2009年6月30日

クライシス・オブ・アメリカ

The Manchurian Candidate
2004年/アメリカ
監督:ジョナサン・デミ
出演:デンゼル・ワシントン リーヴ・シュレイバー メリル・ストリープ 
ジェフリー・ライト ジョン・ヴォイト ブルーノ・ガンツ

役者がとても活き活きしてて面白い映画です。ちょっと登場人物の全てを纏めきれてない部分もあるけど、シュレイバーとストリープのやや近親相姦的で深い親子関係も入念に描きこんでるし、クライマックスのデンゼル・ワシントンの狙撃シーンはかなり慎み深い演出でとても好感が持てる。さすがはジョナサン・デミ。シュレイバーは『スクリーム2』の異様なクラスメート役が印象的だが、ここでの立ち振る舞いもなかなか。目が笑ってないんだよなぁ。

頭蓋骨に穴を空けられるロボトミー手術のシーン。そこに至る、全体に白いセットを突き進んでいく一連のシークエンス。あの夢とも現実ともつかない不気味さの表現は、映画ならではだ。

機会があればもう一度見てみたい作品。

★★★★★★★☆☆☆

2009年6月28日

ワイルドバンチ

The Wild Bunch
1969年/アメリカ
監督:サム・ペキンパー
出演:ウィリアム・ホールデン アーネスト・ボーグナイン ロバート・ライアン 
ウォーレン・オーツ エドモンド・オブライエン ベン・ジョンソン

クライマックスをはじめとするアクションの緊張感はもちろん素晴らしいし、橋の爆破やショーウインドウを馬で突き破るなど、印象的な場面がとても多い。深い河を渡らされたり、橋から落ちたり、馬の扱いが可哀相ではある。フェミニズムの欠片もないし、女性受けはかなり悪い映画だろうなぁ。

この映画、とても面白いんだけど、やっぱり長いんだよね。個人的に不要だと思うカットやシークエンスは多々あるんだが、特に、メキシコ女たちとの乱痴気騒ぎ。ああいう品のない場面はこの映画には不要と思う。

★★★★★★★☆☆☆

2009年6月27日

リオ・ロボ

Rio Lobo
1970年/アメリカ
監督:ハワード・ホークス
出演:ジョン・ウェイン ホルヘ・リヴェロ ジェニファー・オニール 
クリストファー・ミッチャム ジャック・イーラム

ホークスの遺作。これが最後ってのが哀しい。しかし、なんでホークスの映画はこんなにも面白いのか? 前半、金貨を積んだ蒸気機関車を捕獲するシークエンスの興奮と絶頂! 戦争終結後(これも、新聞の切れ端でシンプルに通知されるのが印象的)の、アクターズディレクションも完璧というしかない。

というのも、登場人物同士の発作的な関係、特に、ウェインがリヴェロを酒場に誘ったり、オニールがリヴェロに唐突にキスしたかと思えば、「安心だから」とウェインに無邪気に添い寝したり、こういう、一見すると乱暴な相関関係を、観客に(わけのわからぬまま)納得させる技術なのだ。我々はまるで魔法にかけられたようにスクリーンを凝視するほかない。

映画全体としてはウェイン以外はキャストに若造が多く、どうもウェインがちょっと浮いているような感じで、『リオ・ブラボー』よりちょっと劣るかな。それでも面白いけど。

★★★★★★★☆☆☆

2009年6月25日

新宿泥棒日記

1969年/創造社
監督:大島渚
出演:横尾忠則 横山リエ 田辺茂一 高橋鐡 佐藤慶 
渡辺文雄 戸浦六宏 唐十郎

大島渚はどうも映画に対して不誠実というか、映画以外のものを信奉しているような気がしてならないのだが、これも、なんともまぁ頭でっかちで詰まらない映画だ。

詩や小説からの膨大な引用も苦笑いしながら見れるレベルだが、ゴダールのそれほど洗練されてないし、前半~中盤のノリは完全に苦学生の自主映画。

まぁこのアナーキーな感じが好きって人もたくさんいるんだろけど、俺にはまったく訴求しない。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月24日

宇宙水爆戦

This Island Earth
1954年/アメリカ
監督:ジョセフ・M・ニューマン
出演:フェイス・ドマーグ レックス・リーズン ジェフ・モロー


ミュータントの造形と、のっそりとした登場場面はかなりのインパクト。ガレキが崩れてきてあっという間にやられてしまうのだが、そのあと宇宙船の中で再会! 大気圧へ対応させるチューブ状の機械に入ってる最中にノソノソと襲ってくるあたりは、後の『エイリアン』に影響を与えているのかもね。

しかしやはり、50年代にアメリカで量産されたこの手のSF映画は、スケールはA級なのに予算がB級という、何ともバランスを欠いた悲惨な状態で、今見ると少々ツライもんがありますな。話の持っていき方もかなり強引でツッコミどころ満載。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月22日

女人哀愁

1937年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:入江たか子 堤真佐子 清川玉枝 澤蘭子 北沢彪 
佐伯秀男 大川平八郎

見合い結婚で嫁いだ先でまるで女中のような扱いを受けて鬱積した入江たか子の感情が、映画の中盤からクライマックスへ向けて静かに静かに爆発する。しかし、決して下世話な修羅場にはならない。「水持ってこい」だの「店屋物を頼め」だの、完全に女中扱いされる様を、似たようなカットを繰り返すことによって、これも静かに描く。このシークエンスにおけるテンポが極めて心地よい。

フィルムが現存していたこと自体が貴重な戦前の成瀬作品だが、入江たか子の存在感と相俟って、愛すべき小品に仕上がっていると思う。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年6月21日

ポルターガイスト

Poltergeist
1982年/アメリカ
監督:トビー・フーパー
出演:クレイグ・T・ネルソン ジョベス・ウィリアムズ ヘザー・オルーク 
ビアトリス・ストレイト ドミニク・ダン オリヴァー・ロビンス

ダイアンがちょっと目を離した隙に、キッチンの椅子がテーブルの上に見事に積み重なっている場面を、ワンカットでとらえている。これはワンカットだから我々も驚くのであって、つまりは演出の妙だ。う~ん・・・しかし、これはいったいどうやって撮影したんだろう。

スピルバーグ印で語られがち・・・というか、例えば頬張った肉にウジが湧いていたり、鏡にうつった自分の顔が腐ってボロボロ落ちていく様などはフーパーが演出したように思われている向きもあろうが、こういう場面こそ実はスピルバーグが嬉々としてやっていたんでは? スピルバーグが同時期に撮った『インディ・ジョーンズ』シリーズにもこれを想起させる顔面崩壊描写があるのだ。

前記の椅子とかピエロ人形とか、小道具の使い方が実にうまい。一見胡散臭いんだけど実はすごい霊能者とか、最初に相談したけどほとんど役に立っていないオバサン心霊学者とか、キャラ付けもイイ。

★★★★★★★☆☆☆

パンズ・ラビリンス

El Laberinto del Fauno
2006年/スペイン=メキシコ
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:セルジ・ロペス イバナ・バケロ マルベル・ベルドゥ 
ダグ・ジョーンズ アレックス・アングロ アリアドナ・ヒル

場面場面のリンケージに、ちょっとハッとさせられるところがある。例えば、オフィリアが腐った大樹の中を貼って進むカメラの横移動に、レジスタンスを追って馬で丘陵を進む大尉ら一団の横移動を繋げたり。こういう、何気ない画面の繋ぎ方が好きだ。やはりデル・トロは確かな演出力を持った人だと思う。薄暗い迷路の中を進んでいく場面でのライティングの適度な感じも、見ててとても心地よい。照明担当はいい仕事をしている。

眼球が手の平にある怪物のグロテスクさが凄まじい。オフィリアが禁断のブドウを食べてしまい、その怪物に追われる場面の迫力! 大尉がナイフで切られた口を自分で縫い、痛み止めのために酒を飲むも縫った後から酒が染み出してしまうところとか、でかい虫が少女の腕を這うところとか、デル・トロお得意のイヤ~な感じもよく出ています。

傑作でしょう。

★★★★★★★★☆☆

袋小路

Cul-de-sac
1965年/イギリス
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ドナルド・プレザンス フランソワーズ・ドルレアック ライオネル・スタンダー 
ジャック・マッゴーラン ジャクリーン・ビセット

小悪魔を演じるフランソワーズ・ドルレアック、ドヌーヴに雰囲気似てるなぁと思ったら、どうりで、彼女のお姉さんなんだと。25歳で交通事故で死んじゃったらしい。もったいないなぁ。

しかし、映画はつまらない。本当にポランスキーの映画はいい出来と悪い出来の差が激しい。ラストでのドナルド・プレザンスの狂気の発散ぶりはなかなか面白いんだが。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月20日

トランスフォーマー

Transformers
2007年/アメリカ
監督:マイケル・ベイ
出演:シャイア・ラブーフ ミーガン・フォックス ジョシュ・デュアメル

   ジョン・ヴォイト ジョン・タートゥーロ レイチェル・テイラー

歴史的名画『遊星からの物体X』の下手糞なリメイク(え、違う?)。スピ&マイケル・ベイなら、圧倒的に『アルマゲドン』のほうが面白い。「なんでこんなにつまらないんだろう? なんでなんで?」とずっと思いながら見てました。

で、この映画で致命的だと思うのは、それぞれのキャラクターへの「寄り」の画があまりにも多すぎて、見ててとても疲れるということ。戦闘のシーンなんかは何が起こってるのかぜんぜんわからん。テレビ画面でそうなんだから、大画面スクリーンで見た観客は可哀相だ。

オートボットたちの中にも善玉と悪玉がいるのがどうにも・・・。個人的には、彼らは一貫して悪役として描き続けなきゃいかんと思う。だいたい、悪の親玉のメガナントカにも邪悪さが全く足りない。合間合間に挟まれるくだらないジョークも不要。ああいうの全部カットすりゃ10分短くできるだろーに。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月18日

オーディション

Hollywood Kills
2006年/アメリカ
監督:スヴェン・ペープ

出演:ドミニク・キーティング ザック・ウォード アンジェラ・ディマルコ

日本劇場未公開も納得の糞映画。とにかくつまらん。途中でDVDの停止ボタンを押したくなる、見るも無惨な出来映え。陰惨でスタイリッシュな惨劇を狙ってみたもののワケがわからなくなってしまったという、典型的な屑フィルムだなこりゃ。不自然なズームやジャンプカットも鼻につき、演出にも役者の雰囲気にもストーリーにも画面作りにも、すべてにおいて品がない。

★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

真昼の死闘

Two Miles for Sister Sara
1970年/アメリカ
監督:ドン・シーゲル
出演:クリント・イーストウッド シャーリー・マクレーン マノロ・ファブレガス 
アルベルト・モリン アルマンド・シルヴェストレ ジョン・ケリー

合間合間のドンパチシーンはとてもイイのだが、どうもシャーリー・マクレーンの描き方が中途半端な印象を受ける。イーストウッドとの道中で酒をあおったり隠れてタバコを吸ったりを我々は見せられてるだけに、売春宿で娼婦仲間の手荒な祝福を受けても、「ふ~んやっぱりね」としか思えなかった。

クライマックスで、投げたナタが顔に突き刺さる場面は、同時期に制作されたマリオ・バーヴァの『血みどろの入江』と全く同じ切株描写だ。(どっちが先かは知らないが、偶然とすればかなり奇妙ではある)

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年6月16日

桜桃の味

Ta'm e Guliass
1997年/イラン
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ホマユン・エルシャディ アブドルホセイン・バゲリ アフシン・バクタリ


キアロスタミ作品には立派な俳優の演技もエキサイティングな構図もなければ、ストーリーすらも無い。あるのはただ「演出」だけ。映画のありのままの姿を我々に突きつけてくるスタイルはこの『桜桃の味』でさらに徹底された印象を受ける。なるほど、カンヌでパルムドールを受賞するに相応しい作品かもしれない。

が、俺は自慢じゃないけど映画の画面ひとつひとつで切り取られた一瞬で、詩的あるいは観念的なメタファーを理解できる能力を持ち合わせていない。

まぁ難しいことを書いてみたが、端的に言えば、面白くないんだな。観客を驚かせるものが決定的に欠けていると思う。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月15日

アワーミュージック

Notre Musique
2004年/フランス
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ナード・デュー サラ・アドラー ロニー・クラメール 
ジャン=リュック・ゴダール ジャン=クリストフ・ブヴェ

映画的な面白さという意味では、やはり80年代の傑作群、――具体的には『カルメンという名の女』や『ゴダールのリア王』など――には及ばない。

が、ひとつひとつの映像なり音楽なり、役者によって語られる言葉なりが、映画のなかで極めてバランスよくどれもが引き立つように配置されている。これはジガ・ヴェルトフ集団から商業映画に復帰後のゴダール(具体的には『パッション』以降。残念ながら『勝手に逃げろ/人生』は未見)にとても顕著な特徴であったが、ここ数年の彼の映画においてはさらに洗練されているように思う。

それが、このスクリーンから滲みだす豊潤さに繋がっているのではないか。特に、「天国編」の圧倒的に美しい画面!

★★★★★★★☆☆☆

処女の生血

Blood for Dracula
1974年/フランス=イタリア=アメリカ
監督:ポール・モリセイ
出演:ウド・キアー ジョー・ダレッサンドロ ヴィットリオ・デ・シーカ 
アルノ・ジュエギング ステファニア・カシーニ ドミニク・ダレル

傑作。

とにかくウド・キアーに尽きるわけだが、処女じゃない女の血を吸ってゲーゲー吐きまくる場面の、強烈にダークなアクションと悲哀の表現。ここでは無意味にカットを割らないモリセイの演出も冴え渡っている。

演出といえば、ウド・キアー演じるドラキュラは終始、痩せこけて顔が青白い不健康そうなただのオッサン的な佇まいなのだが、鏡にその姿が映らないシーンがあり、そこで我々はドラキュラが死者であることを再確認=再発見する。血が足りないため移動がずっと車椅子(笑)であろうと、「もう死にたい」と弱音を吐こうと(つーかあんた死んでるだろw)、やはり死者は怖い。

ラストは泣ける。泣けない奴はどうかしてる。

★★★★★★★★☆☆

2009年6月13日

ナインスゲート

The Ninth Gate
1999年/フランス=スペイン
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ジョニー・デップ フランク・ランジェラ エマニュエル・セニエ 
レナ・オリン バーバラ・ジェフォード ジャック・テイラー

出来不出来の激しいポランスキーだが、これは完全な失敗作。フィルムノワール的な雰囲気の中盤まではなかなかよろしいんだが、それ以降は独り善がりで何がなんだかよくわからないです。特にラストの脱力感は、他の映画ではなかなか味わえない。まぁそこを含めてあえて「説明しない」のは、ポランスキーの慎み深さと好意的に捉えるとしても、やっぱりこれでは詰まらないと思う。

あと、エマニュエル・セニエが演じた役柄はいったい何だったのか? 何度かフワフワ飛んでたから普通の人間ではないんだろうけど・・・

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月12日

ミクロの決死圏

Fantastic Voyage
1966年/アメリカ
監督:リチャード・フライシャー
出演:スティーヴン・ボイド ラクエル・ウェルチ アーサー・ケネディ 
ドナルド・プレザンス エドモンド・オブライエン

小さくなっていられる時間は60分なのだが、映画内時間と実際の上映時間がきっちりクロスしているのがなかなか面白い。

つまり、体内に潜入するまでの過程はほんの40分ほどで語られる。冒頭の飛行機到着シーンから襲われるまでの簡潔さが本作のキモだ。スティーヴン・ボイドがワケのわからぬまま車に乗せられ、「ここで待て」と言われて車ごとエレベーターで下降。そこにゴルフのカートみたいなのが乗り付けており、この移動のスムーズさが極めて映画的だ。

実際にミクロサイズになって人体に潜入するシークエンスよりも、個人的にはこういうスピーディーな演出に惹かれてしまうのである。ラクエル・ウェルチの巨乳!と、それに群がるオッサンたちw

★★★★★★☆☆☆☆

絞死刑

1968年/ATG
監督:大島渚
出演:佐藤慶 渡辺文雄 石堂淑朗 足立正生 戸浦六宏 小松方正


大島渚の、死刑問題と在日朝鮮人問題のプロパガンダ映画。全編通じてメッセージ性が前面に出すぎているため、概ね好きな映画ではない。それ以前に、どうも画面のつくり自体が舞台調で、やたらと登場人物が床に寝転がる。そのせいか、どうもこちらの居心地が悪くなるんだよなぁ。映画見てて「居心地が悪い」ってのは致命的だと思うんだが、どうか。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月8日

ロゼッタ

Rosetta
1999年/ベルギー=フランス
監督:リュック=ピエール・ダルデンヌ ジャン=ピエール・ダルデンヌ
出演:エミリー・ドゥケンヌ アンヌ・イェルノー ファブリッツィオ・ロンギーヌ


う~ん・・・つまらない。なぜなら、ダラダラしているからだ。なるほど、画面が微妙にブレる手持ちカメラ+主人公と同じ目線で撮れば、何となくドキュメンタリータッチには成り得る。しかしそれは、そういう"風合い"になるということでしかない。つまり、これは作家の個性の現出でもなければ、テクニックでもない。そもそも、普通のシーンを普通に撮っていればダラダラしてしまうわけで、映画というメディアはそう成らないために開発されたものではなかったか。

明らかにブレッソン(『少女ムシェット』?)を意識した作風だとは思うが、天才の猿真似をすると総じて悲惨なことになるというお手本のような映画。ついでに言えば、主人公ロゼッタを演じるエミリー・ドゥケンヌの顔は、90分間ずっとスクリーンでアップで見続けることのできる顔ではない。(念のため言っておくが、これは彼女が美人かブサイクかという低次元のレベルの話ではない。) ロゼッタもアル中の母親もワッフル屋の社長も男友達も、とにかく暗い。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2009年6月7日

怪談かさねが渕

1957年/新東宝
監督:中川信夫
出演:若杉嘉津子 和田孝 北沢典子 丹波哲郎 中村彰


クライマックス15分、お累の死を告げる籠の場面から、新吉とお久が羽生へと逃げる、一連の怒涛のシークエンス! これでもかというほど執拗なお累の特殊メイクと、陣十郎への絡み。切りつけても幽霊が忽然と消える演出は編集によって成されているが、多少の技術の稚拙はあれど、映画の質に関わるほどではない。墓標と灯篭が3つ並ぶラストカットの余韻。

怖さという視点では『東海道四谷怪談』や『亡霊怪猫屋敷』に見劣るものの、倍の長さでリメイクされた中田秀夫の『怪談』が見るも無惨な出来なだけに、中川信夫版オリジナルの素晴らしさがいっそう際立つ結果となっている。

★★★★★★★★☆☆

未来世紀ブラジル

Brazil
1985年/イギリス=アメリカ
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョナサン・プライス キム・グライスト イアン・ホルム 
ロバート・デ・ニーロ キャサリン・ヘルモンド ボブ・ホスキンス

ディックの小説を具現化したような近未来SF。

美術やセットはかなりの映画的空間を造形しているが、映画としては極めて冗長でたいくつ。まぁ簡単に言えば、面白くないわけだ。特に、主人公がみる夢のシーンの緊張感のなさが致命的だと思う。デ・ニーロの神出鬼没な2度の登場も、これ見よがしでキライだ。

どうもテリー・ギリアムの独特の世界はニガテだなぁ。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

マタンゴ

1963年/東宝
監督:本多猪四郎
出演:久保明 水野久美 小泉博 土屋嘉男 佐原健二 八代美紀 
太刀川寛 天本英世

今あらためて見ると特殊効果がチープに見えてしまうのは仕方ないが、カビだらけの船内の美術なんかはなかなか頑張っている。全体的に粗さはあるものの、現場の創意工夫が伝わってくる良作だと思う。

現在の特殊技術を駆使して、この映画のファンである黒沢清あたりにリメイクしてもらいたいもんだ。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年6月6日

駅馬車

Stagecoach
1939年/アメリカ
監督:ジョン・フォード
出演:ジョン・ウェイン クレア・トレヴァー トーマス・ミッチェル 
ルイーズ・プラット ジョン・キャラダイン

今さら語るまでもない、映画史に残る名作。だが、個人的な好き嫌いで言えば、この映画はあまり好きではない。

リンゴー・キッド(ジョン・ウェイン)登場シーンの品のないズーミング。そして、ラストの決闘はたしかに「省略の妙」かもしれんが、ここはきっちりカットを割って見せてほしかった気がする。そこが残念。

しかし、アパッチとの荒野での馬上銃撃戦の迫力は凄まじい。こういうド派手な映像は、今の時代だと「すごいけど、どうせCGだろ」で済ませられてしまうわけだ。70年前のこの映画はまさに「見世物」として、筆舌に尽くし難いクオリティを発揮していると思う。この10分間の活劇は、まさに映画史に残る名シーンだ。まぁ、淀川長治さんが存命のころあらゆる媒体で語ってたから、今さら俺が言うまでもないんだがw

あ、「インディアン蔑視映画だからけしからん!」とか言う人いますけど、これも映画ファンとは違う人種なので、無視しちゃっていいです。念のため。

★★★★★★☆☆☆☆

恐怖の振子

The Pit and The Pendulum
1961年/アメリカ
監督:ロジャー・コーマン
出演:ヴィンセント・プライス ジョン・カー バーバラ・スティール 
ルアナ・アンダース

冒頭の断崖にそびえる古城と雰囲気満点の音楽で、怪奇映画としてのクオリティは保証されたようなもの。

前半は、せっかくの美術とバーバラ・スティールのクールな美貌が生かされず、台詞に頼ったストーリー展開に少々イライラするのだが、バーバラが棺から起き上がってからラストまでのテンションは素晴らしい。

特に、題名にもなっている振り子の迫力と不気味さは特筆に値する。鋭い刃のついた振り子が、寝ている男に向かって徐々に下りてくるのだが、この時間の引き延ばし方はヒッチコック的ですらある。ただ、けっきょくその男が助かってしまうことが残念! あのまま腹を裂かれて死んでくれれば尚良かったのだがw

★★★★★★★☆☆☆

2009年6月5日

千と千尋の神隠し

2001年/スタジオジブリ
監督:宮崎駿

2度目の観賞。冒頭30分の物々しさと疾走感は特筆に値する。それぞれのキャラが強烈すぎるし、飽食の両親が豚になってしまうイメージなど、子供に見せるべき映画ではないw

ファンタジーとしてもドラマとしてもあまりにも異質であり、名作には違いないだろうが、はたして胸を張って「面白い」と言えるかどうか。ラスト、千尋と竜との飛翔にはまったく高揚感がなく、じつに貧困で、「ニルスのふしぎな旅」以下だ。『風の谷のナウシカ』を撮った監督と同じ人とは思えない。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年6月3日

クローズ・アップ

Nema-ye Nazdik
1990年/イラン
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ホセイン・サブジアン ホセイン・ファラズマンド アボルファズル・アハンカハー 
メハダッド・アハンカハー モフセン・マフマルバフ

実際に事件に関わった被害者と加害者がそれぞれ本人たちを改めて演じるという、なんとも奇妙な味わいの陰惨なセミ・ドキュメンタリー。

ラスト、マフマルバフ本人が「自分のニセモノ」であるサブジアンを迎え、バイクで「被害者」アハンカハーの自宅に向かうシークエンスは圧巻だ。マイクの接触が悪く声が途切れ途切れなのも妙にリアル。(まぁキアロスタミのことだから、これも狙ったものかもしれないがw)

しかしキアロスタミは本当にあざとい。冒頭の、缶が坂道を延々と転がっていく様を映し出した場面なんかも、この人が撮ると嫌味がないんだよなぁ。

★★★★★★★☆☆☆

2009年6月1日

赤線地帯

1956年/大映
監督:溝口健二
出演:京マチ子 若尾文子 木暮実千代 三益愛子 町田博子 
川上康子 進藤英太郎 沢村貞子 浦辺粂子

溝口の遺作。最期に至っても溝口のスタイルは終始一貫、貫徹している。売春というテーマも扱っても、聡明な溝口は熊井啓のように社会派ぶらない。カネとセックスを映画的小道具として画面に活き活きと登場させる。(もちろんセックスシーンが出るわけではない。女の裸すら出ない)

しかしまぁ、若尾文子のカワイイこと! 彼女の立ち振る舞いを見るためだけでも、この映画を見る価値がある。それに対し、京マチ子のオーバーアクトはちょっと恥ずかしいな。

九州から出てきた生娘が厚化粧を施し客引きをためらう表情をアップでとらえたラストカットが印象的だ。それにしても、ゲゲゲの鬼太郎みたいなニョイ~ンとした音楽はどうにかならんかったのか?

★★★★★★★☆☆☆