2009年12月27日

【総括】2009年ベスト10!!

 今年は当初の目標は100本の映画を観ることだったのだが、あれよあれよで300本になってしまった。

 300本と言えば1日1本弱、週6本ペースであり、映画批評家並みのハイペースで映画を観続けていたことになる。まったくいい社会人が何をやってるのかとw まぁ、いわゆる一般的な(?)テレビ番組・・・バラエティとかは殆ど見ないし、たまにニュースを見るくらいのものだから、普通の人達がテレビを見る時間が映画鑑賞に充てられている、と考えていただければ、そんなに違和感は無かろうと思うわけで。

 で、本来はこういうランキングは「2009年劇場公開作品」とかでやるべきなのだろうが、今年の映画体験はほとんどテレビの衛星放送やDVDでなされたものであり、かなり異質なベスト10になってしまった。ま、普通のリーマンが300本の映画を観るのだから、映画館中心じゃムリなわけですw

 ★の数でその都度、採点をしてきた。満点や★9は、300本の中で僅かに29本しかなく、しかもそのうち19本は「2度目以降」の観賞であり、今回は純粋に「初めて」観た映画から、ベスト10を選出しました。

 しかしこれが「生涯ベスト10」とでもなると話は別で、こんなブログに気軽に書くべき性質のモノではない。言ってみればそれはシネフィルとしての全人格を賭した戦いであり、当然、発表する相手も相当なシネフィル=映画マニアでなければならない。お互いに生涯で何千本もの映画を観た中で、その全人格をぶつけ合うのだ。

 幸いにして、このブログを見てくれている数少ない人達はシネフィルでもなければ映画オタクでもない(と思う)。「今年観たベスト10」ってことでお茶を濁しておこう。

 1位 『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(山中貞雄)1935年
 2位 『パンチドランク・ラブ』(ポール・トーマス・アンダーソン)2002年
 3位 『人情紙風船』(山中貞雄)1937年
 4位 『鬼軍曹ザック』(サミュエル・フラー)1950年
 5位 『バード』(クリント・イーストウッド)1988年
 6位 『暗黒街の弾痕』(フリッツ・ラング)1937年
 7位 『Dolls ドールズ』(北野武)2002年
 8位 『大いなる遺産』(アルフォンソ・キュアロン)1998年
 9位 『見知らぬ乗客』(アルフレッド・ヒッチコック)1951年
10位 『クラッシュ』(ポール・ハギス)2004年

 意外や意外、21世紀に入ってからの作品が3本もランクイン。かと思えば1930年代のトーキー初期の作品も3本が入っている。ま、古かろうと新しかろうと、面白いものは面白いわけだ。アメリカ映画7本に日本映画3本というのも、自分の嗜好からすれば順当と言える。

 来年はさすがにこのペースで映画を観ることはない、と思う。ブログの形式も、ちょっと変化をつけてみようかな。では皆さん、よいお年を!

2009年12月26日

キャプテン・スーパーマーケット

Army of Darkness
1993年/アメリカ
監督:サム・ライミ
出演:ブルース・キャンベル エンベス・デイヴィッツ マーカス・ギルバート イアン・アバークロンビー リチャード・グローヴ ブリジット・フォンダ

「死霊のはらわた」シリーズの第3弾だが、これはもう完全にアクションヒーローものになってしまっている。それで面白いならいいんだけども、アッシュが中盤で独り芝居する一連のシークエンスはまぁ面白いとしても、ブルース・キャンベルがヒーローとしてはあまりにも胡散臭いのが最大の欠点だと思う。

映画制作の技術的なことを言えば、ライミをはじめとした製作スタッフの成長もあり、本作が最も上だと言えるのだが、映画的な面白さは第2弾がもっとも優れていると個人的には感じる。カルト映画を狙って作ったようなあざとさも、どうもね。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年12月23日

ダークシティ

Dark City
1998年/アメリカ
監督:アレックス・プロヤス
出演:ルーファス・シーウェル キーファー・サザーランド ジェニファー・コネリー ウィリアム・ハート リチャード・オブライエン イアン・リチャードソン

藤子不二雄の傑作マンガ「笑ゥせぇるすまん」のハリウッド版実写化映画(すみませんウソです)。

うーん、つまらない。邪悪さが足りないのだ。ストレンジャーの描き方にしてもそうだが、街全体の雰囲気なんかもまだまだ邪悪にしなきゃならんと思う。もっともっと面白くできる舞台は整ってるのに、「もっと努力しろ」と言いたくなってしまう。

カット割りがとても忙しい。最近は古い日本映画ばかり観ていたので、少々疲れるなー。ま、これは最近のこのテの映画にはありがちな処置なので、そこに文句言っても仕方ないんだけどね。

この頃のジェニファー・コネリーはやっぱりカワイイね。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年12月22日

人情紙風船

1937年/東宝
監督:山中貞雄
出演:中村翫右衛門 河原崎長十郎 山岸しづ江 霧立のぼる 瀬川菊之丞 橘小三郎 市川笑太郎 市川莚司

オープニングからラストカットまで、全編の隅から隅まで「死」の臭いが纏わりついた山中貞雄の遺作。もちろん、おたきを演じる山岸しづ江の不気味なまでの悲愴感がそれに拍車をかけていることは間違いないだろうが、それにしても何と厳格で聡明な演出だろう。役者の情感をフィルムに定着させる術においても神業だ。最後の10分間は涙が出そうになった。ラストで側溝にゆっくりと落ちて揺らぐ小さな紙風船・・・!

思えば、これほど天才の遺作に相応しいペシミスティックな情感に満ち溢れた映画もないだろうと思う。この傑作を最後に山中貞雄は中国へ出征し、戦死を遂げてしまった。名誉の戦死なんかではない。世界に誇る逸材を失った戦争の代償は計り知れない。

最近のCGばかりのハリウッド映画や、TVドラマに毛が生えた「映画」とも呼べないようなシロモノに食傷気味になっている貴方、ぜひこの『人情紙風船』を観てみなさい。間違いなく当時の日本映画はアメリカ映画、ドイツ映画と並んで世界最高峰のクオリティと完成度を発揮していた。本作を観ればそれを充分に理解できるだろう。また、山中貞雄という人がいかに偉大であったかも瞬時に実感できるはずだ。

★★★★★★★★★☆

2009年12月20日

私は告白する

I Confess
1953年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:モンゴメリー・クリフト アン・バクスター カール・マルデン O・E・ハッセ ドリー・ハス ブライアン・エイハーン チャールズ・アンドレ

無罪判決が出たあと、神父が退廷し階段をゆっくり降りて裁判所の正面玄関から出て、車に乗り込もうとするも群集に飲まれる。そして、真犯人の妻が神父の元に駆け寄り、その真犯人の夫に撃ち殺されてしまうまでの一連のシークエンスが圧倒的だ。その前の裁判のシーンがどうもグダグダしてて眠くなったのだが、あれで一気に目が醒めた。

タイトルバックのかっこよさや、クライマックスで真犯人をクローズアップせずに終始「引き」の画で演出するなど、ヒッチコックのセンスが充分に堪能できる逸品だ。

★★★★★★★☆☆☆

幕末太陽傳

1957年/日活
監督:川島雄三
出演:フランキー堺 左幸子 南田洋子 石原裕次郎 芦川いずみ 市村俊幸 金子信雄 山岡久乃

面白い。とても面白いが、世間で言われるほどの傑作ではないと思う。

川島のアクターズディレクションの巧みさはここでも素晴らしいし、フランキー堺のコミカルなセリフ回しと動きなんて見てて惚れ惚れするのだが、今ひとつ全体に散漫な印象を与えるのは、カットごとの余韻がちょっと短すぎるからかもしれない。おそらく長尺になるのを恐れての処置だったのだろうが、130分近くになってもいいから、もう少しワンカットワンカット毎のイメージの残響が欲しかった気もする。

★★★★★★★☆☆☆

2009年12月19日

ダーク・ハーフ

The Dark Half
1993年/アメリカ
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:ティモシー・ハットン エイミー・マディガン マイケル・ルーカー ジュリー・ハリス ロバート・ジョイ ケント・ブロードハースト

う~ん・・・さっぱりワケがわからないが、これではまるでヒッチコック『鳥』の出来の悪いリメイクではないか。ジョージがスズメの大群に血肉どころか骨まで食べ尽くされるゴアシーンはなかなか悲惨でよろしいが・・・。まぁ、日本劇場未公開なのも致し方ないと言えますな。

人が画面にバッと出てきて、それと同時にジャーン!と音楽を鳴らせば、驚くのは当たり前なのであってね。ロメロ君、そういうのはお化け屋敷と何ら変わりはなく、映画における「演出」とは呼ばんのだよ。手を抜いちゃダメです。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年12月18日

旅役者

1940年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:藤原鶏太 柳谷寛 高勢実乗 清川荘司 御橋公 深見泰三 中村是好

戦前の成瀬「芸道もの」の1本だが、これは出来が良くない。ラストシーンの本物の馬と着ぐるみ馬との追いかけっこなんて、愚にも付かない。成瀬がこれじゃダメだと思う。締まりがないんだもの。

脚色自体も成瀬がやってるってことがダメなのかね。シナリオとかは他人に任せて演出に専念したほうがいい映画を撮る人なのかもしれない。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年12月17日

河内山宗俊

1936年/日活
監督:山中貞雄
出演:河原崎長十郎 中村翫右衛門 市川扇升 原節子 山岸しづ江 市川莚司 助高屋助蔵 坂東調右衛門

映画は複合芸術と言われるが、まったく映画ほど、驚くほど通俗的な賛辞の似合うメディアもそうは無いと思う。例えば「ガンアクションがカッコよかった」とか「ヒロインの女優さんが活き活きしていた」とか「音楽のタイミングが絶妙だった」など、他の芸術や文化(例えば絵画や詩、文学など)を前にしては恥ずかしくて口に出来ないような賞辞が次々と繰り出される。

本作はフィルムの状態がとても悪く、セリフが半分以上聞き取れない。字幕スーパーが欲しいくらいだ(BS2で見たが、DVDでは字幕が付いているらしい・・・。今度はDVDを借りてこよう)。それでもこれだけ面白いんだから大したモノだが、やはり先般の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』と比べると数段落ちる。まあ『丹下・・・』が空前絶後の大傑作だから仕方ないけどw それでも、河原崎長十郎の小粋な感じや若かりし頃の原節子の可愛さを、正にその通俗的な賛辞で支えることができる。そう、けっきょくは映画を見る楽しみの本質なんて、暗がりで俳優の顔を見つめることに他ならないのだから、そもそもが露骨で際どい性質のモノなのだ。

クライマックス、掘でのモブシーンにおける手前と奥行き、上下左右の空間の切り取り方には、山中貞雄の卓越したセンスを感じる。まったく映画的と言うしかない。まあ、なんというか、天才なんですねやっぱり。

★★★★★★★☆☆☆

2009年12月15日

丹下左膳餘話 百萬兩の壺

1935年/日活京都
監督:山中貞雄
出演:大河内傳次郎 喜代三 沢村国太郎 山本礼三郎 花井蘭子

先月11月にBS2で3日連続で放映した、山中貞雄の現存するフィルム3本。その撮りためておいたものを満を持して観賞。そのうちの1本である。

俺はこれが初めての山中貞雄作品なのだが、完璧だ。完璧すぎる! 先日観た成瀬の『乱れる』同様、この映画がずっと終わらなければいい、そう思いながら観る作品だ。「これで92分はあまりにも短すぎる」という心境になることの贅沢さ! 70年以上前、戦前の日本映画がこれだけの完成度を誇っていたのだ! 同時期のハリウッド映画、そう例えばエルンスト・ルビッチのスクリューボール・コメディのような佇まい。

人物とカメラとの位置の適切さと完璧さ。そして、深淵たる人物造形。これは主役である丹下左膳の、だけではない。主要登場人物すべてのキャラ付けが素晴らしいのだ! 幾度と繰り返されるセリフのお洒落さと、壷はもちろん招き猫や達磨、小判などの小道具の使い方が絶妙すぎる。

良い場面ばかり・・・というか悪い場面などひとつも無い映画だが、一番好きなのは道場破りのくだりだ。役者の演技とか脚本とか照明とかカメラとか演出とか、そういうものを全て超越した、映画の神が降りてきたような奇跡のシークエンスと言ったら言い過ぎだろうか? いや、それだけこの一連のシーンには驚愕したのだから仕方ない。また、子供が寺子屋で習った字を使って左膳とお藤に別れの手紙を書くあたりなんて、泣かせるじゃないか。言うまでもなくここでは、物語に泣くのではなく演出の巧みさに泣くのである。

自分の生涯ベスト50に入るのはもちろん、ベスト10にすら影響を及ぼすであろう大傑作。今までこの映画を見ていなかった自分に恥じ入るばかりである。

さて、次は『河内山宗俊』を見よう!

★★★★★★★★★★

悪魔の追跡

Race with the Devil
1975年/アメリカ
監督:ジャック・スターレット
出演:ピーター・フォンダ ウォーレン・オーツ R・G・アームストロング ララ・パーカー ロレッタ・スウィット

こういう映画を観ると、本当にアメリカ映画の芸と底力を感じる。

悪魔崇拝連中の主人公たちへ嫌がらせとして、犬を殺して吊るし、バカでかい毒蛇を2匹キャンピングカーに放し、挙句の果てには前後左右から車をぶつけまくるカーチェイス。嫌がらせの方法としてもうワンパンチあれば9点あげてもいいくらいのデキ。特にカーチェイス場面の迫力、適確なカット割りの技術には唸ってしまう。ガソリンスタンドの電話の前で果物ナイフでリンゴを剥いている老婆がいるのだが、フォンダの繋がらない電話の最中にその老婆を画面の中に30秒ほど登場させず、見えない中で「老婆がナイフで襲い掛かるのではないか?」と観客に思わせる場面とかね。こういう細かい演出がイイと思う。

ピーター・フォンダにウォーレン・オーツという、70年代を代表するアウトロー俳優が主役だなんて、アメリカ映画ファンとしては嬉しくなってしまうね。中盤でキャンピングカーに半ばむりやり押し入る異様な夫婦(旦那の髪型がヘンだw)、ガソリンスタンドの店員など、不安を煽るキャタクタリゼーションも上手いなぁ。

★★★★★★★★☆☆

2009年12月14日

モデル連続殺人!

Sei Donne Per L'assassino
1963年/イタリア
監督:マリオ・バーヴァ
出演:エヴァ・バートック キャメロン・ミッチェル トマス・レイネル クロード・ダンテス ダンテ・ディ・パオロ リー・クルーガー

赤と青の原色を効果的に使ったコントラストのきつい映像、そして、時代考証を超越した舞台設定はバーヴァ組の美術の真骨頂と言える。しかし、この映画は正直言って面白くない。モデルの殺し方をバラエティ溢れる形で見せてはいるものの、カット割りのクドさや画面全体の「暗さ」が俺好みじゃないのだ。アルジェントの同じジャーロ系作品の方がいろんな意味で完成度に優れていると思う。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年12月13日

女の歴史

1963年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:高峰秀子 宝田明 仲代達也 山崎努 賀原夏子 淡路恵子 草笛光子 加東大介 藤原釜足

物語の優先性が本作では明らかになる。演出の不備とか脚本の綻びはあまり問題にはならないのだろうな。高峰秀子。そう、大した女優だ。こんな大作で実に大らかに「女の一生」を演じる。ストーリーの見事なリズムにただ、身を委ねていればいいのだ。義父が死ぬ。夫が死ぬ。そして息子が死ぬ。そうなのだ。この死のリズムだ。この死の120分超のリズムが日本映画には大事なのだと思う。

★★★★★★★☆☆☆

2009年12月12日

戦争のはらわた

Cross of Iron
1975年/西ドイツ=イギリス
監督:サム・ペキンパー
出演:ジェームズ・コバーン マクシミリアン・シェル ジェームズ・メイソン センタ・バーガー デヴィッド・ワーナー

コバーンの部下がソビエト女兵に強制的にフェラチオさせ、チンポを噛み切られるシーン。これは男の普遍的な悪夢を具現化した場面であり、強烈に印象に残る。その後、他の女兵に集団リンチさせ嬲り殺しの目に遭うわけだが、ああなっちゃ死んだほうがマシな気もするな(汗)

無能で人間的にも最低な上官をマクシミリアン・シェルがねっとりと演じる。ラストでコバーンが彼をむりやり最前線に引っ張り出すも、銃弾の装填方法がわからずにオロオロ。それを見て大声で嘲笑するコバーンの笑い声にエンドクレジットが重なる。シェルがコバーンに殺されるラストを予想していたが、これは意外だったし、鮮明に脳裏に焼きつく。

コバーンのヒロイズムとダンディズム・・・つまりカッコよさが出色。ひとつひとつのカットがとても丹念に作られている。戦争映画の傑作と言っていいと思う。ただ、ペキンパー印のスローモーション演出がこの頃になると既に通過儀礼っぽくなっている印象があり、敵味方問わず兵士が打たれ死ぬカットでのスローモーションがやや鼻に付く。面白い映画であることに変わりはないけど。

★★★★★★★★☆☆

ガス人間第1号

1960年/東宝
監督:本多猪四郎
出演:三橋達也 八千草薫 土屋嘉男 左卜全 佐多契子 野村浩三

こっちの映画はもう、ガス人間の変身シーンが出来がどうとか、土屋嘉男が惚れた女のために犯罪を犯しまくることに全く共感できないだとか、佐多契子があまりにも大根だとか、そんなことは全てどうでもよくなるくらい八千草薫がメチャメチャきれいです。八千草が出るシーンだけ画面の空気感がぜんぜん違うんだよなー。

しかし当時の東宝の美術は凄い。ラストで八千草が日舞を披露する演芸場はロケだろうけども、銀行の金庫とか、中盤で出てくる科学実験室のくだりとか、いやまぁなんとも贅沢な作りです。

★★★★★☆☆☆☆☆

美女と液体人間

1958年/東宝
監督:本多猪四郎
出演:白川由美 佐原健二 平田昭彦 土屋嘉男 千田是也 田島義文

『マタンゴ』などに連なる東宝特撮路線の1本。『マタンゴ』のほうが世間的には評価が高いようではあるが、個人的にはこっちが好み。

まあ、白川由美のいかがわしい色気なんかもポイント高いんだけど、やっぱりあの液体人間の動きに尽きる。安部公房の傑作短編「洪水」にインスパイアされたかのような設定なのだが、液体力学の法則を全く無視して壁を這い上がり、触れた人間もまた液状化してしまうという、液体人間のこわさを上手く演出してると思う。液体化する人間は「だんだん」溶けていくのだが、この「だんだん」ってのがミソで、この肉体の変容仮定をじっくり陰惨に見せることで、特撮SFがたちまちホラー映画と変貌するのだ。

あのヤクザがなんでわざわざ白川由美を下水道構に連れて行ったのか?など、シナリオ上の不備は散見されるものの、まあ大した問題ではないでしょう。

★★★★★★★☆☆☆

2009年12月10日

マディソン群の橋

The Bridges of Madison County
1995年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド メリル・ストリープ アニー・コーリィ ヴィクター・スレザック ジム・ヘイニー ミシェル・ベネス

とても丁寧に作りこまれた、ウェルメイドな大人の映画。初めて観たのだが、若い頃に観ていても今ひとつピンと来なかったかもしれない。

どしゃぶりの雨の中でずぶ濡れになりながら立って、車中のフランチェスカを見つめるロバート。そして、信号待ちの僅かな時間の中、ペンダントをバックミラーに掛けてフランチェスカの決断を迫る場面。この繊細でセンシティブな演出には心底感服すると同時に、とても感動した。そして、イーストウッドの映画における画面と音の透明さは、この頃から静かに現出している。

★★★★★★★☆☆☆

2009年12月9日

舞台恐怖症

Stage Fright
1950年/イギリス
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジェーン・ワイマン マレーネ・ディートリッヒ リチャード・トッド アラステア・シム ケイ・ウォルシュ パトリシア・ヒッチコック

日本劇場未公開の、ヒッチコックがイギリスに戻って撮った作品。冒頭の車で逃げる場面と、フラッシュバックとの整合性が無いなど、シナリオや演出の不備が見受けられ、そんなにデキはよろしくない。ワイマンの父親の行動もあまりに突飛すぎて白ける。その父親、「自分は変人だから」と台詞で告白してはいるのだが、ヒッチほどの演出家なのだからそれが免罪符にはならないだろう。

しかし、クライマックスのサスペンス演出でグイグイ押しまくるあたりはさすがだ。イギリス映画だし、監督がヒッチコックじゃなかったらとうの昔に忘れ去られていた映画だろう。大物舞台女優を演じるディートリッヒの迫力!

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年12月8日

エル・ドラド

El Dorado
1966年/アメリカ
監督:ハワード・ホークス
出演:ジョン・ウェイン ロバート・ミッチャム ジェームズ・カーン アーサー・ハニカット シャーリーン・ホルト エドワード・アズナー R・G・アームストロング

もうこうなると完全に予定調和の世界で、まぁホークス監督の西部劇でウェインとミッチャムがメインでクレジットされるキャスティングなのだから、面白くないはずがない。突き抜けるモノがないのは仕方ないかもしれんが、ミッチャムのキャラクターの立ちっぷりだけでも充分に楽しめる。

以前も書いたかもしれんが、西部劇というジャンル自体、実はあまり好きではない。ただ、イーストウッドの『ペイルライダー』と『許されざる者』、フライシャーの『スパイクス・ギャング』だけは別格だけどね。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年12月7日

残酷の沼

Torture Garden
1967年/イギリス
監督:フレディ・フランシス
出演:バージェス・メレディス ジャック・パランス ピーター・カッシング マイケル・ブライアン ビヴァリー・アダムス ロバート・ハットン バーバラ・イウィング

おどろおどろしい怪奇映画という感じではないが、オムニバス形式でそれぞれのお話がうまく捻ってあり、なかなか面白い。特に、意志を持ったピアノが嫉妬心にかられ女性に襲い掛かる3話目と、エドガー・アラン・ポーが現代に甦る4話目が秀逸。これは演出よりも脚本・原作のロバート・ブロックの力に依るところも大きいかもしれない。が、女の蝋人形がそれぞれのお話に効果的に絡んでるあたりはうまい演出だと思う。2話目に出てきたレストランのスノードームに人間が入ってたりとか、細かい舞台設定もGOOD。

しかし何と言っても本作はキャスティングでしょう。狂言回しのバージェス・メレディスに、ポー収集家の面白おかしい掛け合いを演ずるのはジャック・パランスとピーター・カッシング。当時のイギリス映画の個性派名優勢ぞろい!という感じで、見ててとても楽しい。

★★★★★★★☆☆☆

Dolls ドールズ

2002年/松竹=オフィス北野 他
監督:北野武
出演:菅野美穂 西島秀俊 三橋達也 松原智恵子 深田恭子 武重勉 大杉漣 岸本加世子 津田寛治 大家由祐子

北野武版『女と男のいる舗道』。

透明な演出と透明な演技、そして透明な画面。いずれ北野武がこのような地平へ到達することはずっと以前から明白だったと思うのだが、それにしてもとても透明度の高い演出だ。冒頭で菅野と西島が不気味なほど美しい桜並木を歩く場面で、本作が傑作であることを疑うことはなかった。

狂おしくも哀しい、悲哀映画の大傑作。菅野美穂の演技は奇跡的と言うしかない。この儚い佇まいと演技に、泣けて泣けて仕方がなかった。

小川に浮かぶ紅葉、菅野と西島を結ぶ太く赤い糸・・・、小道具もとても印象的、かつ嫌味がない。こうなるともう様式美の世界だ。北野武は自分がやっていることに(ほぼ)100%の自信を持っていると思う

★★★★★★★★☆

2009年12月6日

ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク

The Lost World: Jurassic Park
1997年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジェフ・ゴールドブラム ジュリアン・ムーア リチャード・アッテンボロー ピート・ポスルスウェイト ヴィンス・ヴォーン アーリス・ハワード ピーター・ストーメア

つまらないね。ここにはサスペンスすらも皆無だ。恐竜の造形がどうのは既に前作でやり尽くしてしまっているわけだし、さすがに観客を舐めすぎでしょう。

ひいきの女優さんジュリアン・ムーアの登場。いい女ですねホントに。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年12月5日

ガルシアの首

Bring Me The Head of Alfredo Garcia
1974年/アメリカ
監督:サム・ペキンパー
出演:ウォーレン・オーツ イゼラ・ヴェガ ギグ・ヤング ロバート・ウェッバー エミリオ・フェルナンデス クリス・クリストファーソン ヘルムート・ダンディーネ

恋人同士で弁当持ってピクニックに行く場面が前半にあり、寄り添いながら将来の結婚の夢なんぞ語ったりするもんだから「ペキンパーにしては腑抜けてるなあ・・・」と思ってたが、いやいや、ヒーローがウォーレン・オーツでヒロインがイゼラ・ヴェガなのだから、ペキンパーはハナっから美男美女が活躍するハードボイルドには興味がない。オーツが演じるのはしがないバーのピアノ弾きで、ヴェガは娼婦みたいなもの。男くさい、男の映画がここでも展開される。その証拠に、ヴェガ演じるエリータは映画の中盤、墓暴きの最中に(どういうわけか知らぬが)唐突に死んでしまう。

その、エリータが死んでからのオーツのテンションの上がり具合と壊れ具合が、この映画の白眉だろう。ハエがたかるガルシアの首を助手席に乗せ、その首に話しかけながら破滅へまっしぐらのオーツ。メキシコ大地主の屋敷の中で銃を乱射し、逃げる途中で車がハチの巣にされるクライマックス。その後にひんやり訪れる心地よいカタルシスがエンドクレジットに被さる。ジョン・ウーなんぞには100年かかっても追いつけない、ペキンパーの旋律と美学!

ペキンパー諸作の中でもひときわ陰惨な色合いを放つ、ハードボイルドの傑作だ。うーん、やっぱり70年代のアメリカ映画は面白い!

★★★★★★★★☆☆

2009年12月4日

乱れる

1964年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:高峰秀子 加山雄三 草笛光子 白川由美 三益愛子 浜美枝

心底、魂の震える大傑作だ。

もう10年近く前になるが、名画座でこの映画を観た帰り道、「すげえ、もう最高だ。最高だ」と、何度も何度も呟きながら歩いていたのを覚えている。だがそれ以外、どの電車に乗ってどの道をどうやって帰ったのかすら覚えていない(笑) そのくらい衝撃だった。それまで自分が観ていた日本映画は何だったのか?

観客の心情を根底から揺さぶる演出と演技。中でも、高峰秀子と加山雄三のアイコンタクトの演技がそれだ。特に高峰は本当に成瀬の演出との相性が抜群だが、見送り電車の中での2人の接近の演出! とにかく、高峰が家を飛び出して以降の「よろめき」ドラマの部分の圧倒的で押し寄せるような演出と演技!

そして、ラストカットでの前髪を額に振り乱した高峰のクローズアップ。もう最高だ。ずっとずっとずっと、観ていたい映画。

★★★★★★★★★★

2009年12月3日

ビデオドローム

Videodrome
1982年/カナダ
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジェームズ・ウッズ デボラ・ハリー ソーニャ・スミッツ レイ・カールソン ピーター・ドゥヴォルスキー

久々に観たクローネンバーグのヌメヌメ感満載のノンジャンル映画。まあこの映画も一度観てますが、かなり久々に触れてみると、やっぱりジェームズ・ウッズの腕がワルサー拳銃と融合したり、腹にマンコみたいな亀裂が出来てビデオテープを挿入したり、内臓のヌメリとした描写だけよく覚えてますな。もちろんデボラ・ハリーの妖しげな色気もかなりこの映画独特の雰囲気にマッチしてますが。

でも、なんといってもジェームズ・ウッズです。喘ぎ声をあげるテレビをムチで打ったり、拳銃と同化した右手を庇いながら街中をコソコソと逃げ回ったり、挙句の果てには誰に頼まれたわけでもないのにおかしなメガネをかけたり。ソレらを全て真剣そのものの表情でやってるもんだから、爆笑できること請け合い。

メガネの展示会。オッサンがウッズに拳銃で撃たれて内臓や脂肪が顔や胸からブリブリと出てきて悲惨な死を遂げる場面が、(あらゆる意味で)映画のクライマックスだろう。この死に様は本当に悲惨極まりない(笑) この特殊メイクアップもリック・ベイカーか! お前はなんぼほど稼ぐねん!

★★★★★★★☆☆☆

2009年12月2日

ファンハウス/惨劇の館

The Funhouse
1981年/アメリカ
監督:トビー・フーパー
出演:エリザベス・ベリッジ クッパー・ハッカビー マイルズ・チャピン ラルゴ・ウッドラフ ショーン・カーソン ケヴィン・コンウェイ

トビー・フーパーが放つ怪奇映画の傑作。カーニバルの退廃的でおどろおどろしい雰囲気を基本ベースに、オーソドックスな怪人モノを堂々たる正統派演出で仕上げたフーパーの手腕が如何なく発揮されている。『悪魔のいけにえ』的な異端の道から、続く『悪魔の沼』、そして本作。やはり彼は怪奇映画、恐怖映画の基本をしっかり押さえた上での『悪魔のいけにえ』だったのだ。

前半で双頭の牛、口蓋裂の牛など、本物のフリークアニマルが登場し、陰惨な雰囲気を醸し出すことに成功(ケヴィン・コンウェイのダミ声の呼び口上がいい味を出している)。ファンハウス内のブリキの人形や小道具、「神は見ている」と呼びかける老婆など、細かいところでの演出がとても上手だ。

顔全体が昆虫のような畸形息子の特殊メイクはリック・ベイカーか。口がうまく閉じられないもんだからずっとヨダレを垂らしている。そういう細かいところもイイね。

★★★★★★★★☆☆