2009年3月31日

バルタザールどこへ行く

Au Hassard Balthazar
1964年/フランス=スウェーデン
監督:ロベール・ブレッソン
出演:アンヌ・ヴィアゼムスキー フィリップ・アスラン ナタリー・ショワイヤー


何度見てもすごい。一切の情感を廃した厳しい映像のオンパレード。バルタザールの瞳に映る憂いと潤い。そして、手と足の動きのスペクタクル。

トリュフォーが「この映画は美しい。ただひたすら美しいのみだ」と言ったとか。確かに美しいが、研ぎ澄まされた厳しい映像が観るものを叩きのめす映画。ブレッソンの遺作『ラルジャン』もかなりの荘厳さだが、『バルタザール・・』は陰惨さが過ぎて、ちょっと俺には厳しすぎるかもしれない。

ラスト、死にゆくバルタザールを俯瞰でとらえた映像にはさんざん泣いた。もうこうなると趣味の領域だが、これをブレッソンの最高傑作と評価する人が多いのも充分に納得できる。

★★★★★★★★☆☆

ミュンヘン

Munich
2005年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:エリック・バナ ダニエル・クレイグ キアラン・ハインズ 
マチュー・カソヴィッツ ハンス・ジシュラー ジェフリー・ラッシュ

う~ん・・・普通だなぁ。情報屋のルイの描き方とかキャラ、あるいは、爆弾仕掛けた電話をめぐるサスペンスなんかはとてもいいのだけど、さすがにその緊張感が164分持続しない。

銃の撃ち合いのシーンは極めて凡庸な演出。スピってこんなヘタクソだっけ・・・?

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年3月29日

都会のアリス

Alice in den Stadten
1973年/西ドイツ
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:リュディガー・フォグラー イエラ・ロッドレンダー リサ・クロイツァー


まるで処女作のような瑞々しさに満ちている傑作。

アリスのおばあちゃんの家を探すだけのロードムービーだが、印象的なショットが多い。青年がアリスと出会いまでのゆったりとした時間の流れ方もいいし、回転扉での出会いが最高。スカジャンを着こなし、空港の女子トイレに篭って泣き出すアリスと、ドアの外から説得する青年の場面もイイ。そして、ジョン・フォードの死を報じる新聞→ラストの空撮。

ヴェンダースの古典的な現代性って語られやすい部類ではあるんだが、ちゃんと彼にについて語った文章にまだお目にかかったことがない。どこかにいないのか、真っ向からヴェンダースを語れる人は。

★★★★★★★★☆☆

反撥

Repulsion
1964年/イギリス
監督:ロマン・ポランスキー
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ イヴォンヌ・フルノー ジョン・フレイザー 
イアン・ヘンドリー パトリック・ワイマール

ヘンタイ監督ポランスキーの美少女虐待ドSムービー。最近は『戦場のピアニスト』とか真面目路線に行ってるけど、『テナント』『赤い航路』とか、こっち路線のほうが面白い監督だと思う。ま、13歳少女強姦でいまだにアメリカ本土には足を踏み入れられないらしいから、偏見かもしれんが、まともな人じゃないよね。

さて、映画のほうは、ドヌーヴ演じるキャロルをこれでもかと苛めまくる。華奢な処女に向けられるサディスティックな視線は、鶴田法男の『リング0 バースデイ』に通ずるものがあり、個人的には大好きなのだ。

中盤以降、加速度的にキャロルの精神が崩壊していくのだが、彼女の見る妄想=鮮烈なイメージ の積み重ねは圧倒的だ。部屋の壁が割れるイメージは、黒沢清の『叫』に流用されており、これがまた割れ方といい効果音といいほんとにソックリなのだ。アパートの奥にあるバスタブに沈めた死体を最後まで見せないことも、なかなかいい効果をあげていると思う。

集合写真でひとりだけ別のとこを見てる少女時代のキャロルの眼が怖い。

★★★★★★★★☆☆

無防備都市

Roma, Citta, Aperta
1945年/イタリア
監督:ロベルト・ロッセリーニ
出演:アルド・ファブリッツィ アンナ・マニャーニ マルチェロ・パリエーロ 
マリア・ミーキ

戦争と貧困というロッセリーニらしいテーマを前面に押し出しているが、どうもこの人の映画は作りが適当というか雑というか・・・。正直ニガテな部類に入る。

マニャーニがあっさり死んでしまったのには驚いたが、序盤~中盤は冗長で退屈。しかし、拷問の場面から神父の処刑シーンまでは実に力強い画面の連続だ。

★★★★★☆☆☆☆☆

ツールボックス・マーダー

Toolbox Murders
2003年/アメリカ
監督:トビー・フーパー
出演:アンジェラ・ベティス ジュリエット・ランドー ブレント・ローム 
クリス・ドイル ランス・ハワード

何気なく見始めたのだが、「いやぁ面白いなこれ」と思ってたらなんと監督はフーパーではないか! う~ん、さすがです。なんでこれが日本未公開なのん?

前半、シークエンスが変わるたびに、わざわざ惨劇の起こる建物を下からのあおりでネットリと撮る。この近代的な"ラスマン・アームズ"を、禍々しい場所と観客にはっきり認識させるには無理があるが、フーパーのこの努力とホラー映画への奉仕ぶりには感服するしかない。主人公のカップル以外は、基本的にヘンな人間しか登場しないのもフーパーらしい。

建物の屋上で揺れるロッキング・チェアーが不気味でイイ。B級映画の枠組み中で、こういう画を見ると本当に嬉しくなるのだ。あれで別の映画を思い出したのだが、何だっけなぁ・・・。

★★★★★★★☆☆☆

2009年3月28日

めぐりあう時間たち

The Hours
2002年/アメリカ
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ニコール・キッドマン ジュリアン・ムーア メリル・ストリープ 
スティーヴン・ディレイン ミランダ・リチャードソン ジョン・C・ライリー

ジュリアン・ムーアが可愛い。そのミステリアスさの表現、大した女優です。42歳の女優さんにカワイイってのはちょっと違うのかもしれんが、可愛くて肉感的でセックスしたいと思わせる42歳はなかなかいない。ニコール・キッドマンは髪の色を変えただけでぜんぜんイメージが違うなぁ。

映画全体の感想を率直に言うと、ちょっと納得しがたい詰まらなさ。ま、俳優の演技合戦を見たい人にはイイんじゃないスか。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

驟雨

1956年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:佐野周二 原節子 香川京子 小林桂樹 根岸明美


成瀬流のスクリューボール・コメディ。倦怠期夫婦の痴話ゲンカだけで95分を見せてしまうのは凄いね。原節子が佐野周二に灰皿を投げてよこすわ、立ったまま茶漬けをすするわ、面白シーンがたくさんあるんだが、ラストの風船バレーが面白すぎる。

香川京子がとても可愛く、登場シーンから映画全体が明るくなる。それだけに、後半出番がなかったのが残念。一応写真で出てくるけどね。

★★★★★★★☆☆☆

ペイルライダー

Pale Rider
1985年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリンド・イーストウッド マイケル・モリアーティ キャリー・スノッドグレス 
シドニー・ペニー リチャード・ダイサート クリストファー・ペン

牧師ガンマンは幽霊なのかな? それっぽいことが示されるカットがいくつかある。それを明らかにしないのはイーストウッドの照れによるものかはわからないが、「西部劇は死んだんだよ」という、彼なりのメッセージは感じた。

牧師が初登場、棒っきれでならず者たちを打ち倒すシーンの厳しさにゾクゾク。ラフッドを演じるリチャード・ダイサートのギョロ眼と甲高い声がイイ。こういうところでの自分の心の動きを観察すると、俺は本当にアメリカ映画が好きなんだなぁと、あらためて実感する。

ラストシーンには涙を禁じえない。物語に涙するのではなく、物語の「見せ方」に涙するのだ。『シェーン』の凡庸な画面設計にあくびした人間ならなおさら。

★★★★★★★★☆☆

2009年3月27日

エヴァの匂い

EVA
1962年/フランス
監督:ジョセフ・ロージー
出演:ジャンヌ・モロー スタンリー・ベイカー ヴィルナ・リージ リザ・ガストーニ


だめだぁ・・・。ロージーが上手いのはわかるんだが、これ見よがしなショットがどうも鼻に付くし、ジャンヌ・モローのヘの字口がどうも好きになれん・・・。しかし、なんでファム・ファタールがJ・モローなんだろ? 当時なら、BBとかいくらでも妖艶な悪女が似合う女優がいたと思うがなぁ。同じヘの字口でも、若くて可愛いフランチェスカ(V・リージ)のほうがずっといいです。

エヴァの神出鬼没な登場シーンは良かった。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年3月26日

パンと裏通り

Bread and Alley
1970年/イラン
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:レザ・ハシェミ メヘディ・シャバンハール


キアロスタミのデビュー作で、12分の短編。これは貴重。シネフィル・イマジカに感謝です。

キアロスタミらしいフィックスカメラでの微妙な長廻しが早くも見られるが、印象的なのはパンの多用と手持ちカメラでの手ブレ映像。ゴダールの影響を指摘する声が多いのも頷ける。

短編なので採点はしません。

トラベラー

Mossafer
1974年/イラン
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:マスード・ザンベグレー ハッサン・ダラビ


キアロスタミらしい演出はこんな小品でも顕在化している。特筆すべきは、23時発の夜行バスを待つ少年の室内の場面から、うつらうつらする中で気付けば出発5分前、身支度してバス停まで駆け抜けるまでのシークエンスの興奮。バスの中での濃密な時間の描き方も良い。ラスト、ガランとしたスタジアムをとらえた俯瞰ショットにもゾクリ。

★★★★★★☆☆☆☆

スリ(掏摸)

Pickpocket
1960年/フランス
監督:ロベール・ブレッソン
出演:マルタン・ラサール ピエール・レマリ マリカ・グリーン


手の動きだけでアクション映画を撮ってしまうブレッソン。劇的な物語などどこにも無いが、画面そのものが劇的であるという心憎いまでのブレッソンぶりをここでも発揮。

台詞回しが単調なのはキャストが全員素人ということもあるだろうが、ブレッソンの演出なんでしょうね。登場人物はほとんど表情すら変えない。(変えるのは、ミシェルが地下鉄の出口でスリ行為を咎められるシーンと、ラストくらいなもの。)

ジャンヌ役のマリカ・グリーンがとても可愛かったけど、彼女はのちに『エマニエル夫人』でエマニエルとレズプレイに興じるビー先生だったとは!

★★★★★★★☆☆☆

2009年3月24日

ポーラX

Pola X
1999年/フランス=ドイツ=スイス=日本
監督:レオス・カラックス
出演:ギョーム・ドパルデュー カテリーナ・ゴルベワ デルフィーヌ・シュイヨー 
カトリーヌ・ドヌーヴ ペトルーナ・カターナ ローラン・リュカ

なんだこのゴダールの出来損ないみたいな映画は・・・。『汚れた血』や『ポンヌフの恋人』はここまで酷くなかったんだがなぁ。カラックスのオナニーを見せられてる気分で、見てて恥ずかしくなる。56歳のドヌーヴが静脈の浮き出た白い巨乳を披露したところでそんなものには誤魔化されないぞ俺は!(当たり前)

音のバランスがおかしい。バイクの音や造船工場(?)での演奏の音量は耳をつんざくほどのボリュームなのに、会話はボソボソで何言ってるか不明。まぁフランス語わからんのだけどね。

後半は画面がひたすら暗く、うちの液晶テレビじゃ黒がつぶれるので何が起こってるのかよくわからない。お金に余裕ができたらプラズマテレビにしようっと・・・。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2009年3月23日

戦場のピアニスト

The Pianist
2002年/フランス=ドイツ=ポーランド=イギリス
監督:ロマン・ポランスキー
出演:エイドリアン・ブロディ トーマス・クレッチマン エミリア・フォックス 
ミハウ・ジェブロフスキー エド・ストッパード モーリン・リップマン

市街戦を俯瞰でとらえたショットが良い。それを割れた窓から見るブロディのまなざしもとても良い。終始、戦中のワルシャワの色褪せた雰囲気で、ルックの統一という意味でもこの美術やセットはなかなか頑張っている。

ユダヤ人を匿うとドイツ兵に殺されるかもしれないのに、何名ものポーランド人がシュピルマンを保護する動機付けが甘く、ちょっと戸惑ってしまうなぁ。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年3月21日

アリスの恋

Alice Doesn't Live Here Anymore
1974年/アメリカ
監督:マーティン・スコセッシ
出演:エレン・バースティン クリス・クリストファーソン ビリー・グリーン・ブッシュ 
ダイアン・ラッド ハーヴェイ・カイテル ジョディ・フォスター

アリスの息子・トムがアホすぎて面白い。かつて映画の子役でこんなヘンなキャラクタリゼーションがあっただろうか。あと、食堂の同僚ダイアン・ラッドもとても良いのだが、それ以上にベラを演じるヴァレリー・カーティンの立ち振る舞い。

逆に言えば、そういうキャラの面白さでしか語れない映画かもしれない。

ラストはやっぱりハリウッド的な終わり方。アリスにクリストファーソンをグーで殴って欲しかったなぁ・・・。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年3月20日

遊星からの物体X

John Carpenter's The Thing
1982年/アメリカ
監督:ジョン・カーペンター
出演:カート・ラッセル ウィルフォード・ブリムリー ドナルド・モファット 
キース・デヴィッド リチャード・ダイサート T・K・カーター チャールズ・ハラハン デヴィッド・クレノン

どうだろう・・・その日の気分にもよるが、「貴方の生涯ベストワンは何?」と訊かれたら、これを挙げてしまうかもしれない。今まで20回は見てるかなぁ(ちなみに20回以上見てるのは、これとゴダールの『気狂いピエロ』くらい)。とにかく現場で創作意欲がビシビシと伝わってくる、大傑作。

どっかのアホ評論家がこの大傑作を「特殊メイクがどれだけ上手くできているとか、そういう視点でしか語れない貧しい作品」と、頭の弱い評論を述べていたが、ハッキリ言おう。お前の脳味噌のほうがよほど貧しい。その頭の中に詰まってるのは豆腐か?w

まず、ひとつひとつのカットに全く無駄がない。そして、カットそれぞれが驚愕すべきパワーを持って我々に迫ってくる。こんな奇跡みたいなことは映画だから可能なんだな。

シベリアンハスキー犬の変身シーンはまだまだ序の口。逆に言えば、このシーンやノリスの首がちぎれて蜘蛛になるシーンの特殊メイクばかりが取り沙汰されるから、この映画本来のクオリティが見過ごされてしまう結果となっている。確かに、CGではないロブ・ボッティンの手作りの特殊メイクはすばらしい。が、映画が本来持つ大きな力をこれだけ再認識させてくれる映画もない。だから我々は、「アメリカ映画」を観るために、わざわざ1800円も払っていそいそと映画館の暗闇に出かけるのだ。

血液検査のシーンが筆舌に尽くしがたい。観客までもが「物体」にのっとられていると信じて疑わない隊長に、カート・ラッセルが「お前は最後に検査する」と言い、熱した鉄線をパーマーの血液に触れた瞬間の演出の迫力と戸惑いと驚き! 血が熱から逃げて「キュエー!」と逃げ惑い、ウィンドウズの持つ火炎放射器はなぜか不調で火を吹かない(お約束だがw)。

ノルウェー基地から拾ってきた、顔が半分に裂けた(つまり、同化される途中の)死体のアヴァンギャルドさがもう最高だし、お互いに疑心暗鬼に陥る中での急に駆け出してライフルを手に取るウィンドウズの表情と、それに銃を突きつけるギャリー隊長のスタンスとか。もう、語り始めたらキリがないので、 このへんでやめます。

ああ、どこかでリバイバル上映してくれないかなぁ・・・ 家族が死のう自分が死のうが、何を差し置いても観に行くのに。

★★★★★★★★★★

昼顔

Belle de Jour
1967年/フランス
監督:ルイス・ブニュエル
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ ジャン・ソレル ジュヌヴィエーヴ・バージュ 
ミシェル・ピコリ マーシャ・メリル ピエール・クレマンティ

ブニュエルって本当に趣味がいい。まぁいろんな意味でそうなんだけど(エスプリの効いた台詞もそうだが)、ドヌーヴに着せてる衣装はイヴ・サンローランでしょこれ。あと、テニススクールでの超ミニスカートとかさ、鼻血もんですよこれわ。

ドヌーヴもメチャメチャいいんだが、なんつってもピエール・クレマンティのエキセントリックさが最高だわこれ。ナイフの仕込み杖とか、何をやらかすかわからんアブナイ雰囲気が漂ってる。

ミシェル・ピコリとマーシャ・メリルのコンビもいいですね。この頃のフランス映画は、こういう俳優が居るからイヤになる。ある意味反則でしょw あと、ジャン・ソレルの落ち着いた佇まい。

今あらためて見直すと、ブニュエルが巨匠として堂々たる演出を見せている。ドヌーヴの幼少時代のフラッシュバックとか、ブニュエルにしては珍しい表現。

★★★★★★★★☆☆

怒りの街

1950年/田中プロダクション
監督:成瀬巳喜男
出演:宇野重吉 原保美 若山セツコ 久我美子 岸輝子 志村喬 
村瀬幸子 浜田百合子 木匠久美子

いつも思うのだが、成瀬作品が素晴らしい最大の要因は、「物語がよくわかる」という点にあると思う。

まず物語(脚本)がある。それを全部カメラで撮るのは無理なわけで、何を見せて何を見せないでおくか、という選択の作業が次にくる。そうやって撮影したものを、どこを何秒、どういう順番で見せるかを決めていく。これが映画作りのプロセスだ。成瀬の場合、その作業をいとも簡単にやっている(ように見える)。自分では良くわかるが、果たしてそれが観客にもちゃんとわかるのか。そのへんのところを細心の注意をもって見極める能力が卓越しているのだ。

この『怒りの街』は、見事に人間の内面たる本性を描いた映画だ。原保美のクールさと宇野重吉の苦悶の表情がよい。妹・雅子を演じる若山セツコ! 若い頃の竹下景子に似てて、特に回想シーンで見られるセーラー服姿がとても可愛い。

例に漏れず、ストーリーが極めて簡潔に語られるのだが、原保美がラスト近くでヤクザに顔を切られるシーンなど、呆然とするしかないカットが突如目の前に現れる。だから油断ならない。

★★★★★★★☆☆☆

死霊のはらわたⅡ

Evil Dead II
1987年/アメリカ
監督:サム・ライミ
出演:ブルース・キャンベル サラ・ベリー ダン・ヒックス 
キャシー・ウェズリー セオドア・ライミ

題名はⅡだけど、実際は前作のリメイクだね。中学以来、約17年ぶりに観賞。

映画としての技術やフレームワークは前作より進歩しているが、これでは「ホラーとして」ダメだと思う。
笑っちゃうけど、何よりぜんぜん怖くないんだもの。死霊に憑かれたキャラクターの行動や、ポルターガイスト的な現象に対して、観客の生理や好みがどう反応したかは関係ない。これは、構造論的な必然で怖くないのだ。

キャンベルが独り芝居をする、最初の20分くらいはかなりイイと思う。ライミも相当なホラー・マニアと見えて、クラシカルな味わいもある。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年3月15日

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

The Curious Case of Benjamin Button
2008年/アメリカ
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ブラッド・ピット ケイト・ブランシェット ティルダ・スウィントン 
ジェイソン・フレミング イライアス・コティーズ

これではつまらない。志が低い。こういう、脚本だけで完結してるような映画は好きになれない。

ベンジャミンが戦争を終えてクイニーの元に帰ってくる場面、又は、トーマス・バトンが実の父親である場面を打ち明ける場面の、演出の放棄の仕方はどうなの? 手を抜いてるとしか思えん。カットを細かく割ればいいってもんじゃないだろう。

さらに、デイジーが湖畔で踊るシーンや、トーマスの死のシーン。おそらく劇作上かなり重要な場面を、ああいう情緒的なやり方で済ませてしまうのはハッキリ言って不快だ。

そもそも、生まれたときは老人で段々と若返ってくるという設定なら、もっといくらでも面白くしようがあっただろう。この内容で上映時間164分は犯罪だ。死ぬべし。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

エクソシスト3

The Exorcist Ⅲ
1990年/アメリカ
監督:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
出演:ジョージ・C・スコット ブラッド・ダリフ エド・フランダース 
ジェイソン・ミラー スコット・ウィルソン ニコル・ウィリアムソン

いやしかし何度見てもすげーよこの映画。

映画としてもホラーとしても『エクソシスト』より数段上なのは言うまでもないが、何度目かの観賞で、ブラッド・ダリフという俳優に支えられてる部分もとても大きい映画なのだなぁと再確認した次第です。

よく引き合いに出される、病院での長回しのハサミ男襲撃シーンとか、分裂症の看護婦が主人公の家までハサミ振り回しに来るシーンとか、もちろんそういうシーンも大好きなんだけど、ブラッド・ダリフの迫力の前にはひれ伏すしかないでしょこれ。あの涙には脱帽した。だって物語的にはあそこで泣く意味もないし、演技に感情移入しすぎたせいで流した涙だと思うなぁ。

ラスト、カラス神父が自分を撃つように懇願する場面では不覚にも涙・・・

閑話休題。

前出のハサミ男襲撃シーン、これは何度見ても感動的です。なんつーか、、、「あ、それは起こった」みたいな。これが映画の発する力というものでしょう。

★★★★★★★★★☆

2009年3月14日

ラブ・オブ・ザ・ゲーム

For Love of the Game
1999年/アメリカ
監督:サム・ライミ
出演:ケヴィン・コスナー ケリー・プレストン ジョン・C・ライリー 
ジェナ・マローン ブライアン・コックス

野球のお話かと思ってたら完全にラブストーリーでした。

まぁそれはいいんだけど、とにかくサム・ライミの作品には顕著なのだが、説明的な顔のアップが気に入らない。

ケリー・プレストンが可愛かったので許そう。

★★★★☆☆☆☆☆☆

断崖

Suspicion
1941年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジョーン・フォンテイン ケイリー・グラント ナイジェル・ブルース 
セドリック・ハードウィック レオ・G・キャロル

「どうせ単なる妄想だろ?」と観客に思わせつつ、本当にグラントが人殺しだったというオチを期待していたのだが、ちょっと肩透かし。まぁ終わらせ方がかなり観客を放り出しているので、救われる部分も。

当初のヒッチコックの構想では、夫が殺人者だったらしい。でもスターのケイリー・グラントを人殺しにはできんだろってことで、けっきょくこうなっちゃったんでしょうね。

フォンテインが登場してしばらく、フォンテインのクローズアップだけやたらソフトフォーカスで撮影されている(冒頭の汽車のシーンは、たぶん最後のほうに撮影されたのだろう)。当時のハリウッド映画、キレイな女優さんにはこんな感じの撮影が多く、よくこんなんで成立したなと思わせるが、まぁいろいろあったんでしょう。

ナイジェル・ブルースの立ち振る舞いが面白い。プレゼントで包装してあっても、形でステッキって判るでしょ普通w

★★★★☆☆☆☆☆☆

許されざる者

Unforgiven
1992年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド ジーン・ハックマン モーガン・フリーマン 
リチャード・ハリス ジェームズ・ウールヴェット

素晴らしい。

何が素晴らしいって、いちいち挙げていたら朝になってしまうが、特に、クライマックスの娼婦小屋での決闘シーンだ。意味なくカットを割らない、このシンプリシティ。脱帽です。

イーストウッドの映画は、映画そのもの。我々に語る気をなくさせてしまう。ただ「素晴らしい」と呟いて、画面を凝視してればいい。

ラスト、「セルジオとドンに捧ぐ」のクレジットには泣いてしまった。

★★★★★★★★★☆

2009年3月13日

パンチドランク・ラブ

Punch-Drunk Love
2002年/アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アダム・サンドラー エミリー・ワトソン フィリップ・シーモア・ホフマン


ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)といえば、あれだけ『マグノリア』に打ちのめされたってのに、最新作の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は気がつけばもう公開終わってるし、この『パンチドランク・ラブ』すら見てなかったとはどういうこった・・・。

しかしまぁ、見てなかったのを後悔する素晴らしい出来映え。冒頭、白い部屋でカスタマーサービスに神経質な電話をかけるアダム・サンドラー。もうこのシーンから一瞬たりとも画面から目を離せなくなる。

早朝の道路でいきなり目前に置かれる古びたオルガン。ノーブラで颯爽と登場する小ジワの目立つ35歳のエミリー・ワトソン。テレクラに電話する場面とダイアローグの冗長さはあえて狙ったものだろう。かけまくる、かかってきまくる電話、電話、電話の嵐。姉たちとのパーティーで唐突に窓ガラスをハンマーで叩き割るバリー。事務所の前に置かれる4個1セットのプリンの山。もはやPTA組ともいえる(家具屋の)フィリップ・シーモア・ホフマンの不敵さ。アダム・サンドラーは終始青いスーツ+青いネクタイ。ハワイに行くのも荷物も持たず着の身着のまま。そのすべてが心地いいのだ。

それにしても、なんなんだろうこの古典を見るような感覚は。それぞれの場面において唐突にクライマックスが訪れる様は、1920年代のサイレント映画を見てるようだ。バリーが経営する会社(この会社も何を業としてるのかよくわからん)もジャック・タチの『プレイタイム』を想起させる見事な映画的空間造形。

『マグノリア』の時も感じたことだが、PTAという人は、たぶん相当なシネフィルだな。かなりの数の映画を見てきてると思う。そして、やはり映画史から目を背けることはできない、そんな野暮ったい使命感の中で映画を撮っているんだろう。PTAは、不器用ゆえに職人に成り切れない宿命を背負った天才作家だという認識を、改めて強くした次第です。

なんだかよくわからんがこりゃエライこっちゃ。さっそくDVD買わねば。

★★★★★★★★★★

2009年3月8日

コーヒー&シガレッツ

Coffee and Cigarettes
2003年/アメリカ
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ロベルト・ベニーニ スティーヴ・ブシェミ トム・ウェイツ ルネ・フレンチ 
ケイト・ブランシェット アルフレッド・モリナ ビル・マーレイ

ジャームッシュらしくほとんどカメラが動かない編成で、コーヒーとタバコを楽しみながら登場人物たちのお喋りが繰り返される。そういうダイアローグ自体が面白いわけでもないし、ジャームッシュのスタイル自体が苦手ってのもあるんだが、これではつまらない。映画として全く興奮できない。

ミュージシャンがたくさん出演しているので、彼らのファンには楽しめるのかも。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年3月7日

コールド マウンテン

Cold Mountain
2003年/アメリカ
監督:アンソニー・ミンゲラ
出演:ジュード・ロウ ニコール・キッドマン レニー・ゼルウィガー 
アイリーン・アトキンス ナタリー・ポートマン フィリップ・シーモア・ホフマン ドナルド・サザーランド ジョヴァンニ・リビシ レイ・ウィンストン

実に155分・・・長すぎる! 正当化できない長さ。

しかし良い場面がたくさんある。北部の兵士と未亡人ポートマン、その赤ん坊とジュード・ロウの直線的な描き方。ここでの画面作りには感動した。そしてクライマックス、雪山での銃の撃ち合い。そして森の斜面をとらえる馬上の2人。

逆に言えば、そういう視点でしかこの映画を擁護できないなぁ。キッドマンとロウのセックスシーンも、ミンゲラは撮りたくなかっただろう。ここだけ妙に浮き上がっちゃってる。

★★★★☆☆☆☆☆☆

イタリア旅行

Viaggio in Italia
1953年/イタリア
監督:ロベルト・ロッセリーニ
出演:イングリッド・バーグマン ジョージ・サンダース レスリー・ダニエルズ 
ナタリア・ライ マリア・モーバン

バーグマンはナポリで博物館や美術館めぐりで、夫はカプリを観光。観光映画と揶揄されても仕方のない作りではある。

祭りの行列で群集に飲まれてバーグマンが夫から離れていき、再び近づいたときになぜか愛情も復活。劇作上はまったく正当化されない強引さだが、わけのわからぬ唐突さに惹かれるものはあった。

しかしここのでバーグマンは完全におばさんだなぁ。『ストロンボリ/神の土地』までは良かったんだけども。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年3月6日

近松物語

1954年/大映
監督:溝口健二
出演:長谷川一夫 香川京子 南田洋子 進藤英太郎 小沢栄

これも10年ぶりくらいに観た。

宮川一夫のキャメラと、長谷川一夫のスター性、そして香川京子の可愛さ。しかし、何より溝口の画面作り。カッコイイ。かっこよすぎる。

なんといっても、おさん(香川京子)が茶屋から逃げる茂兵衛(長谷川一夫)を痛む足を引き摺りながら追いかけ、最後には抱擁して転げまわる場面。この斜面の演出と、役者の情感をフィルムに定着させる技術は神業ですね。

ごくごく普通の家屋の中での静かな移動撮影と、陰影がはっきりした映像。ワンシーンごとの静かな余韻。完璧。ハリウッドでのパーフェクトな古典がルビッチだとすれば、日本では間違いなく溝口でしょう。小津でも成瀬でも、ましてや黒澤明でもない。

しかし、完璧すぎてどうも可愛げがないw ヘソ曲がりな俺にとっては、少し雑なとこを残す成瀬のほうが好きだったり。こうなるともう好き嫌いの問題だな。(いやもちろん溝口も大好きなんだけど。) そんなわけで、星9つです~

★★★★★★★★★☆

2009年3月3日

ミッドナイト・エクスプレス

Midnight Express
1978年/アメリカ
監督:アラン・パーカー
出演:ブラッド・デイヴィス アイリーン・ミラクル ランディ・クエイド 
ジョン・ハート ポール・スミス ボー・ホプキンス

これは確か・・・、高校1年の冬にビデオで観たんだと思う。両親と一緒に観たから覚えてます。実に16年ぶりの再会。16歳という多感な時期に観たってこともあるんだけど、映画にハマるキッカケになった作品のひとつだから、思い入れもありますね。

いやぁやっぱり、実に力のある映画。ブラッド・デイヴィスという俳優に支えられた作品という見方もできるが、あまりにも陰惨な物語、陰惨な語り口のなかで、アラン・パーカーという監督の力量を再認識できる。特に、ビリーがリフキに対する憎悪を剥き出しにする場面の迫力はどうだ。これが映画というメディアの持つ力だ。

そして、なんといってもラストシーン。殺した看守の制服を奪って脱出を謀り、通りで小型ジープが過ぎ去るまでのバクバクした緊張感と、過ぎ去ってからの小躍りのストップモーション。この一連のシークエンスに涙できない人は、映画を見る資格がない。

★★★★★★★★★☆

2009年3月1日

エミリー・ローズ

The Exorcism of Emily Rose
2005年/アメリカ
監督:スコット・デリクソン
出演:ローラ・リニー トム・ウィルキンソン ジェニファー・カーペンター 
キャンベル・スコット コルム・フィオール メアリー・ベス・ハート

てっきりオカルトホラーかと思って観てたら裁判モノでした。裁判のシーンを始め、シナリオに頼り切ったような画面作りで、どうもこういう、脚本だけで完結しているような映画は好きになれないのです。

エミリー役のジェニファー・カーペンターがシャクレのブサイクで、なんでこんな女優が起用されたのか・・・? まぁいわゆる「体当たりの演技」なんだろうけどさ。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

アイズ ワイド シャット

Eyes Wide Shut
1999年/アメリカ
監督:スタンリー・キューブリック
出演:トム・クルーズ ニコール・キッドマン シドニー・ポラック 
マリー・リチャードソン トッド・フィールド

劇場公開時以来、10年ぶりに見直した。やはりキューブリックの遺作に相応しい傑作です。

パーティに招待され、アリスが老紳士と踊るシーンの濃密な空間設計から、もう片時も画面から目が離せなくなる。屋敷での仮面乱交会のシーンを始めとした、全編に漂うミステリアスな雰囲気もさることながら、とにかく美術とセットが素晴らしい。特にニューヨークの街角のシーンはなんと全てスタジオセット! このお金の使い方は、日本映画には絶対にマネできないと思う。

ニコール・キッドマンの奇跡的な美しさ。

★★★★★★★★★☆

人喰族

Cannibal Ferox
1984年/イタリア=アメリカ
監督:ウンベルト・レンツィ
出演:ロレーヌ・ド・セル ジョン・モーゲン ブライアン・レッドフォード 
ゾーラ・ケロヴァ ヴェナンチーノ・ヴェナンチーニ

さて、イタリアといえばゾンビとカニバリズムなわけだが(偏見です)、カニバリズム(食人)って言葉の語源は、祭りのカーニバルCarnivalじゃなく、カリブ族を意味するCanibalだそうですね。なんでもカリブ族は16世紀頃、人肉を食べると信じられていたからだそう(ウィキペディアより)。いや~、映画見てるといろいろ勉強になりますね!

で、映画の方はというと・・・眠たくなるんだなこれがw 芋虫をナマでムシャムシャ食べたり、犠牲者の男のポコチンを切り落としてこれまたムシャムシャ食べちゃうシーンは「おおっ!」って感じだし、亀やワニを解体するところは本物を使ってる(?)こともあってかなり陰惨な感じで仕上げてくれてはいるんだけど、もうね、なんつーか、作りが適当で、見ててツライもんがあるよこれは。

まぁ見世物映画だから仕方ないんだけど。DVDの特典映像も、スカトロ流血アダルトビデオとかだったし・・・w

★★☆☆☆☆☆☆☆☆