2009年10月10日

ブルジョワジーの秘かな愉しみ

Le Charme Discret de la Bourgeoisie
1972年/フランス
監督:ルイス・ブニュエル
出演:フェルナンド・レイ デルフィーヌ・セイリグ ジャン=ピエール・カッセル 
ポール・フランクール ステファーヌ・オドラン ジュリアン・ベルトー

ここでもブニュエルのシュールなギャグが炸裂しまくる!

家で食事会のはずがホストが日付を間違え、レストランに行けば店の奥では支配人の死体があり気色悪くて食事どころではない。カフェに行けば紅茶もコーヒーも品切れで水しかなく、やっと食事ができる!と思ったら軍隊の演習に巻き込まれる・・・ってな具合で、ブルジョワの価値観や日常を徹底的に茶化してみせるのだが、そこは天才ブニュエルのこと、一筋縄で行くはずもない。

ある事柄の理由を説明する場面に飛行機やタイプライターの音を被せてみせたり、パーティで些細な口喧嘩からいきなり銃を撃ったり、どこまでが現実かどこからが夢なのかあいまいな作りになっている。劇中とラストに3度ほど出てくる、果てない一本道を出演者たちが会話するでもなくひたすら歩き続ける場面と相俟って、映画全体がかなり綿密に考え抜かれた構成だと思う。驚くほど完成度の高い作品だ。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月9日

慕情

Love is a Many-splendored Thing
1955年/アメリカ
監督:ヘンリー・キング
出演:ジェニファー・ジョーンズ ウィリアム・ホールデン イソベル・エルソム ジョージャ・カートライト トリン・サッチャー マーレイ・マシソン

戦後の香港を舞台に、特派員記者の男と医師の女が恋に落ちる”よろめき型”メロドラマの秀作。

冒頭で救急車が香港の街中を縫うように疾走する躍動感、湖の向こうにある友人宅に2人で泳いで行くというセンスとか、ここの場面もとても面白い。ジェニファー・ジョーンズがイギリス人と中国人のハーフというむちゃくちゃな設定なのだが、それを映画的事実として観客に正面から受け止めさせるのは、キングの演出が優れているからだと言い切ってしまって良いと思う。重慶で叔父一家と再会するシーンの違和感なんて、別にどうでもいいではないか!

中盤とラストに出現する、頂上に小さな木が立った丘の草原。この斜面の描写がとても印象的。というか、この丘の場面がなかったら凡庸な作品だと思うぞ。ラスト、その丘でジョーンズが泣き崩れるも健気に起き上がり、丘をゆっくりと降りてくる場面にTHE ENDの文字が重なる。このあたりの演出センスもとても好きだ。シネスコを効果的に使った画面設計も見事。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月8日

プレイタイム

Playtime
1967年/フランス
監督:ジャック・タチ
出演:ジャック・タチ バーバラ・デネック ジャクリーヌ・ル・コンテ

特に前半のビルディング内の造形などはとてつもない映画的空間で、美術とセットの素晴らしさは当時のフランス映画の中でも群を抜いている。たくさんの登場人物の画面内での配置、アクターズディレクションの秀逸さ、なおのこと完璧主義者タチの作品なのだから、相当なお金と撮影日数がかかっているんだろう。しかし、後半のレストランの場面はギャグも画面の面白さもやや影を潜め、退屈してしまう。

そんなわけで、タチ渾身の大作ではあるが、胸を張って「傑作」と言えるデキではないと思う。しかし、画面ひとつひとつの面白さは、映画ってやっぱりイイなあと我々に改めて実感させる。そういう意味では、好き嫌いを超えた次元に位置している作品だ。こんな映画をわざわざ金たくさんかけて70ミリで撮る人間はタチかシュトロハイムくらいしか居ないだろう。タチはやっぱりすごい。

★★★★★★★☆☆☆

インフェルノ

Inferno
1980年/アメリカ=イタリア
監督:ダリオ・アルジェント
出演:リー・マクロスキー アイリーン・ミラクル アリダ・ヴァリ サッシャ・ピエトフ ダリア・ニコロディ

「三母神」という本に書かれた3人の魔女のひとりが、1900年代初頭に建てられた自分の住んでるアパートに存在しているらしい・・・という、とてもワクワクするような筋立てなのだが、アルジェントは途中から完全にストーリーテリングを投げ出し、イメージの積み重ねで映画を構築していく。大学でマークを見つめる女性は何だったのか?など、序盤で提示された伏線はほとんど回収されないまま映画は終わる。

が、錠前や鏡、猫、ネズミなど、小道具の使い方はアルジェントの真骨頂。原色を基調とした画面作りも、なかなか怪奇映画っぽくてがんばっている。これは特殊効果を担当したマリオ・バーヴァの功績も大きいか。登場人物が脈絡もなくいきなり猫の集団に襲われたり、ネズミの大群に食われそうになったりするのだが、とどめを刺すのはいずれも人の手によるナイフ。特にネズミのくだりは、池のほとりで移動店を開いていた店主が、助けにくると思ったらいきなり刺すもんだから、もうびっくりします。まぁ、そういうところ含めてこの映画の魅力でしょう。

ラストでは唐突に魔女が出現する。それもあまりにも唐突なので笑ってしまったw

★★★★★★★☆☆☆

2009年10月5日

大いなる遺産

Great Expectations
1998年/アメリカ
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:イーサン・ホーク グウィネス・パルトロー ハンク・アザリア 
ロバート・デ・ニーロ アン・バンクロフト クリス・クーパー

紛れもない傑作。

少年と少女が水飲み場でねっとりとキスを交わす場面。個展の初日、ジョーおじさんが現れてから会場に漲る緊張感。そしてその緊張感はグラスが割れる音とともに一気に頂点に向かう。慈善パーティーから中華料理店へ至るロングショット。ラストで屋敷の向こう側の出た海辺にエステラと少女が佇む聡明で美しいカット。・・・などなど、ハッと息を飲む優れた画面、場面の連続だ。やはりキュアロンはいい! 『トゥモローワールド』で感じたキュアロンの才能への矜持が、この映画で確信に変わった。

なんだかんだいってもパルトローはやはりきれいな女優なんだが、そのエステラの少女時代の子役がめちゃめちゃ可愛い。デ・ニーロの登場はとって付けたような感じも、キチガイババアを演じたアン・バンクロフトはさすがの貫禄。

★★★★★★★★★☆

2009年10月4日

東京上空いらっしゃいませ

1990年/ディレクターズカンパニー
監督:相米慎二
出演:牧瀬里穂 中井貴一 笑福亭鶴瓶 毬谷友子 三浦友和 谷啓 藤村俊二

相米らしい映画と言えばこれほど相米らしい映画もない。

バーガーショップでたくさんの注文を受けた牧瀬がノリノリでハンバーガーをつくるシーンのワンカットの興奮。結婚式で牧瀬が井上陽水の「帰れない二人」を歌い踊るシーンの高揚感。中井貴一が住むアパートの映画的造形。そして、牧瀬の広告がそこかしこに溢れた川越の街!

相米にはこういう小品をずっと撮り続けてほしかった。こういう、プログラムピクチャーの中で発揮される映画的空間こそが相米の真骨頂だと思う。ストーリーや説話論的な破綻など取りに足らん。

★★★★★★☆☆☆☆

プレタポルテ

Pret-a Porter
1994年/アメリカ
監督:ロバート・アルトマン
出演:マルチェロ・マストロヤンニ ソフィア・ローレン ローレン・バコール
   ジャン=ピエール・カッセル キム・ベイシンガー アヌーク・エーメ
   ティム・ロビンス ジュリア・ロバーツ ルパート・エヴェレット

やはりアルトマンは天才だ!(しつこい?)

このキャストの配置というか、画面の中で誰をどう動かすみたいなものに決定的に長けている演出家だと思う。最近観たばかりの『ゴスフォード・パーク』と比較すると全体に散漫な印象は拭えないが、ラストのアイロニーをはじめとして、ファッションやモードの世界を徹底的に皮肉った視点、演出はアルトマンにしか出来ない。(というか、ギャグの定番とかが『ゴスフォード・・』より俺は好きなだけなんだがw)

豪華キャストは見ごたえがある。狂言回しっぽい役割のマストロヤンニはまあいいとして、ゲイのデザイナー役のフォレスト・ウィッテカーや、グラマラスなおばさんのテリー・ガーが個人的に好きだ。ただ、ホテルの部屋にこもってひたすらセックスしまくるティム・ロビンスとジュリア・ロバーツのエピソードは必要だったのか? まぁ二人とも好演してるからいいけど。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月3日

ヘルハザード/禁断の黙示録

The Resurrected
1991年/アメリカ
監督:ダン・オバノン
出演:クリス・サランドン ジョン・テリー ジェーン・シベット

もうとにかくこの映画は、出来損ないクリーチャーの造形の気持ち悪さに尽きます。中世の場面、草むらに横たわった顔が半分欠けたクリーチャーがゴソゴソと蠢いているところ、更に、後半の地下室で腐り切って今にも崩れ落ちそうなグロテスクなクリーチャーが暴れまわるシーンは、映画史に残るだろう(嘘) あと、ラストでがい骨がムクムクと起き上がり、殺された相手からグチョグチョと血肉を吸収するシーンのインパクトは、トビー・フーパーの映画に通ずるものがあってなかなかよろしい。

サスペンス演出などにオバノンの才気と活力は感じられるのだが、ミもフタもないことを言ってしまえば、クリーチャーの気色悪さしか印象に残らない映画でもあります。ラヴクラフトを忠実に映画化しようとしたオバノンをはじめとした製作スタッフの志に免じて星6つです。

★★★★★★☆☆☆☆

マイノリティ・リポート

Minoritiy Report
2002年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・クルーズ コリン・ファレル マックス・フォン・シドー サマンサ・モートン ロイス・スミス ピーター・ストーメア

中盤からの展開は完璧にフィルム・ノワールだなこれは(笑) 裏通りのやさぐれた雰囲気で展開される追いつ追われつの展開とかがとても面白い。前半はどうもダラダラした展開だったが(『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』を想起させるダラダラ感)、半ば以降のスピード感はとてもイイと思います。あと、ブリコグ(もちろん主にアガサ)の禍々しさなんかも、もちろんとても映画的で素晴らしい。

ここまで判りやすい映画は好きですよ。コリン・ファレルをシドーが一瞬にして射殺する場面の唐突さとか、眼科医のストーメアとその相棒(なぜかトムのケツを触りまくる)とトムのやり取りなんかとても面白い。なんだかんだ言ってもやっぱりスピルバーグは上手だよ。

やっぱり70年代中盤以降のアメリカ映画はある意味、スピに支えられた部分もとても大きいと思うんだよね。実は悪役のお偉いさんにマックス・フォン・シドーを持ってきたり、予知夢の中の殺される女が『サスペリア』のジェシカ・ハーパーだったり、やっぱ”そういう”ジャンルにスピルバーグは興味があるんだろうなぁ。でも真正面からそういう映画に取り組めないところが「巨匠」のつらいところではあるが。

おいおまえら、もっとスピルバーグを評価しようや。・・・というより、2040~2050年代の映画ファンは、スピを物凄く見直してるような気がします・・・なんとなくですが。

★★★★★★★☆☆☆

騎兵隊

The Horse Soldiers
1959年/アメリカ
監督:ジョン・フォード
出演:ジョン・ウェイン ウィリアム・ホールデン コンスタンス・タワーズ アルシア・ギブソン フート・ギブソン アンナ・リー

フォード晩年のウエスタンだが、主演がウェインでそれに絡む軍医がホールデンなんだから、まあ観てて安心できることは間違いないです。さすがにもう特に目新しいモノはなくなってるのだが、西部劇のツボはしっかり押さえてるし、タワーズの南部女のやんちゃぶりもイイし、何よりホールデンのクールな演技が素晴らしいと思う。粗暴なウェインとの対比が際立っており、ラストで軽く握手するとこなんかグッと来た。

★★★★★★☆☆☆☆

アカルイミライ

2002年/「アカルイミライ」製作委員会
監督:黒沢清
出演:オダギリジョー 藤竜也 浅野忠信 笹野高史 白石マル美 りょう 加瀬亮 はなわ 松山ケンイチ

黒沢清の中でもとりわけ奇妙な味わいを持った作品だが、これはなんとも評価の難しい映画だ。危険な映画と言っていいかもしれない。だが、「これが現代日本映画だ!」と断言できる自信もなければ、正直言って、胸を張って「面白い」と言う自信もない。暗喩に満ちた作り自体が好きではないし、意味なくザラつかせた画面の質感も俺好みではない。

日本映画を託すべき存在の黒沢清がこういう方向に行ってしまってはイカンのだが、この後はしっかり『LOFT ロフト』『叫』で軌道修正を試みているのは良しとしよう。

ミもフタもないことを言ってしまえば、浅野忠信が独房での自殺で早々に映画から退場してしまうのが最大の欠点だと思うのだがどうか。それだけ浅野忠信という役者は映画の空気そのものを左右する存在にまで至っている。黒沢清は浅野に「あなたが演じるのはテロリストです」というアドバイスをしたらしい。ここで浅野が演じるのは正に、テロリストとしか言いようのない存在である。

クルマの画面分割はフライシャーの真似か? あまり上手くいってないし、これはちょっと見てて恥ずかしいなあ。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年10月1日

ヘルボーイ

Hellboy
2004年/アメリカ
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ロン・パールマン セルマ・ブレア ルパート・エヴァンス 
ジョン・ハート カレル・ローデン ジェフリー・タンバー

お話は単純で、ヘルボーイ(=ロン・パールマン)のキャラもいい感じに決まっている。後半はお仕着せの展開&アクションでやや辟易するが、前半のゴシックセンスはなかなか良かった。しかし、この尺の長さはどうにかならんのかね。最近のアメリカ映画はこういうモンだと思って諦めるしかないのか?

ヘルボーイ自身より半魚人のキャラクターのほうが好きなのだが、あまり活躍の場がなく残念。セルマ・ブレアはセキゾチックな魅力に溢れたイイ女。そして何より、クロエネンの邪悪さが最高ですね。セリフが一切なく、両腕ギミック付きのナイフで敵(映画的には味方)を一網打尽! マスクを取った素顔は瞼と唇がなく、血も粉末状になっているという設定。こういうウォーズマン(キン肉マンに出てくる超人です。知らんか?)みたいなキャラは大好き。個人的には、パールマンのヘルボーイより、周囲のキャラクターのほうが目立ってました。

★★★★★★☆☆☆☆