2009年8月30日

悪魔の棲む家(2005)

The Amityville Horror
2005年/アメリカ
監督:アンドリュー・ダグラス
出演:ライアン・レイノルズ メリッサ・ジョージ フィリップ・ベイカー・ホール

なかなか珍しいパターンだが、こっちのリメイク版のほうが面白い。まあ、オリジナルが無惨な出来映えってのもあるけどw なにしろ、コンパクトにまとまっているのがイイです。オリジナルはダラダラしてるからね。主人公がどんどん狂っていく様子の描写、特に子供に薪を両手で支えさせて斧を振り下ろす場面なんかは秀逸。「あ、もう狂ってるな」、っていうね。開き直って幽霊をどんどん見せるのもアリだと思う。あと、女の子が屋根に登って親をドキドキハラハラさせるあたりの描き方もなかなかいいアイデアだ。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年8月29日

悪魔の棲む家(1979)

The Amityville Horror
1979年/アメリカ
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
出演:ジェームズ・ブローリン マーゴット・キダー ロッド・スタイガー

だいぶ昔に日曜洋画劇場かなんかで見たような記憶は微かにあるけども、まあほとんど覚えてなかったから初めて見たようなもんですね。オヤジが家に棲むものにとり憑かれて家族をオノで襲うのがクライマックスって、こりゃ完全に民家版の『シャイニング』じゃないですか(製作順はこちらのほうが先だけど)。しかしまあ、出来の悪い映画です。

最初のほうでハエにたかられた神父が霊に"Get Out!!"ってはっきり言われてる時点で、どうもこの映画にはノリ切れなかった。ああいう場面をもっと工夫して演出するのが映画の醍醐味ってもんでしょうに。クライマックスもカット割りがテキトー過ぎて何がどうなってるのか判りにくいし、車の中でオヤジの生還を祈ってる子供たちも、なぜかニヤニヤしてて緊張感がまったく無い。

シスターが車のドアを開けてゲロ吐く(そのモノ自体は映らないが)場面が一番印象に残るって、そりゃダメな映画だわこりゃw ハエの顔面のドアップは面白かったけど。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2009年8月26日

浮草

1959年/大映
監督:小津安二郎
出演:中村鴈治郎 京マチ子 杉村春子 若尾文子 川口浩 
野添ひとみ 笠智衆 三井弘次 田中春男 入江洋吉

まったくもって小津らしい緊張感が持続しない画面作りのため、ちょっと中盤で中だるみしてしまうのだが、これは大映の美術のせいもあるかもしれない。なんかこうセットや美術全体が雑然としていて、小津の特徴であるキッチリ決まった構図がちょっとブレているのだ。

しかしこれは、我々が、サイレント時代からの小津の画面の組み立てに慣れ親しんでしまったからかもしれず、新たな地平を模索する小津の野心だったのかもしれない。この『浮草』がまったく小津らしくないが故にダメだと言い切る人は、よっぽどの愚鈍か、あるいは相当な悪意の持ち主だろう。

中村鴈治郎の台詞回しや身のこなしには目を見張るものがある。京マチ子の可愛さ、そして、川口浩とのキスシーン。胸がドキドキした。

★★★★★★★☆☆☆

怪異談 生きてゐる小平次

1982年/ATG
監督:中川信夫
出演:藤間文彦 宮下順子 石橋正次

中川信夫の遺作。キャストを3人だけにし、何とも言えず奇妙な「間」を持った映画で、意欲作であることは間違いないのだが、致命的なのは「怖くない」ってことだ。残念ながら失敗作でしょう。

しかし、おちかを演じる宮下順子の色気と妖気はさすが。そういえば自分がガキの頃はテレビの地上波で普通に「にっかつロマンポルノ」が放送されてて、親の目を盗んでこっそり見てたなあ。ずいぶん宮下順子や美保純には興奮させられたもんだ。懐かすぃ。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年8月23日

砂丘

Zabriskie Point
1970年/アメリカ
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
出演:マーク・フレチェット ダリア・ハルプリン ロッド・テイラー

アントニオーニの映画なんて久々に見たなあ。10年ぶりぐらいか。そのときはジャック・ニコルソンとマリア・シュナイダーが主演の『さすらいの二人』という映画で、それもつまらん作品だったが、これは輪をかけて酷い。これ見よがしな画のオンパレード。それによって見る者に暗喩の分析を強いるあたりも、スクリーンの向こう側を見よう見ようとするような観客には受けるんだろうが、俺はあいにくそういう映画の見方はできないのだ。それは例えば、大学の授業なんかで使われるタイプの映画(もちろんグリフィスやエイゼンシュタインら、映画創世記の貢献者たちは別です)。

中盤、砂にまみれてのセックスシーンは目を覆いたくなる醜悪さ。ラストの爆破場面を複数のあらゆる角度・遠近のカメラから撮って何度も何度も見せるあたりも、物欲しげで嫌いだ。つーか、やっぱ俺アントニオーニはちょっと受け付けないな。『欲望』はまあまあ好きだけど。

★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

真剣勝負

1971年/東宝
監督:内田吐夢
出演:中村錦之助 三国連太郎 沖山秀子

内田吐夢監督の遺作。見るまでは宮本武蔵モノだとは知らなかった(汗)

ラストの「真剣勝負」の場面が決着する前に、子供の笑顔のアップカットで唐突に「終」の文字が出て映画は幕を下ろす。「ええ!? もう終わり??」と叫んだのは俺だけじゃあるまい。察するに、三国連太郎演じる梅軒が決戦で勝つのだけども、それでは観客が納得しないだろうという制作サイドの思惑で、ばっさり切ってしまったのではないか?

頭に風車を刺して登場する三国や、「乳が張る~!」と叫んで水筒に母乳を噴入する沖山など、キャラクターが壮絶。もうちょっとこの登場人物たちを見ていたいと思いながらも、(クライマックスのカットのせいで?)75分で映画は終わってしまうのだが、いやいや、実にヘンな映画でした。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年8月22日

ディア・ウェンディ

Dear Wendy
2005年/デンマーク=フランス=ドイツ=イギリス
監督:トマス・ヴィンターベア
出演:ジェイミー・ベル ビル・プルマン マイケル・アンガラノ 
クリス・オーウェン アリソン・ピル

前半はナレーションだらけ。ナレーション、ナレーションの嵐。物語はとても単純なのに主人公の心象風景や状況を説明するナレーションで溢れかえる。いったいいつになったら映画が動き出すのか? 見てるほうはイライラすることこの上なし。これはフォン・トリアーの脚本がそうなっているのか? 考えてみれば『ドッグヴィル』や『マンダレイ』もそうだったな。

てなわけで、フォン・トリアー印がかなり深く刻印されているので相変わらずのアメリカ批判、銃批判っぽいアイロニーが鼻につくが、ラストの銃撃戦のアクションはなかなか見ごたえがあった。スーザンが店の中でいきなりオッパイ丸出しにしたり、黒人のおばさんがデカイ鞄から散弾銃を取り出していきなり保安官を正面から撃ったり、ああいう「うおっ!」っとなる演出は好きである。トマス・ヴィンターベアという人にはちょっと注目してみよう。

★★★★★☆☆☆☆☆

ダークネス

Darkness
2002年/スペイン
監督:ジャウマ・バラゲロ
出演:アンナ・パキン レナ・オリン イアン・グレン ジャンカルロ・ジャンニーニ

正直、『ダークネス』というタイトルの時点でいやな予感はしたのだが、案の定、映画はそのほとんどが暗闇で進行する。しかもうちは液晶テレビで黒い部分が潰れるので、何が起こっているのかいまいち判りにくい。特にクライマックス10分は皆既日食(!)が絡んだ場面なので、もうお手上げだ(笑) 根本的に暗い映画は好きじゃないので。。。

スペイン映画らしい陰惨とした雰囲気は伝わってくるのだが、救いのない惨劇を狙ってみたもののの、ワケのわからないままで終わってしまった。クライマックスでジャンニーニが「お前に任せた」みたいなことを言って女の子を開放するのだが、まるで意味がわからない。「なぜそんなことを」と訊かれても、答えが「宗教的な理由だ」では、観客も納得できませんぜ。思わせぶりな小道具やエピソードがやたら出てくるけど、それもほとんど回収されないまま映画はエンドロールに。

主役の巨乳の女の子は『ピアノ・レッスン』の子か。ずいぶん(いろんな意味で)大きくなりましたなあ。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年8月20日

暗黒街の弾痕

You Only Live Once
1937年/アメリカ
監督:フリッツ・ラング
出演:ヘンリー・フォンダ シルヴィア・シドニー ウィリアム・ガーガン 
バートン・マクレーン ジーン・ディクソン ジェローム・コーワン

どこを切り取っても素晴らしく魅力的な画面に満ちあふれている傑作。
スリルと謎に満ちた銀行襲撃シーン、独房からの光と影の鮮烈なイメージ、庭の池のカエル、シドニーの潤んだ目とちょっと奇跡的な演技、どれもこれもが目が眩むようなとてつもない完成度! やや露出オーバー気味の撮影も、この稀有のフィルム・ノワールにはとても純度の高い効果を発揮していると思う。

やっぱり、映画にとって大事なのはストーリーじゃない。それは、画面、音。そしてそれらは、映画本来が持つ根源的な力だ。この作品を観ると、俺はいつも一定の場面で泣いてしまう。それはもちろん「物語」に涙しているのではなく、画面の透明さ、そしてラングの映画への徹底した忠実さに涙ぐむのだ。

★★★★★★★★★☆

2009年8月18日

遊星よりの物体X

The Thing(From Another World)
1951年/アメリカ
監督:クリスチャン・ネイビー
出演:ケネス・トビー マーガレット・シェリダン ロバート・コーンスウェイト

1950年代のアメリカといえば、ビミョーな空想科学描写を配したSF映画が流行っていたときなので、こんな映画は画期的だっただろう。しかし、異星からの怪物が攻めて来てるというのに、こののんびりした雰囲気はいったいどうしたことか。牧歌的なムードにも程がある。ジョークを飛ばしている場合じゃない。又、登場人物が「打ち合わせる」シーンがあまりにも多いせいか、映画全体に緊迫感がない。これはこういう映画においては致命的じゃあるまいか? 物体Xの登場場面に至っては、完全にギミック演出に堕し、面白くもなんともない。

ジョン・カーペンターの手による傑作リメイク版『遊星からの物体X』に比べると、あまりにも無惨な出来。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年8月17日

北北西に進路を取れ

North by Northwest
1959年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ケイリー・グラント エヴァ・マリー・セイント ジェームズ・メイソン 
ジェシー・ロイス・ランディス マーティン・ランドー

プロットが多少強引だろうが、決定的に尺が長かろうが、そんなことはこの映画の面白さの前では枝葉末節でしかないだろう。なんてクレバーな演出なんだろう。ひとつひとつ論うような無礼は慎むが、グラントが冒頭、タクシーで秘書にいろいろ指示を出す描写。ものの1分でグラントのキャラクターを描いてしまうあたりは、圧倒的にヒッチコックは巧い。スピルバーグやダルドリーなら10分かかるだろう。

ラストのマッチカットは、「映画ってこんな感じだよねアハハハハ」というヒッチコックの笑いが聞こえてきそうなあざとさだが、これはこれでとても好きだなぁ。あと、個人的に好きなのは、農道の真っ只中にポツンとあるバス停にグラントがスーツ姿で佇んでいる場面。そのあと、これまたスーツ姿の男が逆方向のバス停に現れるが、こいつは別に関係なかったという(笑) ジェームズ・メイソンの不敵な感じもとてもいいし、エヴァ・マリー・セイントの悪女っぷりも最高だ。

ヒッチコックでは一番好きな作品かもしれない。

★★★★★★★★☆☆

2009年8月16日

銀河

La Voie Lactee
1968年/フランス=イタリア
監督:ルイス・ブニュエル
出演:ポール・フランクール ローラン・テルジェフ アラン・キュニー 
デルフィーヌ・セイリグ ピエール・クレマンティ エディット・スコブ

キリスト教の宗教的なモノが色濃く出過ぎていて、俺のような無神論者には極めて判りにくい題材である。「ブニュエルも無神論者なんだなぁ」ってのはよく理解できるけども、テーマ性が勝ちすぎていて、映画ファンとしてはちょっとキツイ展開。

キリスト教~大義の宗教への揶揄・・・というか、宗教を徹底的に茶化そうとしたブニュエルの志は最大限に評価するとしても、映画としては平均点を上回るデキではないと思う。

★★★★☆☆☆☆☆☆

牡丹燈籠

1968年/大映
監督:山本薩夫
出演:本郷功次郎 赤座美代子 西村晃 小川真由美 志村喬

正統派怪談映画の決定版。

空中をフワフワ浮遊するお露とお米の幽霊の気持ち悪さったらないし、カメラワークや画面の中でのアクターズディレクションが秀逸で、びっくりするほど完成度の高い作品だが、何よりも美術と照明が素晴らしい。日本映画だって、やればできるのだ。

ラストに至るまでの強烈な疾走感(合間に挟まれるお経の合唱の緊迫感も!)は言うに及ばず、居酒屋の娘の顔が一瞬「のっぺらぼう」になったり、池から2体の骸骨がザッパーン!と出てくるところとか、とても良いシーンに溢れている傑作。

それにしても、『雨月物語』でもそうだったが、幽霊とセックスできるんですね。

★★★★★★★★☆☆

2009年8月15日

捜索者

The Searchers
1956年/アメリカ
監督:ジョン・フォード
出演:ジョン・ウェイン ジェフリー・ハンター ヴェラ・マイルズ 
ナタリー・ウッド ウォード・ボンド ハリー・ケリー・Jr

素晴らしい画面と音を持った映画で、各方面から「西部劇の最高傑作」と評されるのも充分に理解できる。しかし、個人的な好みで言えば、そんなに好きな映画ではない。というのも、演出上の不備・・・というか、まず、デビーがインディアンに攫われてから救出するまで7年もの月日が経過してるのに、その長さがまったく感じられない。しかも、その年月は主にセリフで説明されているのだ。さらに、ウェインのキャラクターが首尾一貫しているとは言い難い。ポーリィに自分の遺産を残そうとするのだが、ウェイン=イーサンがポーリィにそこまで情が移ることに正当性が無いもんだから、観客は狐につままれ「はぁ?」って感じだ。デビーを「お家に帰ろう」と抱き上げるとこなんかも、じゃあ銃で殺そうとしたのは何だったのか。

また、キャンプの場面でセットの空上の照明器具(?)みたいなものが画面の上のほうにチラチラ見えてしまっており、これは完全なミスだろう。せっかくよく出来た映画なのだから、そのへんはちゃんと作って欲しかった。なお、インディアンの女性を蹴りつける場面などもあって「インディアン蔑視映画」と言われる向きもあるようだが、そんなことは「映画」自体の良し悪しにはまったく関係がない。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年8月14日

女の中にいる他人

1966年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:小林桂樹 新珠三千代 三橋達也 若林映子 草舟光子 
加東大介 黒沢年男 稲葉義男 長岡輝子

またここでもどうしようもなく詰まらない「火サス」のような脚本を、なんとか纏め上げようという成瀬の苦心が窺える。全体にアクターズディレクションが散漫であまり出来が良くないと思うけども、新珠三千代が夫のウイスキーに毒を入れて殺害しようと決心する、静かな表情の演技と落ち着いた演出が素晴らしいと思う。ちょっと後半のスローモーな展開と演出がダルかっただけに、あれで一気に目が覚めた。

若林映子という女優は初めて見たが、なかなか日本人離れした顔とスタイルをしている。ちょっと追いかけてみようかな。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年8月13日

まごころ

1939年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:入江たか子 高田稔 悦っちゃん 加藤照子 村瀬幸子

戦時下の山梨を舞台にした戦意高揚アジ映画。

いわゆるプログラム・ピクチャーという制約がある中での作りであり、70分足らずという短尺なので、なんかあっと言う間に映画は終わってしまった。

しかしそこは成瀬、人と人との距離感(特に、川辺で入江たか子と高田稔が不意に出会う場面の素晴らしいこと!)や登場人物の表情が素晴らしい。子役2人が学校の校庭でお互い涙するシーンも、その静かな描写にしんみりとする。扇風機の風でそよぐテーブルの上に置いた手紙、川面の光の揺れなど、郷愁に満ち満ちた画面作りも珠玉というしかない。

監督の力量が確かに発揮された逸品。

★★★★★★★☆☆☆

2009年8月11日

スリザー

Slither
2006年/アメリカ
監督:ジェームズ・ガン
出演:ネイサン・フィリオン エリザベス・バンクス マイケル・ルーカー 
グレッグ・ヘンリー ブレンダ・ジェームズ

最初は『遊星からの物体X』か『デッドリー・スポーン』のノリで、途中で『フロム・ビヨンド』と『ヘル・レイザー』の融合に変わったと思ったら、『シーバーズ/人食い生物の島』と『ゾンビ』が出てくる展開になるも、最後はまた『物体X』で締めるという、SF・ホラーファンのツボをしっかり押さえた展開。俺のようなジャンルファンにはとても楽しめるのだが、果たして一般的な観客はついて来るのだろうかと不安になってくるぞw 過去の作品を焼き直しただけという印象は拭えず、映画として平均点以上のデキではない。

とにかく、イカとかタコとかナマコとか蛆虫とかそんな生物をカリカチュアしたようなクリーチャーがたくさん出てくるのだが、聞けばジェームズ・ガンはあのトロマ社の出身なんだそうで・・・w 身体の正面から真っぷたつに引き裂かれて内臓がデロデロと流れてくるシーンや、身体中にワームを溜め込んで肥大化した腹が爆発して、そのワームが無数に飛び出してくる場面など、ゴアシーンもなかなか頑張っている。田舎町とはいえ、悲惨な惨劇が立て続けに起こってもなんとなく牧歌的な雰囲気が漂っているが、それも含めて作り手の狙いなんでしょう。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年8月10日

第3逃亡者

Young and Innocent
1937年/イギリス
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:デリック・デ・マーニイ ノヴァ・ピルブーム パーシー・マーモント 
エドワード・リグビー メアリー・クレア ジョン・ロングデン

ヒッチコックのイギリス時代の作品で、随所に実験的手法が用いられているものの、今見るとずいぶんと小品に感じられる。ドラマーのまばたきで犯人が判るというサスペンスも、かなりきわどい。まあそこに正当性を持たせてしまうのはヒッチコックの腕なんだろうけどね。

それにしても、黒塗りのドラマーの顔のズームアップはあまりにも近すぎるんではないかw ついつい仰け反ってしまった。あと、炭坑に車が入っていき陥没して車が地面に呑み込まれそうになる場面のアクションと、カット割の見事さ。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年8月9日

攻撃

Attack
1956年/アメリカ
監督:ロバート・アルドリッチ
出演:ジャック・パランス エディ・アルバート リー・マーヴィン 
ロバート・ストラウス バディ・イブセン

アルドリッチが放つ豪快かつ繊細な傑作戦争絵巻。

市街戦の迫力と、男臭さ満点の野郎ども(J・パランス、E・アルバートに、リー・マーヴィン!)、そしてナイーヴで計算し尽くされたカット割りとカメラの配置。このそれぞれがとてもバランスよく映画全体に収まっている。こんなことは映画だから可能なのだ。

パランス演じる小隊長が無念のままで死にゆくわけだが、目と口が異様に豪快に開いたままでラストを迎える。「誰か閉じてやれよw」と思ったのは俺だけじゃあるまい。

さっき書いた「好きな監督20人」から泣く泣くアルドリッチを外したのだが、こう見ると、やっぱり入れるべきだった!と、ちょっと後悔・・・。

★★★★★★★★☆☆

フランケンシュタインの逆襲

The Curse of Frankenstein
1957年/イギリス
監督:テレンス・フィッシャー
出演:ピーター・カッシング ヘイゼル・コート ロバート・アークハート 
クリストファー・リー

こちらは『吸血鬼ドラキュラ』の前に撮られた、ハマーフィルムのホラーシリーズ第1弾とも言うべき作品。50年前の、しかも当時としてはイロモノ映画だったんだろうが、きっちり作られていて好感が持てる。

しかし、個人的にドラキュラと比べてフランケンシュタインものが今ひとつ好きになれないのは、やはりフランケンシュタイン博士はマッドドクターではあっても「人間」であって、「死者」であるドラキュラとは一線を画してしまうから。本作でも、リーが演じた人造人間はあくまで添え物的な扱いで、フランケンシュタインのイカれた突っ走りぶりと、それを取り巻く家庭教師や婚約者との愛憎ドラマが軸となっている。

ラストの追走劇とアクション描写など、映画として丁寧に作りこまれているが、やはりドラキュラを観てしまったあとだとやや落ちるかな。

★★★★★☆☆☆☆☆

吸血鬼ドラキュラ

Horror of Dracula
1957年/イギリス
監督:テレンス・フィッシャー
出演:クリストファー・リー ピーター・カッシング マイケル・ガフ

CSで放送していて、もう見るのは3度目くらい。今さら語るまでもない古典怪奇映画の名作。

美術や音楽も素晴らしさは冒頭からそのクオリティが発揮されるが、この映画は何よりもクリストファー・リーの佇まいと身のこなしが圧倒的だ。また、テクニカラーの鮮やかな色合いが、数少ない鮮血シーンの真っ赤な血の描写を際立たせている。

★★★★★★★☆☆☆

2009年8月8日

クライマーズ・ハイ

2008年/東映=ギャガ・コミュニケーションズ
監督:原田眞人
出演:堤真一 堺雅人 尾野真千子 山崎努 遠藤憲一 
田口トモロヲ 堀部圭亮 高嶋政宏 マギー でんでん

まずまず面白かった。
様々なエピソードを散りばめたせい、ワンシーンワンシーンに不要なカットがことごとく紛れ込んでいるせいで、尺が長くてイライラするところもあるが、全体として許せるレベル。

でんでんや中村育二のような端役に至ってまで、役者達がとてもいい表情で活き活きとしてるが、特に堺雅人の立ち振る舞いが素晴らしすぎる。途中から彼の出る場面には目が釘付けになってしまった。あとは山崎努ね。ああいう偉い爺さんが車椅子に乗って威張ってる姿は映画における「怪物」の特権階級であり、原田眞人もそのへんはもちろん意識してるだろう。牛乳を飲んでサンドイッチを頬張り、堤の突きつけた辞表を必死にテーブルから払いのけようとするカットの可笑しさ。それに比べて堤真一はいろんな意味で線が細い。台詞も半分くらい何を言ってるのかわからないし、まあミもフタもないことを言ってしまえば「ミスキャスト」だと思う。

ラスト、ニュージーランドの再開場面は謎。原作は読んでないけど、合間に挟まれるロッククライミングのシーン含め、要らなかったんじゃないか。役者の好演によって支えられた映画だと思う。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年8月7日

引き裂かれたカーテン

Torn Curtain
1966年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ポール・ニューマン ジュリー・アンドリュース リラ・ケドロヴァ 
デヴィッド・オパトッシュ ルドウィッグ・ドナス

こんな糞みたいな脚本、ヒッチコックほどの人でもどうにも消化しようがないだろう。殺人のシーンもニューマンが階段から落ちるシーンも、カット割りがどうも拙い。あと、尺が長すぎる、全体的にトーンが低調で退屈だってのもあるが、何より、画面のつくり方やプロット構成が、ヒッチコックらしくないのだ。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

ディボース・ショウ

Intolerable Cruelty
2003年/アメリカ
監督:ジョエル・コーエン
出演:ジョージ・クルーニー キャサリン・ゼタ=ジョーンズ ジェフリー・ラッシュ 
セドリック・ジ・エンターティナー ビリー・ボブ・ソーントン

つまらない。これはどうしたことか。ちょっと手を抜きすぎてるんじゃないか?

コーエン兄弟もこうなるともう、いかに「シネフィル」の琴線に触れるかと、いかに簡潔にストーリーをなぞるかだけに終始し、観客を驚かせるものがまったく無くなってしまっているように思う。しかも、いや、しかもというか、にもかかわらず、クルーニーがゼタ=ジョーンズにあそこまで惚れ込む正当性すら発見することができない。もう、ふざけてるとしか思えない。

しかし、ゼタ=ジョーンズはキレイだね。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年8月5日

トラッシュ

Trash
1970年/アメリカ
監督:ポール・モリセイ
出演:ジョー・ダレッサンドロ ホリー・ウッドローン ジェリー・ミラー

シャブ中でインポのイケメン野郎と、それを取り巻くこれまたシャブ中でセックス中毒のクズ女どもとの、くだらないやり取りが110分間延々と画面に映し出される。

アンディ・ウォーホル製作+ポール・モリセイ監督のコラボとしては後の傑作『処女の生血』が挙げられるが、この映画は正直しんどい。本当にトラッシュ(クズ)みたいな人間しか出てこないし、クズどものクズのような生活を見せられ、クズのような会話を聞かされるほうはたまらない。カメラの使い方や編集も、学生自主映画のノリに近い。

確かにモリセイも演出家としては駆け出しだったのだろうけど・・・。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

ドリーム・クルーズ

2007年/角川映画
監督:鶴田法男
出演:木村佳乃 ダニエル・ギリス 石橋凌 蜷川みほ


前半のダラダラ感、特にギリス演じる弁護士が石橋に呼び出されて新宿から夢浜マリーナまで行くくだりの果てしないダラダラ感はかなり見ててしんどい。「これはキツいなあ・・・」と思っていたら、さらにヨットの中でのやり取りやキレのない切り返しに辟易する。

短編TVドラマなどにおいて日常の中の恐怖演出に定評のある鶴田法男だが、長編映画の演出となると途端に切れ味が鈍る。『リング0 ~バースデイ~』は好きな映画だが、『案山子』や『予言』『おろち』、そして本作の果てしないダラダラ感はどうしたことか。

ナオミの霊の佇まいや動きは、もう完全に『呪怨』のカヤコそのまんま。ギリスが石橋の腕と格闘する場面も、『死霊のはらわた2』へのオマージュか。過去の映画に敬意を捧げるのは結構だが、何か目新しいことをやってくれないと面白くない。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2009年8月1日

皆殺しの天使

El Angel Exterminador
1962年/メキシコ
監督:ルイス・ブニュエル
出演:シルヴィア・ピナル エンリケ・ランバル ルシー・カジャルド

ブニュエルの堂々たる傑作室内劇。ヘンだヘンだとよく言われる映画だが、いやぜんぜんヘンじゃない。冒頭のやつだって撮影ミスでも演出ミスでもなんでもなく、ちゃんと意図してやってるのだ。

物語は、オペラ帰りにディナーのため邸宅に集まったブルジョワジー達が、なぜかその屋敷から出られなくなる、という至極単純なもの。ブニュエルのクールな突き放しは素晴らしく、理由はいっさい説明されない。冒頭の給仕たちの「さっさと逃げるのが当たり前」のような言動は、災害を予兆したネズミが大量に移動することを想起させる。

細かい演出の凄みを挙げればキリがないのだが、まったく、「清濁併せ呑む」という慣用句がブニュエルほど似合う人もいないだろう。熊や羊などの動物の使い方がとてもブニュエルらしくて嬉しくなる。特にラスト、羊たちの群れが何かの建物の中に追い立てられるように入っていく場面にFINの文字が重なる。こういうセンスがたまらなく好きだ。傑作でしょう。

★★★★★★★★☆☆