2009年5月31日

禍福

1937年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:入江たか子 高田稔 竹久千恵子 逢初夢子 大川平八郎


上映時間の関係か前後半に分かれた構成の、戦前の成瀬作品。

同時期のハリウッド映画に優るとも劣らぬ、見事な画面設計に驚かされる。ロケーションも多いが、スタジオセットできっちり撮られた部分もあり、当時としてはかなり制作費もかけているんじゃないかな。入江たか子と高田稔の苦悩の表情も、作品を支えている。

しかし、しかしである。前後半合わせて150分を超える長尺の中で、成瀬の演出におけるコンセントレーションの持続という意味で、私にはこの映画は訴求しない。

なぜなら、高田稔が見合い相手の竹久千恵子にあっさりと一目惚れする、そして入江が竹久に深い友情を感じるという、この2つの劇作上重要なファクターにおいて、まったく正当性を見出すことができないから。原作や脚本云々より、これは演出家の責任でしょう。特に我々は『浮雲』や『乱れる』での洗練された演出を知っているだけに、余計にそれを感じてしまうわけです。

★★★★★☆☆☆☆☆

M★A★S★H マッシュ

MASH
1970年/アメリカ
監督:ロバート・アルトマン
出演:ドナルド・サザーランド エリオット・グールド トム・スケリット 
ロバート・デュヴァル サリー・ケリーマン ジョー・アン・フラッグ

オープニングの自殺奨励ソングからラストのふざけた賭けアメフトまで、アルトマンらしい肩の力の抜けたブラックコメディの秀作。

だが久々に見直してみると、あざといズームインやズームアウトが多く、初見時ほどイイ出来の映画だとは思えなかった。あ、「戦争を茶化すなんてけしからん!」という"良識派"のご意見は無視していいですけどね。

★★★★★★☆☆☆☆

ミリオンダラー・ベイビー

Million Dollar Baby
2004年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド ヒラリー・スワンク モーガン・フリーマン 
アンソニー・マッキー ジェイ・バルチェル ブライアン・オバーン

イーストウッドがひとつの地平に達した、陰惨極まりない傑作フィルム。聡明で透明な美しさは、ゴダールの『右側に気をつけろ』にそっくり。

いや、誤解されると困るのは、もちろん『ミリオンダラー・ベイビー』と右側に気をつけろ』は、テキストや題材としても全く似ていないのだが(『右側に・・・』はボクシングが主題であるルネ・クレマンの『左側に気をつけろ』に想起されたフィルムであるにせよ、だ)、でも、本当にこのクリアな肌触りや触感、光と影のコントラストが本当にそっくりなのだ。両作品とも観た人ならわかってくれると思う。もうこうなると何言ってるか自分でもよくわからんのだが・・・ あ、本作と『右側に・・・』のどちらが映画として上かは、どうでもいいです。ま、並べて語る人も普通はいないと思うけど(汗

あとねぇ、マギーの行く末がどうこうとか、リバタリアンであるイーストウッドの政治的立ち位置がどうこうとか、映画そのものとはあまり関係のない話で盛り上がるのは良くないと思うわけです。ただ、画面を見つめて音を聴けばいいじゃんよ! アカデミー賞獲る映画だから仕方ないのかもしれんが、スクリーンの向こう側を見ようとする観客のなんと多いことか・・・。

神父と会話する場面が複数。23年間、毎日ミサに来てるというフランキーの姿は、イーストウッド自身の姿を投影しているような気がする。偉大なる男クリント・イーストウッドは、いったい何に対して「赦し」を乞おうとしているのか。

★★★★★★★★★★

2009年5月30日

疑惑の影

Shadow of a Doubt
1942年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:テレサ・ライト ジョセフ・コットン マクドナルド・ケリー 
パトリシア・コリンジ ヘンリー・トラヴァース ウォーレス・フォード

冒頭でジョセフ・コットンが鏡に向ってグラスか何かを投げつける場面や汽車での場違いなコンパートメントでの車掌とのやり取りなどで、彼が人間嫌いの癇癪もちであることが暗に示される。セリフに頼らずこういう演出でキャラクタライズすることは、当たり前だが、ヒッチコックが優れた演出家であることを示していると改めて思う。

こぼれたワインやイニシャル入りの指輪など、小道具もふんだんに使用! 読書好きで小生意気妹の妹アンや、サスペンスオタクの隣人など、端役の細かいディティールも凝っていて、とても丁寧に作られている。ハリウッド全盛期のヒッチ映画らしく、非常に完成度の高い作品だ。

★★★★★★★★☆☆

ファイヤーフォックス

Firefox
1982年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド デヴィッド・ハフマン ウォーレン・クラーク 
フレディ・ジョーンズ ロナルド・レイシー

長いなぁ。クライマックスのスカイアクションは見ごたえがあるが、イーストウッドにしては凡作と言わざるを得ない。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年5月29日

レイクサイド マーダーケース

2004年/東宝
監督:青山真治
出演:役所広司 薬師丸ひろ子 柄本明 豊川悦司 鶴見辰吾 
杉田かおる 黒田福美 眞野裕子

死体を隠す一連のシークエンス、そしてそれに絡む柄本明の飄々としたクールな演技に実に見ごたえがある。今の日本映画界に、この柄本明がいなかったらと思うとぞっとする。そして、薬師丸ひろ子の可愛さ、そこに潜むアンビバレンツな魅力。劇中で柄本明が「彼女より、奥さん(薬師丸)のほうが魅力的だ」と言うセリフがあるが、まさにその通り!と拍手を贈りたくなった。

しかし、後半トヨエツがしゃしゃり出てくると、映画は一気につまらなくなる。役所やトヨエツのみならず、柄本明まで興奮して声を荒げる始末。クールなサスペンスのはずが、最終的には説教臭い大衆劇に堕してしまう。題材的には面白くなりそうな話なんだが、このへんが青山の限界だろう。劇作上で重要な場面もすべてセリフで説明しちゃうのは・・・(笑)

2人がボートで死体を沈めるのを鶴見が待っている場面で、タイヤの横に10本弱あったタバコの吸殻が次のカットで消えているのだが、それに対する説明は最後まで無し。そういう伏線はちゃんと回収してくれよな。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年5月28日

フィラデルフィア

Philadelphia
1993年/アメリカ
監督:ジョナサン・デミ
出演:トム・ハンクス デンゼル・ワシントン ジェイソン・ロバーズ 
メアリー・スティーンバージェン アントニオ・バンデラス ジョアン・ウッドワード

とても慎み深いジョナサン・デミの演出が光る。ともすれば、過剰な法廷の見せ場を用意したり、逆に陰惨極まりない場面を連続して見せたくなってしまおう「同性愛とエイズ」という題材ながら、傑作『羊たちの沈黙』の演出家はそんな誘惑からひょいと背を向ける。

過剰なズームアップの画がやたら多いのはタク・フジモトが強く出てるか? ここでのデミの演出とはちょっと相性が悪いんではないかな。(もちろん『羊たちの沈黙』においては相性バツグンだったわけだがw) あと、中盤でトム・ハンクスがヘッドホンでマリア・カラスを聴く場面だけはひどく耐え難いし、とても醜い鈍重さだ。赤いフィルターの照明も大仰すぎるし、あんな説明的なシーンはいらない。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年5月23日

レディ・キラーズ

The Ladykillers
2004年/アメリカ
監督:イーサン・コーエン ジョエル・コーエン
出演:トム・ハンクス イルマ・P・ホール J・K・シモンズ 
ライアン・ハースト ツィ・マー マーロン・ウェイアンズ

キャラの描き方はとても丁寧で好感が持てる。トム・ハンクスがここまで魅力的な造形なのは、他の映画で俺は知らない。特にセリフ回しが一癖あって面白い。

現金強奪までのシークエンスは実にあっさりしたもので、サスペンスかと思うと肩透かしを食う。コーエン兄弟に本格サスペンスを求めてるシネフィルはいないだろうが。5人が順番に死んでいく様はスピード感といい演出のテンポといい、とても面白い。特に「将軍」の死に様は素晴らしいw

全体的に、まぁ普通に面白い映画だとは思うが、『ファーゴ』や『ビッグ・リボウスキ』を観てしまっていると、どうにも物足りなさを感じてしまう。説明っぽい演出もちょっと鼻につくかな。

★★★★★★☆☆☆☆

ブギーナイツ

Boggie Nights
1997年/アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:マーク・ウォールバーグ バート・レイノルズ ジュリアン・ムーア 
ヘザー・グレアム ウィリアム・H・メイシー ジョン・C・ライリー フィリップ・シーモア・ホフマン フィリップ・ベイカー・ホール

2度目の観賞だが、やはりイマイチ。最後のシーンだけでダークのイチモツの凄さを実感しろってのは、ちょっと無理な話だ。PTAもう少し威圧感のある演出ができる人だけに、ここでの語り口は少々残念である。

もちろん、ドーナツ・ショップで3人がまとめて死ぬ場面やそれを含めたドン・チードルの情けない佇まいは金を払うに値するし、中国人のガキが無意味にバンバン爆竹を鳴らしまくる演出は好きだし、ジュリアン・ムーアの乳を揺らしてのセックスシーンが見れるのは嬉しい。

いい場面がたくさんある映画で、PTAの力量は垣間見えるのだけど、監督への期待値のぶんだけ、どうしても点数は辛めになってしまうな。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年5月18日

女は女である

Une Femme est Une Femme
1961年/フランス
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:アンナ・カリーナ ジャン=クロード・ブリアリ ジャン=ポール・ベルモンド 
マリー・デュボワ ジャンヌ・モロー カトリーヌ・ドモンジョ

何度観ても、もう最初から最後までニヤニヤしっぱなし。アンナ・カリーナもチャーミングだが、映画自体がとてもチャーミング。ゴダールにこんな映画がふつうに撮れるのだ!

カリーナの部屋の家具の色使いが、なんかもう、女性向けの雑誌からそのまま抜け出してきたようなパステルカラー。しかし、昨今のくすんだような画面の色を見てると、この映画のカラーはいろんな意味で新鮮だ。なんか、映画らしい色、というか・・・。良いシーンが無数にあるけど、深夜のレストランでカリーナとベルモンドが並んで座ってワインを飲んでおしゃべりする場面が最高です。あの座り方ならカットバックする必要がないもんなぁ。

ベルモンドの台詞「早く帰ってテレビで『勝手にしやがれ』を観たい」には思わず吹き出してしまったw ジャンヌ・モローがチョイ役でカフェに登場。観てるほうは「あ、ジャンヌ・モローだ・・・」と呟いてしまう。アズナヴールの挿入歌がタイミングといい、音量といい、もう本当に絶妙。

★★★★★★★★★☆

2009年5月17日

トゥモロー・ワールド

Children of Men
2006年/アメリカ=イギリス
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:クライヴ・オーウェン ジュリアン・ムーア マイケル・ケイン 
キウェテル・イジョフォー チャーリー・ハナム クレア=ホープ・アシティ

これはなかなかの力作だ。たいしたもんだ。ドラマ部分が弱いが、アクションや活劇になると途端にテンションが上がる。特に、前半のカーアクションの痛烈な展開とカメラの切り替えしの素晴らしさ。(ここでジュリアン・ムーアが早々に死んでしまったのには驚いたが。)ラストの市街戦、手持ちカメラでのワンシーン=ワンカットは凄まじい。完成度自体がもちろん低いのは仕方ないが、あれだけの場面をワンカットで撮ろうという、スタッフの志を買おうではないか。

廃校をゆったりと手持ちカメラで進む場面で、いきなり廊下の影からシカが登場するわ、どこかの屋敷で2階の踊り場にニワトリが出てくるわ、なんかブニュエルっぽいことをやってたりするね。前記の市街戦シーンでカメラに血が飛び散るとこなんかも、ブニュエルの『忘れられた人々』のタマゴ投げを想起させる。この監督はメキシコ人らしいけど、ブニュエル好きなのかな。

★★★★★★★★☆☆

シンドラーのリスト

Schindler's List
1993年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:リーアム・ニーソン ベン・キングスレー レイフ・ファインズ 
キャロライン・グッドオール ジョナサン・サガール

高校以来、15年ぶり。3時間超だが、モノクロのおかげで目がそんなに疲れなくて済む。作り手がそこまで考えてモノクロにしてくれたとしたら、優しいw

ここでのスピルバーグは人間が銃で撃たれたときの倒れ方や血の噴き出し方の表現に心血を注いでおり、実際、それらのシーンはとても輝いているのだが、ヒューマニズムを前面に押し出したような場面は演出にキレがない。まぁ、自分のやりたいことを満喫させるのはこの後の『プライベート・ライアン』のほうが顕著ですがね。

画面の繋ぎも、スピルバーグらしくないとても面白い事をたくさんやっている。でも、ラスト、シンドラーの墓への献花は蛇足だな。本編の前後を現在のシーンで挟む構成も『プライベート・・・』と同じだが、フィクションの分だけ『プライベート・・・』のほうが可愛げがある。

映画史において重要な作品であることは間違いないだろう。「史実と違う!」とか文句言う馬鹿がたくさんいるけど、そういう人は映画ファンとは違う人種なので、放っておきましょう。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年5月16日

ダ・ヴィンチ・コード

The Da Vinci Code
2006年/アメリカ
監督:ロン・ハワード
出演:トム・ハンクス オドレイ・トトゥ イアン・マッケラン ジャン・レノ 
アルフレッド・モリナ ポール・ベタニー ユルゲン・プロフノウ

吹き替え版@フジテレビ地上波

オリジナルは149分だが、21時から23時50分位までやってたので、合間のCMを入れても、たぶんほとんどカットしていないはず。(自分的には、日本語吹き替えはぜんぜん気にならないんだけど、テレビの放映時間枠に合わせて勝手に短縮するのだけは許せん)

原作は読んでないし、映画と原作の比較もナンセンスだと思うが、非キリスト教(というか無宗教)の日本人には判りにくい題材だと思う。宗教的な専門用語も多くて、途中で食傷気味に。感情移入できないままむりやりストーリーを追っていたが、どうもキリスト教のシンパ同士の単なる内輪揉めにしか見えない。予備知識がないと理解できない題材なら、はじめから映画にしなきゃいい。

しかし、冒頭のルーブル美術館でのロケ撮影は見ごたえがあるし、全体的にハッタリを利かせるのも映画なんだからアリでしょう。イアン・マッケランやポール・ベタニーの邪悪さも際立っているし、ここでのロン・ハワードはよく頑張っていると思う。

まぁ、中盤でのマッケランの延々と続く講釈とか、どうも弛緩というか中だるみする箇所も多くて、その辺をうまく処理できなかった?とは思うが・・・ 相変わらず余分なカットを紛れ込ませるクセが出ているのは、ロン・ハワードもハリウッドカラーに毒されてしまっているのか?

★★★★☆☆☆☆☆☆

あにいもうと

1953年/大映
監督:成瀬巳喜男
出演:京マチ子 森雅之 久我美子 堀雄二 山本礼三郎 
船越英二 浦辺粂子

前半・・・身ごもって実家に戻る京マチ子が畳に仰向けに寝そべる
後半・・・派手な化粧+和服を着た京マチ子が畳にうつ伏せに寝そべる
この対比がおもしろい。ついでに言えば、下着姿で脇の下を手ぬぐう京マチ子の色香。成瀬作品でこのようなショットが現出すること自体に驚く。ラスト、久我美子と歩きながらの会話と、それに被さるエンドクレジット。

画面ひとつひとつに緊張と興奮が漲っている傑作。役者の情感をここまでゆったりとフィルムに定着させるのはさすが。戦後の成瀬演出はまったく隙がない。

★★★★★★★★☆☆

逃走迷路

Saboteur
1942年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ロバート・カミングス プリシラ・レイン ノーマン・ロイド 
オットー・クルーガー アラン・バクスター

う~ん・・・どうもロバートカミングスのキャラクタライズに納得できん。というか、演技があまりにもヘタクソすぎる。ヘタならヘタで、オーバーアクトしなきゃいいだけの話なんだけども、カミングスって人は頭が悪いのか、これ見よがしな大演技をしちゃう。それに比べて、ノーマン・ロイドの落ち着いた佇まい。

まぁ前半のスピード感やサーカス団とのやりとりにはワクワクするし、ラストの自由の女神でのシーンとか、いい場面はたくさんある。『めまい』に顕著だが、今にも墜落せんとする人とそれを助けようとする人を、クロスカッティングで見せるのがヒッチコックは本当にうまい。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年5月14日

雨月物語

1953年/大映
監督:溝口健二
出演:京マチ子 森雅之 田中絹代 水戸光子 小沢栄太郎


なんつっても早坂文雄の重厚かつ繊細な音楽が素晴らしいし、宮川一夫のカメラも洗練されている。特に夜のシーンがすごい。スタジオシステムの偉大さを改めて実感する。日本映画にもこんな時代があったのだ。

ただ、肝心の溝口演出がここでは今ひとつ突っ込めてない、と、個人的には思う。ラストの田中絹代のナレーションは失笑もの。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年5月10日

目撃

Absolute Power
1997年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド ジーン・ハックマン エド・ハリス 
ジュディ・デイヴィス ローラ・リニー スコット・グレン

いつもはストーリーを明快に語るイーストウッドだが、本作はどうも不明確な部分が多くて困る。

サリバンが雇った殺し屋は、ルーサーが娘とカフェで会うことの情報をどこから入手したのか? スコット・グレンが自殺した場面は、自殺したのが誰かいまいちわかりにくいし、あまりに唐突すぎてわけが判らない。また、サリバンが大統領を死に至らしめる動機付けが甘い。妻をそこまで愛していたのか? そもそも、大統領は本当に自殺だったのかも?

サスペンスなんだからそこまでちゃんと描いてほしい。まぁもちろん良い場面がたくさんある映画なんだけど。

★★★★★★☆☆☆☆

ブルーベルベット

Blue Velvet
1986年/アメリカ
監督:デヴィッド・リンチ
出演:カイル・マクラクラン イザベラ・ロッセリーニ ローラ・ダーン 
デニス・ホッパー ホープ・ラング ブラッド・ダリフ

3度目の観賞。しかし先日『インランド・エンパイア』を観たので、ローラ・ダーンが出てきたとき、「若っ!」と思わず呟いてしまったw

冒頭とラストを色とりどりの花や子供の笑顔など、テクニカラーの映像で映し出すものの、陰惨な本編はとことんダークな映像で見せる様は確信犯的なリンチのあざとさを感じる。ストーリーの倒錯(これも確信犯だろう)はこの頃から見られるが、それは映画にとって大して重要なことではない。リンチはフィルム・ノワールをやりたいんだろうね。

イザベラ・ロッセリーニの住むアパートの部屋における登場人物の配置やクローゼットからの奥行きのある映像がとても心地よい。まぁこの人の映画はもう好きな人は好きだし嫌いな人は嫌いだろう。

それにしてもデニス・ホッパー(笑) 彼の出ている映画は何を差し置いても観ようと決心したのがこの映画です。セリフには殆どFで始まる単語が入っている。シナリオもそうだったんだろうか。チョイ役でブラッド・ダリフが出ているのも嬉しくなる。

★★★★★★★★☆☆

2009年5月9日

マリアの胃袋

1990年/ディレクターズ・カンパニー
監督:平山秀幸
出演:相楽晴子 柄本明 大竹まこと 余貴美子 范文雀


柄本明が演じる幽霊がかなりきわどい。普通に歩くし、女の死体を担いで運び、車を運転する。かつて映画でこんな死者像があっただろうか。ラストで手を叩く柄本明を俯瞰でヘリからとらえた映像の、なんとも微妙な恐ろしさ。

そんなわけで、この『マリアの胃袋』は堂々たる怪奇映画である。地下室、カーテンの向こう側に鎮座するマリアの恐ろしさったらない。前半はロングショットでちらちら顔が見えるだけなのだが、ピアノの上に乗せたぶよぶよに肥大した両手と併せ、これが怖い。

ラスト、そしていよいよマリアの顔と身体が全貌を現すわけだが、これがやっぱりとても怖い。言っておくが、マリアが大竹まことの内臓をぐちゃぐちゃと食べるシーンがグロテスクだから怖いのではない。マリアという怪物が怖いという、構造的な必然性を映画全体が獲得しているから怖いのだ。ホラーとは、雰囲気でもストーリーでもなく、理論なのである。平山秀幸は劇場用処女作でそのことを証明して見せた。天晴れである。

★★★★★★★☆☆☆

シンプル・プラン

A Simple Plan
1998年/アメリカ
監督:サム・ライミ
出演:ビル・パクストン ブリジット・フォンダ ビリー・ボブ・ソーントン 
ブレント・ブリスコー ゲイリー・コール チェルシー・ロス

コーエン兄弟の傑作『ファーゴ』に通ずる、雪の降りしきる小さな町を舞台にした陰惨なクライム・サスペンス。

登場人物の描き方がとても丁寧で好感が持てる。特に、パクストンの共犯者となる兄とその親友のアホさ加減がうまい。雪原での創意に満ちたキャストのやり取りなんかもとてもいい。欲を言えば、FBI捜査官を騙る男はもっと邪悪に描いてほしかったが。

しかし、『死霊のはらわた』当時と比較すると、ライミは格段に上手になってるなぁ。まぁ、こういうのや『ダークマン』みたいな良作を撮ってるから、『スパイダーマン』のメガホンにお声がかかるんだろうね。

★★★★★★★☆☆☆

舞姫

1951年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:高峰三枝子 山村聰 片山明彦 岡田茉莉子 木村功


成瀬にしては凡作。演出も語り口も散漫な印象で、特に、山村聰と木村功の映画への絡ませ方が中途半端だ。

やはり成瀬には、庶民の平凡な生活を淡々を描くのが似合う。ブルジョアっぽい一家の苦悩とかはちょっと違うかなぁ。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年5月6日

セクシー地帯

1961年/新東宝
監督:石井輝男
出演:吉田輝雄 三原葉子 三条魔子 池内淳子 細川俊夫 沖竜次


須藤登のカメラワークがすばらしい。特にラスト、椅子に縛り付けられた吉田輝雄と三原葉子が脱出する一連のシークエンスの編集とカメラは見事だ。

しかし、石井輝男は本当にセンスがいい。ほぼ全編に渡ってロケ撮影なのだが、低予算を逆手にとり、これが見事に当時の銀座~有楽町の様子を映し出している。日本のヌーヴェル・ヴァーグ?みたいなもんかな。

脚本も石井輝男の手によるもので、プロットの破綻はいかんともし難いが、そんなこと全然関係なく映画を楽しめてしまうのは演出家のウデだ。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年5月5日

インランド・エンパイア

Inland Empire
2006年/アメリカ=ポーランド=フランス
監督:デヴィッド・リンチ
出演:ローラ・ダーン ジェレミー・アイアンズ ハリー・ディーン・スタントン 
ジャスティン・セロー カロリーナ・グルシュカ ダイアン・ラッド

一応ミステリーの体をなしてはいるが、そこはリンチのこと、二重三重に錯綜しており、ストーリーを理解しようとするとエライ目に遭うこと必至。まぁ作ってる本人もよく判ってないと思います。ただ、溢れ出す映像イメージに浸ってれば良い映画。

とにかく前作の『マルホランド・ドライブ』以上に顔のクローズアップが多い。ジェレミー・アイアンズとスタントンの監督+助監督はもうちょい出番が欲しかったなぁ。特にスタントンのふてぶてしさが素晴らしい。

作家的野心は認めるものの、映画全体の力としては、傑作『マルホランド・ドライブ』には遠く及ばない凡作。

★★★★★☆☆☆☆☆

バイキング

The Vikings
1957年/アメリカ
監督:リチャード・フライシャー
出演:カーク・ダグラス トニー・カーティス アーネスト・ボーグナイン 
ジャネット・リー アレクサンダー・ノックス ジェームズ・ドナルド

この映画はなんといってもクライマックス、砦上でのカーク・ダグラスとトニー・カーティスの剣闘シーンに尽きます。この迫力は、剣闘の舞台が(段差つきの)斜面だから可能なのだ。2人の果し合いを俯瞰気味に撮るジャック・カーディフのカメラも含め、ここの演出は秀逸。さすがフライシャーと言っておこう。

ただ、歴史モノはちょい苦手なのよねー。

★★★★★☆☆☆☆☆

気狂いピエロ

Pierrot Le Fou
1965年/フランス=イタリア
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ジャン=ポール・ベルモンド アンナ・カリーナ ダーク・サンダース 
グラツィエラ・ガルヴァーニ サミュエル・フラー レイモン・ドボス

高1のとき出会い、映画オタクとしての自分の人生を決定づけた一本。これを観ていなければもう少しまともな人生を歩んでいたはずw

ゴダールの映画は「難解」「前衛的」とか言われることが多いわけだが、確かに既存の映画文法に則った「ストーリーの組立て」という意味ではそう言えるかもしれない。ゴダールに浸ってゆったりと愉しむためには、人々はあまりにも余計なものを見過ぎてきたのだ。

だが、この『気狂いピエロ』はゴダールの中でも極めて「普通に面白い」映画だと思う。説話的な面白さは映画の枝葉末節でしかないが、物語の組み立てという視点でも、他のゴダールほど破綻(?)していない。「男と女の恋の逃避行+ギャングの抗争」のフィルム・ノワールだ。

原色を基調にした映像に、ミュージカル、唐突な銃の撃ち合いの挿入。写真、絵画、コミック、音楽、詩からの膨大な引用。そして、サミュエル・フラー、ニコラス・レイ、ハワード・ホークスなどの映画作家へのオマージュ(フラーに至ってはご本人がパーティに登場!) 車、銃、女・・・ゴダールらしい映画記号。フェード・イン/フェード・アウトを嫌った、アナーキーな音楽の使い方。そして、ベルモンドとアンナ・カリーナの底知れぬ魅力。

「傑作」という言葉を持ち出すのも気恥ずかしい、記念碑的フィルム。

★★★★★★★★★★

2009年5月4日

ブラックブック

Zwartboek
2006年/オランダ=ドイツ=イギリス=ベルギー
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
出演:カリス・ファン・ハウテン トム・ホフマン セバスチャン・ゴッホ 
デレク・デ・リント ハリナ・ライン ワルデマー・コブス

BSジャパンで約110分の短縮版を観賞。どのへんがカットされてるかはわからないけど、ヴァーホーヴェンだし、たぶんエロと暴力シーンでしょう。(偏見?)

この人はやっぱり人間ドラマにはあんまり興味がないらしく、登場人物絡み方も処理しきれてないので、一度見ただけではいまひとつストーリーの全体像が掴めないが、物語上重要な人物が銃火器であっさり死ぬとこはヴァーホーヴェンらしい。

でも、やっぱりこの人には確かな演出力があると思う。インスリン注射を打たれてチョコレートを頬張り、バルコニーから群集に身を投げ出して逃げる場面の迫力は圧巻だ。トム・ホフマンを突き落とすのかと思いきや・・・いい意味で裏切られた。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年5月3日

顔のない悪魔

Fiend Without a Face
1958年/イギリス
監督:アーサー・クラブトゥリー
出演:マーシャル・トンプソン キム・パーカー テリー・ギルバーン 
マイケル・バルフォア ギル・ウィンフィールド

肥大した人間の想念が生み出した(らしい)尻尾の生えた脳味噌状の物体が、人間の脳髄を吸い取るために浮遊しまくるという、誠にワクワクするお話。

空軍基地の物々しい外観とか、主人公の少佐とデカパイ女のロマンスとか、少佐が墓地に閉じ込められて酸欠で死亡寸前とか、本編とはあまり関係のない画が延々と進行する1時間は、ラスト15分のための布石にすぎないのだった。

クライマックスの、インベーダーゲームよろしくの脳味噌撃ち落とし作業(噴き出す血糊はラズベリージャム)と、原子炉爆破が最大にして唯一の見せ場。まぁ怪物の特撮が安っぽいのは50年前の映画だから仕方ないとしても、もう少しサスペンスの盛り上げ方っつーもんがあったんじゃないか。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

めまい

Vertigo
1958年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジェームズ・スチュアート キム・ノヴァク バーバラ・ベル・ゲデス 
トム・ヘルモア ヘンリー・ジョーンズ

ヒッチコックの映画は全体的にそうなんだが、尺が長い。この内容で120分を超えるのは、正当化できないレベルだと思う。カット数を減らしたり、カットの長さ自体を短くするくらいの工夫が欲しい。サスペンスのネタバレもキム・ノヴァクの独白で済ませてるわけだし、そういう点から見ても90分で見せられる映画だと思う。観客に媚びている感もあり、個人的にはあまり好きではない映画。

スチュアートの見る悪夢の映像は今見るとちょっと稚拙で、笑ってしまう。キム・ノヴァクのパイオツがすごいが、書いた眉毛もすごい。先日観た『エンド・オブ・バイオレンス』しかり、サンフランシスコの長い長い直線の坂道は映画によく出てくるけど、作り手に「撮りたい」と思わせる場所なんだろうね。

★★★★☆☆☆☆☆☆

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

There Will Be Blood
2007年/アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス ポール・ダノ ケヴィン・J・オコナー 
キアラン・ハインズ ディロン・フレイジャー

これは厳しい。厳しい映画だ。PTAらしさが随所に見られるものの、『マグノリア』『パンチドランク・ラブ』みたいな(いい意味での)軽薄さが全くない。158分の長尺なんで、もうちょっと軽いノリがないと、観てる方もしんどい。(まぁ、教会での胡散臭いエクソシズムなんかは笑いどころなんだろうが、日本人には判りにくいな・・・)

しかし、美術やセットはとにかく現場の意欲を感じさせるし、音楽もいい。上映開始から15分間、セリフが一切なく、説明っぽいシーンすら無いのもPTAらしい潔さ。(というより、慎み深さと言うべきか。) 地面からドス黒い石油が噴出するシーンの上下運動の迫力はすさまじい。PTAの演出の確かさは今さら語るまでもない。

好き嫌いの分かれる映画だと思うが、傑作でしょう。

エンドクレジットで、ロバート・アルトマンへの追悼メッセージが。アルトマン、2006年に逝去されてたそうで・・・知らなかった。ガンだったそうですが、81歳。大往生ですね。

★★★★★★★★☆☆

2009年5月1日

エンド・オブ・バイオレンス

The End of Violence
1997年/ドイツ
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ビル・プルマン アンディ・マクダウェル ガブリエル・バーン 
ローレン・ディーン トレイシー・リンド ウド・キア

ヴェンダースのドイツ製「アメリカ映画」。

自然光シーンの撮影はいずれも素晴らしく、今作ではニコラス・クラインか。ヴェンダースの映画では誰がキャメラでもとにかく画面がきれい。ガブリエル・バーンやアンディ・マクダウェル、ウド・キアーなど、俺好みの俳優がたくさん出てて、そういう意味ではとても楽しめるが・・・

そういえばウド・キアー、数年前に奥菜恵と一緒に歯磨き粉のCM出てたの唐突に思い出したw あれには仰天したなぁ。視聴者はこのおっさんが誰だか知ってるのかって話でw

えーっと、映画全体の感想を率直に言えば、形容しがたい詰まらなさ。これはちょっとハメを外しすぎてるんじゃないか。

★★★☆☆☆☆☆☆☆