2009年10月31日

ターミナル

The Terminal
2004年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス キャサリン=ゼタ・ジョーンズ スタンリー・トゥッチ シャイ・マクブライド ディエゴ・ルナ クマール・バラーナ

飛行機の運航状況を示すボードをオープニングクレジットに被せ、エンドクレジットは関係者のサインで締めるという、「ああ、いいセンスだなぁ」と思わせる演出。やっぱりスピルバーグは巧い。

つい最近、ポーランドの作家カリンティ・フィレンツの「エペペ」という小説を読んだばかりで、『ターミナル』を見て前半、ちょっとその小説を思い出した。言葉の通じない異国での疎外感と孤独感。トム・ハンクス演じるロシア人が英語をマスターするスピードがあまりにも早すぎね?と思うところはあるのだけども、まぁそこをきっちりスルーして映画的真実として観客に納得させてしまうところは、さすがはスピと言っておきましょう。

何より、殆どJFK空港だけで展開される135分。ここまでテンションをキープさせることができる演出家を、俺は今のアメリカ映画では他に知らない。あえて言えばロン・ハワードくらいか? ジャック・タチのフランス映画、あるいは、ハリウッド全盛期のルビッチやキャプラを思わせる余裕たっぷりの空気感と時間感覚。しかし、滑る床の60年代風のお笑い演出は要らないかな。

トム・ハンクス以外のキャラクタリゼーションがヘタクソだとか、ステイシー・トゥッチはもっと悪く悪く描いて欲しかったとか、まあいろいろ不満はあるんだけど、ラスト30分は柄にもなく泣かされてしまった。とてもいい映画だと思います。お話がよく出来すぎている? 映画なんだからそれでいいじゃないか!

★★★★★★★★☆☆

2009年10月28日

はたらく一家

1939年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:徳川夢声 本間教子 生方明 伊東薫 南清吉 平田武 阪東精一郎 若葉喜世子

戦前に作られた反戦映画。政治的プロパガンダが前面に出てきており、成瀬の演出が入り込む余地がない。

フィルモグラフィーでは傑作『鶴八鶴次郎』の次作がこれ。戦前の成瀬作品は出来不出来が激しいな。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年10月25日

野望の系列

Advise and Consent
1961年/アメリカ
監督:オットー・プレミンジャー
出演:ヘンリー・フォンダ チャールズ・ロートン ウォルター・ピジョン ピーター・ローフォード バージェス・メレディス ジーン・ティアニー ドン・マレー

前半と後半で主役が代わる画期的な映画なのだが、その後半の主役も喉を掻き切って自殺し、終盤は主役不在の状態にw ラストシーン含めちょっと演出が散漫で、決してデキのいい映画ではないと思う。

それにしても当時のハリウッドベテラン俳優を豪華に配している。特に、チャールズ・ロートンの佇まいが素晴らしい。が、ヘンリー・フォンダの出番が思いのほか少なかったのが残念だ。赤狩りやホモセクシュアルを絡ませての描き方など、プレミンジャーの才覚が窺えてなかなか面白い。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年10月24日

晩春

1949年/松竹
監督:小津安二郎
出演:笠智衆 原節子 杉村春子 月丘夢路 青木放屁 宇佐美淳 三宅邦子 三島雅夫 坪内美子 桂木洋子

父・笠智衆と娘・原節子の親子の愛情は倒錯したエロティシズムすら感じさせるが、父娘の京都の宿でのやり取りがすんでのところで近親相姦的なイメージを想起させずに済むのは、笠のキャラクターのおかげだろう。原の演技はかなりこの映画では際どい。

杉村春子の存在感がこの映画では際立っている。中でも、「熊太郎」をめぐる笠との掛け合いや、がまぐちを拾って喜び神社の階段を駆け上がる場面、そして、グローブを持った子供とのやりとり。この幸福感と可笑しさがもう最高だ。

冒頭の北鎌倉駅から、鎌倉の街並み。笠の鎮座する窓際の机と座布団。月丘夢路が笠のおでこにキスをする小料理屋。原がたゆまぬ視線の演技を見せる能の場面。などなど、印象的な細部を挙げていけばキリがないほど。

ハリウッド全盛期のような格調と風格を持った、小津中期の堂々たる傑作。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月23日

聖女ジャンヌ・ダーク

Saint Joan
1957年/アメリカ=イギリス
監督:オットー・プレミンジャー
出演:ジーン・セバーグ リチャード・ウィドマーク リチャード・トッド アントン・ウォルブルッグ ジョン・ギールグッド

全体的に科白に頼った作りの映画で、どうもこういうのは好きになれん。宗教色が濃いのも苦手で・・・。歴史には忠実に作ってあるんだろうけどね。こういう映画には不可欠な映画的スペクタクルもあまり感じさせず、日本劇場未公開も納得の凡作。

ジャンヌ・ダルクものは、ドライエルのサイレント期の傑作『裁かるゝジャンヌ』が金字塔として聳え立っているだけに、トーキー以降の作品はなかなか厳しい局面に置かれることも事実。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

ロープ

Rope
1948年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジェームズ・スチュワート ファーリー・グレンジャー ジョン・ドール セドリック・ハードウィック コンスタンス・コリアー 

まあ実験精神に溢れた意欲作であることは認めるんだが、これじゃあつまらないと思う。全編ワンカットっぽく撮影しているが、室内で進行する物語なので、舞台劇をそのままカメラで撮ってるような感じ。つまり、映画的な興奮、昂揚感がまったく感じられない。

主役2人の完全犯罪(笑)があまりにも杜撰だし、サスペンスとしても面白いところはひとつもない。ジェームズ・スチュワートのラストの行動も意味不明。ワンカットがあまりにも長いためか、登場人物がカンペを見ているっぽいところも多く目につく。明らかな失敗作でしょう。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2009年10月22日

28週後...

28 Weeks Later
2007年/イギリス=スペイン
監督:フアン・カルロス・フレスナディージョ
出演:ロバート・カーライル ローズ・バーン ジェレミー・レナー ハロルド・ペリノー キャサリン・マコーマック マッキントッシュ・マグルトン

『28日後...』の続編だが、こちらのほうが個人的には好き。この続編もカメラが動きすぎ、カットの割りすぎで、せっかくの惨劇の場面で何が起こっているのかよくわからないのだけども、ビルのスナイパーから逃げる場面の緊張感の持続はなかなかのものだし、集団パニックものとして及第点のデキだと思う。

ヘリコプターのプロペラで感染者たちを一網打尽にする場面のスプラッタ描写は強烈だ。あのシーンは『ゾンビ』への過大なオマージュか。暗視スコープを頼りに真っ暗な地下鉄構内をそろそろと進むシーンと、その後に訪れるカタルシス。この監督はなかなか巧いと思うぞ。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年10月20日

28日後...

28 Days Later...
2002年/イギリス=オランダ=アメリカ
監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ ナオミ・ハリス クリストファー・エクルストン ミーガン・バーンズ ブレンダン・グリーソン レオ・ビル

人っ子一人いないロンドンの町並みを映し出した前半はかなりいい雰囲気なのだが、軍がでしゃばってくる後半になると描かれるのは単なる人間同士のイザコザばかりで、モンスター活劇を期待していた身としてはガッカリしてしまう。どうも隠喩というかメッセージ性が(特に後半は)前面に出てきており、自分は「映画を観てメッセージや社会風刺を汲み取ることだけは絶対に避けたい」と常日頃から思っているだけに、どうにもやるせなかった。

デジタルカメラを使ったザラついた感度の映像はこの映画にはマッチしていると思う。カラスが啄ばんだ感染者の死体から血が一滴だけおっさんの目に入る(そこから感染)というアイデアはなかなか。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年10月17日

バード

Bird
1988年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:フォレスト・ウィッテカー ダイアン・ヴェノーラ マイケル・ゼルニカー キース・デヴィッド サミュエル・E・ライト

なんて厳しい映画だろう。イーストウッドが20年前に撮り上げた映画だが、『ミリオンダラー・ベイビー』で見せた厳格さと透明さが、既に20年前に体現している事実。フォレスト・ウィッテカーの身のこなし。2時間40分をあっと言う間に見せてしまう卓越した演出力。やっぱりイーストウッドはすごい。

娘が死んだことを聞かされ、妻へひたすら電報を打つウィッテカー。そして、それを厳格に見つめるイーストウッドの演出とジャンク・N・グリーンの冷徹なカメラ。映画的時間をフィルムに定着させる術を知り尽くした演出家によってもたらされる、荘厳な瞬間。これは紛れもない「映画」だ。

★★★★★★★★★☆

あらくれ

1957年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:高峰秀子 加東大介 森雅之 上原謙 仲代達矢 
三浦光子 東野英治郎 岸輝子 中北千枝子

すごいなあ。「あらくれ」ってのは高峰演じる主人公の女のことだったのね。何度目かの夫婦喧嘩で、高峰が加東大介にホースで水をぶっかける(しかも室内で!)シーンの、高峰の「こんちくしょう!」という表情と、そのあとのカットで身体を寄せ合って仲直りする場面の可愛げな表情のコントラストが見事だ。正直言うと高峰秀子という女優さんは個人的にそんなに好きではないのだけども、やはりうまいなあと感心するばかり。

中盤、快晴の中を洋服を着て颯爽と自転車で突っ走る高峰を斜正面からとらえたショットと、ラストシーン、激しい雨の中を番傘をさしてゆっくり歩いていく高峰を後ろからとらえたショット、この対比も素晴らしいと思う。とにかくいろんな当時の東宝スター俳優が出まくっている映画だが、これはまぎれもなく高峰の映画だ。

★★★★★★★☆☆☆

宇宙戦争

War of the Worlds
2005年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・クルーズ ダコタ・ファニング ジャスティン・チャットウィン 
ティム・ロビンス ミランダ・オットー

2度目の観賞だが、やはりイイじゃないか。とてもいい。

まるで『激突!』や『ジョーズ』に立ち返ったかのようなスピルバーグの腕白ぶりが嬉しい。何よりここには映画らしい活劇がある。余計な人間ドラマは極力排除し、B級っぽくコンパクトにまとめてるところも好感が持てる。というのも、地球に宇宙人が攻めてきたワー大変だ!という状況なのに、船とか地下室とか小さめの空間でアクションが展開するのだ。地球全体を覆う惨劇は、テレビクルーの小さなモニターで確認するという、徹底したB級っぷり。(言うまでもないが、ここでのB級ってのは褒め言葉です。)

「ドラマが薄い」という観方もあるようだが、もともとスピルバーグは人間ドラマにはあまり興味がないように思うわけです。傑作『プライベート・ライアン』では冒頭30分でやりたいことをすべてやり尽くしたように、スピルバーグにとって人間ドラマを盛り込むことは、自分の好きな残酷描写や活劇、銃の撃ち合いを徹底的に満喫するための免罪符に他ならないと思う。

クルーズと長男の親子のドラマがどうにも取ってつけたような感じがするのはそのためだろう。「このくらいやっときゃいいでしょ?」というスピの呟きが聞こえてきそうだ。114分という近年のアメリカ映画にしてはコンパクトな上映時間も、この人間ドラマ部分が希薄なおかげである。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月15日

恐竜時代

When Dinosaurs Ruled the Earth
1969年/イギリス
監督:ヴァル・ゲスト
出演:ヴィクトリア・ヴェトリ ロビン・ホードン パトリック・アレン

ハマーが製作した恐竜映画。

こういう特撮映画の宿命とも言えるのだが、恐竜が暴れるシーンとそれ以外のシーンのテンションの差は如何ともし難い。恐竜のストップモーション・アニメの出来はとてもいいし(特にトリケラトプスと巨大蟹の造形は出色だ)、その泣き声の邪悪さもなかなか際立っているのだが、特撮シーンはどっちかというと脇役的な扱いで、人間対人間、あるいは人間対自然のドラマに終結しているのがどうも気に入らない。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年10月14日

朝の並木道

1936年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:千葉早智子 大川平八郎 赤木蘭子 清川虹子

戦前成瀬の60分の中篇フィルム。ごくごく平凡な物語が、いつもの成瀬調の音楽とカメラによって淡々と語られる。

同時期の他の作品と比較しても、道を寄り添って歩く場面や人物のカットバックで、編集・繋ぎの雑さが見える。千葉早智子って女優は成瀬の当時の奥さんだったらしいが、なかなかの美人。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年10月12日

エクソシスト2

Exorcist Ⅱ: The Heretic
1977年/アメリカ
監督:ジョン・ブアマン
出演:リンダ・ブレアー リチャード・バートン ルイーズ・フレッチャー キティ・ウィン マックス・フォン・シドー ジェームズ・アール・ジョーンズ

わけわからんwwwwww

ヘンな機械が出てきてリーガンと神父の意識がシンクロするだとか、イナゴの大群とか、観念的すぎて・・・。俺は頭が良くないのでぜんぜんわからんのですw しかし、ラストの強烈な破壊ぶりは凄いわこれ。家の壁がゴゴゴゴと割れてイナゴの大群が襲ってきて、アレ~ソレ~でジ・エンド。なんじゃこりゃwwww

しかし何だかんだ言っても、正統な続編という意味でも、映画そのもののデキという意味でも、『エクソシスト3』の足元にも及ばない凡作だね。やっぱりブアマンの演出は俺には訴求しないっす。

★★★★☆☆☆☆☆☆

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン

Catch Me If You Can
2002年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:レオナルド・ディカプリオ トム・ハンクス クリストファー・ウォーケン ナタリー・バイ マーティン・シーン エイミー・アダムス ジェニファー・ガーナー

オープニングのアニメーションから映画に引き込まれる。こんな小品でもカチッと作れるスピルバーグはやはり凄いが、小切手偽造のディティールはもうちょっと細かく描き込んで欲しかった。せっかくもっと面白くなりそうなのに、なんかもったいない感じ。あと、やっぱりテンポが緩慢でダラダラ感満載。これなら100分程度の尺で収めてほしいのだが、140分はどうにも長い。つまりは無駄なカットが多いということだ。

マイアミ空港の駐車場でディカプリオが車の中から周囲の様子を窺うヒッチコック的な場面がこの映画の白眉だろう。あの一連のシークエンスには感動した。また、ラストの飛行機のハッチからの脱出。あのムチャクチャぶりは映画的でイイと思う。

それにしてもディカプリオの演技力は圧倒的だ!

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年10月11日

サスペリア・テルザ 最後の魔女

Mother of Tears
2007年/イタリア=アメリカ
監督:ダリオ・アルジェント
出演:アーシア・アルジェント クリスチャン・ソリメノ アダム・ジェームズ モラン・アティアス ヴァレリア・カヴァッリ ダリア・ニコロディ ウド・キアー

『サスペリア』『インフェルノ』に続く”魔女三部作”の最終章ってわけだが、う~ん・・・締めの作品がこれでいいのか?

冒頭でいきなりの内臓引きずり出し&その内臓で自分の首を絞められる(下写真)という血みどろ描写満載で、作品の今後を大いに期待させるが、その後はユーロトラッシュ感満載な描写のオンパレードで、失笑モノ。ストーリーの破綻・・・というか、ひとつひとつのシーンがあまりにも説明不足のため、あらゆる場面が「なんじゃそりゃ」で終わってしまう。まあ、アルジェントだから仕方ないんだけど・・・。

それにしても致命的なのは、最強最凶と目された「涙の母」が、どうにも単なるケバケバメイクの巨乳ねーちゃんにしか見えないという事実。しかも、死に方があまりにも呆気ない。もうちょっとどうにかならなかったもんか? エクソシスト役の特別出演的なウド・キアーも、登場から5分で悲惨な死を迎えてしまう。

作り物とはわかっていても、自分の赤ん坊を橋から投げ捨てたり、お猿さんが落下した石板で潰されたりと、子供や動物虐待場面がたくさん盛り込まれており、観る者を最高にイヤ~な気分にさせること請け合い。小さな子供の内臓を喰らったり、女性のアソコから槍を突き刺してそれが口まで貫通したり、目玉をぐりぐりと突き刺したり、顔面にナタを何度も何度も打ち付けたりと、前後の脈絡なく提示される強烈なスプラッタ描写は、さすがはアルジェントの面目躍如といったところか。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

新・平家物語

1955年/大映
監督:溝口健二
出演:市川雷蔵 久我美子 林成年 木暮実千代 大矢市次郎 進藤英太郎 菅井一郎

日本史には疎く時代考証がよくわからないので、物語自体はあんまり楽しめない。主演クラスの役者は大丈夫なんだけど、端役連中のセリフが聞き取りづらいんだよね。字幕スーパーが欲しいくらいだw

ただし、美術や衣装、照明(つまりは撮影全般)が素晴らしい。大映のスタジオシステムはやはり偉大だった。特に夜の渡り廊下での襲撃シーンは白眉のデキ。溝口らしさはそこかしこに窺えるのだが、演出も全般に無難にまとめていると思う。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年10月10日

ラスト、コーション

色・戒 / Lust, Caution
2007年/アメリカ=中国=台湾
監督:アン・リー
出演:タン・ウェイ トニー・レオン ワン・リーホン ジョアン・チェン トゥオ・ツォンホァ チュウ・チーイン

凄いなぁ。ほんとに凄い映画だ。

冒頭、4人の女性たちが麻雀の卓を囲む場面のとてつもない緊張感。ここからこの映画に一瞬たりとも目が離せなくなる。そういったあたりを含め、とにかく編集が素晴らしい作品だ。

主演のタン・ウェイが、急進的にレジスタンス運動にのめり込んでいくわけだが、何が彼女をそうさせるのか? この理由的な部分をバッサリ切ってしまったのは潔いと思う。なぜなら、この心象まで描いてしまったら3時間を超えてしまうから。俺のような凡人には、ひとつの映画を集中して見続けるのは、2時間半が限界である。

それにしてもトニー・レオン! 冒頭で彼が出現したときは、「このちっちゃいオッサンが女を狂わせる役柄なのかよー」と思ったものだが、なんのなんの、冷えた眼と落ち着いた演技、さりげない目配せと気配りの演技!全てが素晴らしい。特にラストシーンの、クルマの後部座席にダイブする場面の緊張感とスピード感の素晴らしいこと! 中国圏にはこんな役者が居るのだ! 

鏡、そして、窓に写る男と女、これはそういう「反射」の映画だ。そして、絶えず交わし交わされの視線。再会したウェイとレオンがホテルの一室で出会う場面の緊張と驚き。そこでの視線の合戦。

有無を言わさぬ傑作。劇場で見たときの感動が間違いではなかったことを、テレビで観て改めて実感した次第です。アン・リーには確かな演出力がある。

★★★★★★★★★☆

ブルジョワジーの秘かな愉しみ

Le Charme Discret de la Bourgeoisie
1972年/フランス
監督:ルイス・ブニュエル
出演:フェルナンド・レイ デルフィーヌ・セイリグ ジャン=ピエール・カッセル 
ポール・フランクール ステファーヌ・オドラン ジュリアン・ベルトー

ここでもブニュエルのシュールなギャグが炸裂しまくる!

家で食事会のはずがホストが日付を間違え、レストランに行けば店の奥では支配人の死体があり気色悪くて食事どころではない。カフェに行けば紅茶もコーヒーも品切れで水しかなく、やっと食事ができる!と思ったら軍隊の演習に巻き込まれる・・・ってな具合で、ブルジョワの価値観や日常を徹底的に茶化してみせるのだが、そこは天才ブニュエルのこと、一筋縄で行くはずもない。

ある事柄の理由を説明する場面に飛行機やタイプライターの音を被せてみせたり、パーティで些細な口喧嘩からいきなり銃を撃ったり、どこまでが現実かどこからが夢なのかあいまいな作りになっている。劇中とラストに3度ほど出てくる、果てない一本道を出演者たちが会話するでもなくひたすら歩き続ける場面と相俟って、映画全体がかなり綿密に考え抜かれた構成だと思う。驚くほど完成度の高い作品だ。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月9日

慕情

Love is a Many-splendored Thing
1955年/アメリカ
監督:ヘンリー・キング
出演:ジェニファー・ジョーンズ ウィリアム・ホールデン イソベル・エルソム ジョージャ・カートライト トリン・サッチャー マーレイ・マシソン

戦後の香港を舞台に、特派員記者の男と医師の女が恋に落ちる”よろめき型”メロドラマの秀作。

冒頭で救急車が香港の街中を縫うように疾走する躍動感、湖の向こうにある友人宅に2人で泳いで行くというセンスとか、ここの場面もとても面白い。ジェニファー・ジョーンズがイギリス人と中国人のハーフというむちゃくちゃな設定なのだが、それを映画的事実として観客に正面から受け止めさせるのは、キングの演出が優れているからだと言い切ってしまって良いと思う。重慶で叔父一家と再会するシーンの違和感なんて、別にどうでもいいではないか!

中盤とラストに出現する、頂上に小さな木が立った丘の草原。この斜面の描写がとても印象的。というか、この丘の場面がなかったら凡庸な作品だと思うぞ。ラスト、その丘でジョーンズが泣き崩れるも健気に起き上がり、丘をゆっくりと降りてくる場面にTHE ENDの文字が重なる。このあたりの演出センスもとても好きだ。シネスコを効果的に使った画面設計も見事。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月8日

プレイタイム

Playtime
1967年/フランス
監督:ジャック・タチ
出演:ジャック・タチ バーバラ・デネック ジャクリーヌ・ル・コンテ

特に前半のビルディング内の造形などはとてつもない映画的空間で、美術とセットの素晴らしさは当時のフランス映画の中でも群を抜いている。たくさんの登場人物の画面内での配置、アクターズディレクションの秀逸さ、なおのこと完璧主義者タチの作品なのだから、相当なお金と撮影日数がかかっているんだろう。しかし、後半のレストランの場面はギャグも画面の面白さもやや影を潜め、退屈してしまう。

そんなわけで、タチ渾身の大作ではあるが、胸を張って「傑作」と言えるデキではないと思う。しかし、画面ひとつひとつの面白さは、映画ってやっぱりイイなあと我々に改めて実感させる。そういう意味では、好き嫌いを超えた次元に位置している作品だ。こんな映画をわざわざ金たくさんかけて70ミリで撮る人間はタチかシュトロハイムくらいしか居ないだろう。タチはやっぱりすごい。

★★★★★★★☆☆☆

インフェルノ

Inferno
1980年/アメリカ=イタリア
監督:ダリオ・アルジェント
出演:リー・マクロスキー アイリーン・ミラクル アリダ・ヴァリ サッシャ・ピエトフ ダリア・ニコロディ

「三母神」という本に書かれた3人の魔女のひとりが、1900年代初頭に建てられた自分の住んでるアパートに存在しているらしい・・・という、とてもワクワクするような筋立てなのだが、アルジェントは途中から完全にストーリーテリングを投げ出し、イメージの積み重ねで映画を構築していく。大学でマークを見つめる女性は何だったのか?など、序盤で提示された伏線はほとんど回収されないまま映画は終わる。

が、錠前や鏡、猫、ネズミなど、小道具の使い方はアルジェントの真骨頂。原色を基調とした画面作りも、なかなか怪奇映画っぽくてがんばっている。これは特殊効果を担当したマリオ・バーヴァの功績も大きいか。登場人物が脈絡もなくいきなり猫の集団に襲われたり、ネズミの大群に食われそうになったりするのだが、とどめを刺すのはいずれも人の手によるナイフ。特にネズミのくだりは、池のほとりで移動店を開いていた店主が、助けにくると思ったらいきなり刺すもんだから、もうびっくりします。まぁ、そういうところ含めてこの映画の魅力でしょう。

ラストでは唐突に魔女が出現する。それもあまりにも唐突なので笑ってしまったw

★★★★★★★☆☆☆

2009年10月5日

大いなる遺産

Great Expectations
1998年/アメリカ
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:イーサン・ホーク グウィネス・パルトロー ハンク・アザリア 
ロバート・デ・ニーロ アン・バンクロフト クリス・クーパー

紛れもない傑作。

少年と少女が水飲み場でねっとりとキスを交わす場面。個展の初日、ジョーおじさんが現れてから会場に漲る緊張感。そしてその緊張感はグラスが割れる音とともに一気に頂点に向かう。慈善パーティーから中華料理店へ至るロングショット。ラストで屋敷の向こう側の出た海辺にエステラと少女が佇む聡明で美しいカット。・・・などなど、ハッと息を飲む優れた画面、場面の連続だ。やはりキュアロンはいい! 『トゥモローワールド』で感じたキュアロンの才能への矜持が、この映画で確信に変わった。

なんだかんだいってもパルトローはやはりきれいな女優なんだが、そのエステラの少女時代の子役がめちゃめちゃ可愛い。デ・ニーロの登場はとって付けたような感じも、キチガイババアを演じたアン・バンクロフトはさすがの貫禄。

★★★★★★★★★☆

2009年10月4日

東京上空いらっしゃいませ

1990年/ディレクターズカンパニー
監督:相米慎二
出演:牧瀬里穂 中井貴一 笑福亭鶴瓶 毬谷友子 三浦友和 谷啓 藤村俊二

相米らしい映画と言えばこれほど相米らしい映画もない。

バーガーショップでたくさんの注文を受けた牧瀬がノリノリでハンバーガーをつくるシーンのワンカットの興奮。結婚式で牧瀬が井上陽水の「帰れない二人」を歌い踊るシーンの高揚感。中井貴一が住むアパートの映画的造形。そして、牧瀬の広告がそこかしこに溢れた川越の街!

相米にはこういう小品をずっと撮り続けてほしかった。こういう、プログラムピクチャーの中で発揮される映画的空間こそが相米の真骨頂だと思う。ストーリーや説話論的な破綻など取りに足らん。

★★★★★★☆☆☆☆

プレタポルテ

Pret-a Porter
1994年/アメリカ
監督:ロバート・アルトマン
出演:マルチェロ・マストロヤンニ ソフィア・ローレン ローレン・バコール
   ジャン=ピエール・カッセル キム・ベイシンガー アヌーク・エーメ
   ティム・ロビンス ジュリア・ロバーツ ルパート・エヴェレット

やはりアルトマンは天才だ!(しつこい?)

このキャストの配置というか、画面の中で誰をどう動かすみたいなものに決定的に長けている演出家だと思う。最近観たばかりの『ゴスフォード・パーク』と比較すると全体に散漫な印象は拭えないが、ラストのアイロニーをはじめとして、ファッションやモードの世界を徹底的に皮肉った視点、演出はアルトマンにしか出来ない。(というか、ギャグの定番とかが『ゴスフォード・・』より俺は好きなだけなんだがw)

豪華キャストは見ごたえがある。狂言回しっぽい役割のマストロヤンニはまあいいとして、ゲイのデザイナー役のフォレスト・ウィッテカーや、グラマラスなおばさんのテリー・ガーが個人的に好きだ。ただ、ホテルの部屋にこもってひたすらセックスしまくるティム・ロビンスとジュリア・ロバーツのエピソードは必要だったのか? まぁ二人とも好演してるからいいけど。

★★★★★★★★☆☆

2009年10月3日

ヘルハザード/禁断の黙示録

The Resurrected
1991年/アメリカ
監督:ダン・オバノン
出演:クリス・サランドン ジョン・テリー ジェーン・シベット

もうとにかくこの映画は、出来損ないクリーチャーの造形の気持ち悪さに尽きます。中世の場面、草むらに横たわった顔が半分欠けたクリーチャーがゴソゴソと蠢いているところ、更に、後半の地下室で腐り切って今にも崩れ落ちそうなグロテスクなクリーチャーが暴れまわるシーンは、映画史に残るだろう(嘘) あと、ラストでがい骨がムクムクと起き上がり、殺された相手からグチョグチョと血肉を吸収するシーンのインパクトは、トビー・フーパーの映画に通ずるものがあってなかなかよろしい。

サスペンス演出などにオバノンの才気と活力は感じられるのだが、ミもフタもないことを言ってしまえば、クリーチャーの気色悪さしか印象に残らない映画でもあります。ラヴクラフトを忠実に映画化しようとしたオバノンをはじめとした製作スタッフの志に免じて星6つです。

★★★★★★☆☆☆☆

マイノリティ・リポート

Minoritiy Report
2002年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・クルーズ コリン・ファレル マックス・フォン・シドー サマンサ・モートン ロイス・スミス ピーター・ストーメア

中盤からの展開は完璧にフィルム・ノワールだなこれは(笑) 裏通りのやさぐれた雰囲気で展開される追いつ追われつの展開とかがとても面白い。前半はどうもダラダラした展開だったが(『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』を想起させるダラダラ感)、半ば以降のスピード感はとてもイイと思います。あと、ブリコグ(もちろん主にアガサ)の禍々しさなんかも、もちろんとても映画的で素晴らしい。

ここまで判りやすい映画は好きですよ。コリン・ファレルをシドーが一瞬にして射殺する場面の唐突さとか、眼科医のストーメアとその相棒(なぜかトムのケツを触りまくる)とトムのやり取りなんかとても面白い。なんだかんだ言ってもやっぱりスピルバーグは上手だよ。

やっぱり70年代中盤以降のアメリカ映画はある意味、スピに支えられた部分もとても大きいと思うんだよね。実は悪役のお偉いさんにマックス・フォン・シドーを持ってきたり、予知夢の中の殺される女が『サスペリア』のジェシカ・ハーパーだったり、やっぱ”そういう”ジャンルにスピルバーグは興味があるんだろうなぁ。でも真正面からそういう映画に取り組めないところが「巨匠」のつらいところではあるが。

おいおまえら、もっとスピルバーグを評価しようや。・・・というより、2040~2050年代の映画ファンは、スピを物凄く見直してるような気がします・・・なんとなくですが。

★★★★★★★☆☆☆

騎兵隊

The Horse Soldiers
1959年/アメリカ
監督:ジョン・フォード
出演:ジョン・ウェイン ウィリアム・ホールデン コンスタンス・タワーズ アルシア・ギブソン フート・ギブソン アンナ・リー

フォード晩年のウエスタンだが、主演がウェインでそれに絡む軍医がホールデンなんだから、まあ観てて安心できることは間違いないです。さすがにもう特に目新しいモノはなくなってるのだが、西部劇のツボはしっかり押さえてるし、タワーズの南部女のやんちゃぶりもイイし、何よりホールデンのクールな演技が素晴らしいと思う。粗暴なウェインとの対比が際立っており、ラストで軽く握手するとこなんかグッと来た。

★★★★★★☆☆☆☆

アカルイミライ

2002年/「アカルイミライ」製作委員会
監督:黒沢清
出演:オダギリジョー 藤竜也 浅野忠信 笹野高史 白石マル美 りょう 加瀬亮 はなわ 松山ケンイチ

黒沢清の中でもとりわけ奇妙な味わいを持った作品だが、これはなんとも評価の難しい映画だ。危険な映画と言っていいかもしれない。だが、「これが現代日本映画だ!」と断言できる自信もなければ、正直言って、胸を張って「面白い」と言う自信もない。暗喩に満ちた作り自体が好きではないし、意味なくザラつかせた画面の質感も俺好みではない。

日本映画を託すべき存在の黒沢清がこういう方向に行ってしまってはイカンのだが、この後はしっかり『LOFT ロフト』『叫』で軌道修正を試みているのは良しとしよう。

ミもフタもないことを言ってしまえば、浅野忠信が独房での自殺で早々に映画から退場してしまうのが最大の欠点だと思うのだがどうか。それだけ浅野忠信という役者は映画の空気そのものを左右する存在にまで至っている。黒沢清は浅野に「あなたが演じるのはテロリストです」というアドバイスをしたらしい。ここで浅野が演じるのは正に、テロリストとしか言いようのない存在である。

クルマの画面分割はフライシャーの真似か? あまり上手くいってないし、これはちょっと見てて恥ずかしいなあ。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年10月1日

ヘルボーイ

Hellboy
2004年/アメリカ
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ロン・パールマン セルマ・ブレア ルパート・エヴァンス 
ジョン・ハート カレル・ローデン ジェフリー・タンバー

お話は単純で、ヘルボーイ(=ロン・パールマン)のキャラもいい感じに決まっている。後半はお仕着せの展開&アクションでやや辟易するが、前半のゴシックセンスはなかなか良かった。しかし、この尺の長さはどうにかならんのかね。最近のアメリカ映画はこういうモンだと思って諦めるしかないのか?

ヘルボーイ自身より半魚人のキャラクターのほうが好きなのだが、あまり活躍の場がなく残念。セルマ・ブレアはセキゾチックな魅力に溢れたイイ女。そして何より、クロエネンの邪悪さが最高ですね。セリフが一切なく、両腕ギミック付きのナイフで敵(映画的には味方)を一網打尽! マスクを取った素顔は瞼と唇がなく、血も粉末状になっているという設定。こういうウォーズマン(キン肉マンに出てくる超人です。知らんか?)みたいなキャラは大好き。個人的には、パールマンのヘルボーイより、周囲のキャラクターのほうが目立ってました。

★★★★★★☆☆☆☆