を這う赤ん坊だって、傑作『エクソシスト3』の出来の悪いパクリにすぎないわけで。

正直言うと、冒頭、マクレガーが汚いトイレの便器に腕を突っ込む場面で、ぜんぜんノレなくなってしまったのも事実。カーライルがビールジョッキを投げつけて女性が血まみれになったりも、どうも下品だ。場面自体が下品なのではなく、演出や映像が下品だ。こういうのを「スタイリッシュ」な映画と言うらしい。「スタイリッシュ」ってなんなんだろ。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆