2009年7月29日

黒い罠

Touch of Evil
1958年/アメリカ
監督:オーソン・ウェルズ
出演:チャールトン・ヘストン ジャネット・リー オーソン・ウェルズ 
エイキム・タミロフ ジョセフ・カレイア マレーネ・ディートリッヒ

何度も見てる作品だが、それにしてもなんとまあ、カッコイイ映画だろう。確かに中盤でやや中だるみするのだけど、冒頭とラストのスタイリッシュな撮影と演出、そしてウェルズの怪演を見てると、そんな瑣末なことはどうでもよくなってくる。俯瞰とアオリを適確に交差させた映像の迫力、もうこれはラッセル・メティのカメラとウェルズの演出(そして編集もとても良い仕事をしている)の賜物だ。そして忘れてならないのはグランディを演じたエイキム・タミロフ、メキシカンバーの女主人役のディートリッヒだろう。端役をこんな人たちで固めることができるんだから、アメリカ映画は反則だw

定期的に見たくなる、フィルム・ノワールの傑作。

★★★★★★★★★☆

2009年7月26日

白い野獣

1950年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:三浦光子 出雲八重子 山村聰 石黒達也 千石規子

娼婦の更正施設が舞台の群像劇。梅毒や父親不明の未婚の妊娠などもエピソードとして取り上げており、当時としては社会問題に取り組んだ意欲作ということになろうが、今見るとショッキングさは皆無。

さすがは成瀬というべきか、散漫なストーリーを手堅くまとめてはいるものの、優等生的映画に終始した感がある。ダンスを見ながらのリズム取りのステップ→足踏み機のステップという画面の繋ぎ方なんかは成瀬らしいけどね。

三浦光子の演技はちょっと大仰だが、自分の乳房を揉んで山村を誘惑する場面にはちょっとグラッと来た。

★★★★☆☆☆☆☆☆

グラン・カジノ

Gran Casino
1946年/メキシコ
監督:ルイス・ブニュエル
出演:リベルタ・ラマケル ホルヘ・ネグレーテ メルセデス・バルバ

ブニュエルのメキシコ亡命後の第1作。前作『糧なき土地』から実に14年ぶりということになる。

なんの脈絡もなく突然に登場人物が堂々と歌いだすミュージカル場面は、マキノ雅弘あたりに通ずるものがあるな。シナリオは超御都合主義のプロットなのだが、そういった歌の挿入が逆に、シナリオの欠陥を補う効果を発揮している。実際、ミュージカルシーンがなかったら退屈で耐えられない作品になっていたんじゃないか。

★★★★★☆☆☆☆☆

黒衣の花嫁

La Mariee Etait en Noir
1968年/フランス=イタリア
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:ジャンヌ・モロー ジャン=クロード・ブリアリ ミシェル・ブーケ 
クロード・リッシュ ミシェル・ロンズデール

結婚式の日に謀らずも未亡人になり、夫の射殺に関わった5人の男への復讐に燃える女を「ヘの字口」ジャンヌ・モローが演じている。しかしまあ、あまりにもご都合主義のプロットだ。5人の男それぞれに近づいていくのだが、その手口がツッコミどころ満載。特にラスト、わざと警察に捕まり収監され、殺し損ねた男に近づくくだりなんかは、設定も語り口も、稚拙にも程がある。

プロットの綻びは百歩譲って許せるとしても、ジャンヌ・モローはミスキャストだろう。もう単なるチビで寸胴のおばさんにしか見えず、色香で男を狂わせる役柄はさすがにもう無理がある。名前は知らないけど、ベッケル先生役の長髪ブロンドの女性のほうがよかったのでは・・・?

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年7月25日

キル・ビル VOL.2

Kill Bill: Vol.2
2004年/アメリカ
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン デヴィッド・キャラダイン ダリル・ハンナ 
マイケル・マドセン ゴードン・リュー マイケル・パークス

あまり出来のよくないスプラッター映画だった1作目とは趣が違っている。が、冗長なおしゃべりが延々と続くのはもうタランティーノの個性と割り切って見るしかないんだけども、1作目よりもアクションのキレも凄みも血糊の量もグレードダウン。ビルとの決戦はあまりにもあっさりとした帰結で拍子抜け。娘を挟んでの2人の長くつまらない会話が映画のクライマックスなんて、有り得ないでしょ・・・

まあ何より、全編通して映画がダラダラしている。これは致命的じゃないか? 途中で眠くなってしまったよ。

★★☆☆☆☆☆☆☆☆

荒野の決闘

My Darling Clementine
1946年/アメリカ
監督:ジョン・フォード
出演:ヘンリー・フォンダ リンダ・ダーネル ヴィクター・マチュア 
キャシー・ダウンズ ウォルター・ブレナン

フォードらしい銃撃戦や馬車馬が砂塵を駆け抜けるアクションが後半まで描かれないのに不満が残る。西部劇にポエティックな描写は不要じゃないだろうか。もちろん良いシーンがとてもたくさんある映画で名作には違いないが、個人的な好き嫌いで言えば、やや中途半端な印象を受ける。

ヘンリー・フォンダ演じるワイアット・アープの、朴訥というかなんというか、ラストでクレメンタインの頬に控えめにキスをする場面なんか、ほろりと来てしまうね。やっぱりフォードもフォンダもとても巧い。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年7月23日

ミディアン

Nightbreed
1990年/アメリカ
監督:クライヴ・バーカー
出演:クレイグ・シェイファー デヴィッド・クローネンバーグ アン・ボビー

パンクホラーの秀作『ヘル・レイザー』の原作者&演出家であるバーカーらしいサディスティックな描写に溢れている。ナイトブリードたちの造形にも見どころはあるが、どうも単に脚本を消化してるだけのようなセカセカ感があり、見ていて落ち着かない。まあ個人的な好き嫌いの領域ではあるんだが、カットごとの静かな余韻みたいなのが俺は好きなんで、どうもこの手の語り口(というか、編集の問題だなこれ)は気に入らない。

クローネンバーグがシリアルキラーの精神科医を嬉々として演じている。自分のようなジャンルファンのツボを押さえてはいるが、普通の観客にはピンと来ないんじゃないかと。その精神科医にナイトブリードたちが簡単にやっつけられてしまうのも、面白味がない。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

スミス夫妻

Mr. and Mrs. Smith
1941年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:キャロル・ロンバード ロバート・モンゴメリー ジーン・レイモンド 
ジャック・カーソン フィリップ・メリヴェイル

ヒッチコックにしては演出も語り口も平凡だが、モンゴメリーのレストランでの独り芝居や、遊園地で機械の故障でロンバードが宙吊りになってしまう場面など、可笑しさが随所に見られるスクリューボール・コメディ。

まあしかし、やはりヒッチコックはサスペンスが見たいね。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年7月22日

ヒドゥン

The Hidden
1987年/アメリカ
監督:ジャック・ショルダー
出演:カイル・マクラクラン マイケル・ヌーリー エド・オロス 
クルー・ギャラガー クリーディア・クリスチャン

面白い。やっぱりアメリカ映画だ。まったく、アメリカ映画ほど「面白い」という形容詞が似合う対象は他にないんじゃないか。こんなB級アクションでここまで見せてしまうのだから恐れ入る。

映画は、宇宙人に寄生された男が銀行強盗で数人を銃殺し、そのあと猛スピードで逃げるカーチェイスと、その車に虫けらのように弾き飛ばされる人間たち、この一連のシークエンスでガッチリと観客のハートを掴む。

このカイル・マクラクランの寂寞とした表情を見よ! 人間に寄生した悪徳宇宙人を倒す使命を帯びた善良宇宙人の役なんて、自分が演じるほかないじゃないかとでも言いたげな、堂々たる様相だ。同僚の家に招待されて、その奥さんと3人で食事する場面の妙な緊張感と空気感は、脚本や演出がどうのより、マクラクランの存在に負うところが大きいと思う。もちろんマイケル・ヌーリーもとても良いのだけど、これは完全にマクラクラン1人がスターの映画だ。

宇宙人に寄生された人々の、死んだような眼と、なんとも危うい暴力性の表現が素晴らしい。特に、2人目の寄生者のカーディーラーでの暴れっぷりがとても面白い。良い場面がたくさんある傑作です。

★★★★★★★★☆☆

2009年7月20日

セーラー服と機関銃

1981年/角川書店
監督:相米慎二
出演:薬師丸ひろ子 渡瀬恒彦 風祭ゆき 柄本明 大門正明 
林家しん平 酒井敏也 三國連太郎

登場シーンでブリッジをやらせて生の腹を見せ、さらにはクレーンで吊り上げてセメントまみれにし、屍と化した渡瀬の唇にキスをさせる。アイドル全盛期の薬師丸にこんなことをやらせる演出家こそ貴重だ。 角川のアイドル映画という括りの中で、必死に「映画」を撮ろうとする相米の姿勢には感服するしかない。

あとはなんといっても、両足を地雷で失った(と、騙る。意味わからんけど)三國連太郎のキャラクタライゼーションが圧倒的じゃないか。トビー・フーパーの映画に出てきそうなキチガイぶりを見せている。柄本明も相変わらず不気味で透明な雰囲気を漂わせている。

有名な、薬師丸が機関銃ブッ放して「カイカン・・・」と呟くシーンだが、改めて見てみると、アフレコの声と口の動きがぜんぜん合っていないw 見せ場なんだからそこはちゃんとしろよな。

★★★★★★★★☆☆

ミッション・トゥ・マーズ

Mission to Mars
2000年/アメリカ
監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:ゲイリー・シニーズ ティム・ロビンス ドン・チードル 
コニー・ニールセン ジェリー・オコンネル

デ・パルマはあんま好きじゃないんだが、ゲイリー・シニーズはお気に入りの俳優なので見てみた。が、シニーズの魅力がフルに発揮されているとはお世辞にも言いがたい。やはりこの人は悪役で真価を発揮する。

宇宙船に亀裂が入り中の空気がどんどん失われていくサスペンス場面も、非常事態なのにアホ夫婦がキスしてるもんだから、緊張感が全くない。無重力状態でのダンスシーンなんかは、目を覆いたくなる不感症的演出。こういうことをやるからデ・パルマは馬鹿にされるのだ。

火星人から発せられる音をチードルがひとりで解析してDNAの二重螺旋構造まで行き着くのも、さすがご都合主義にも程があるだろう。まあこれは演出家の責任ではないけど。雇われ仕事だろうしね。オープニングの長回しとか、シニーズの背後にチードルが立っている演出とか(ダリオ・アルジェントの『シャドー』って映画で同じような場面があったな)作家の個性の主張みたいなもんはかろうじて伝わってくる。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年7月19日

娘・妻・母

1960年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:三益愛子 原節子 高峰秀子 森雅之 宝田明 団令子 
草笛光子 淡路恵子 小泉博 仲代達矢 杉村春子

原節子と仲代達矢が、知人のアパートで急速にその距離を縮める描写。この距離感と原節子の表情がとても絶妙で、実にうまい。原節子はそんなに演技のうまい女優さんだとは思わないが、もう、原節子が原節子としてスクリーンに映し出されている、というだけで充分に存在感を提示できるレベルに達している。つまり、これぞ映画スター、ということだ。本当のスターには迫真の演技も流暢なセリフ回しも不要、ということでもある。

高峰秀子は相変わらずクールで巧いが、原に比べて今回は見せ場が少ない。それより、淡路恵子や団令子が画面の中でうまく引き立っているな。三益愛子と通りすがりの笠智衆との掛け合いと、ロングショットで三益が借りてきた乳飲み子を抱き上げるラストショットにはグッと来た。

★★★★★★★☆☆☆

夕陽のガンマン

Per Qualche Dollaro In Piu
1965年/イタリア=スペイン
監督:セルジオ・レオーネ
出演:クリント・イーストウッド リー・ヴァン・クリーフ ジャン・マリア・ヴォロンテ 
クラウス・キンスキー

リー・ヴァン・クリーフが渋くてカッコよすぎる。イーストウッドを背後から撃って「おいおい!」と思ったら、わざと首筋をかすめ るように撃っていたり。そのときのセリフ回しもとてもよい。もちろんイーストウッドも素晴らしいのだが、これは完全にクリーフの映画だ。2人が出会うシーンでお互いの帽子を撃つシークエンスもとても好き。『荒野の用心棒』より制作費が多かったのだろう、セットや美術もとても良い。

ただ、後半の展開がとてもわかりにくいのよ。クリーフの過去のトラウマにヴォロンテも絡んでるってのは、ちょっと納得できん。

★★★★★★☆☆☆☆

2009年7月18日

スポンティニアス・コンバッション/人体自然発火

Spontaneous Combustion
1989年/アメリカ
監督:トビー・フーパー
出演:ブラッド・ドゥーリフ シンシア・ベイン ジョン・サイファー 
メリンダ・ディロン ウィリアム・プリンス

両親がモルモットとなった放射能実験の影響で、謀らずも自身の肉体が破壊兵器になってしまった男の苦悩と悲哀を描く、秀作サスペンス。

この映画ももう3回くらい見てるけど、とにかく『エクソシスト3』と同じく、ブラッド・ドゥーリフ迫真の涙目演技が見どころ。もうこの俳優大好きっすね。なんなんだこの強烈な存在感はw ラストシーンは何がなんだかよくわからないけど、泣けます。

★★★★★★★☆☆☆

知りすぎていた男

The Man Who Knew Too Much
1956年/アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジェームズ・スチュアート ドリス・デイ ラルフ・トルーマン ダニエル・ジェラン


面白いなぁ。

有名な、シンバル鳴らすと同時に銃声がするシーンとか、うまくカットを割ったアクションの場面とか、ちょっと綱渡りの演出が多くて危なっかしいのだが、そういったものも含めてこの作品の魅力になっている。

ただ、ヒッチコックはとても上手くてどの映画も文句なしに面白いのだが、「ああ、よくできているなー」と感心するばかりで、どうも自分にとっては突き抜けるモノがない。

★★★★★★★☆☆☆

2009年7月15日

さまよう魂たち

The Frighteners
1996年/アメリカ
監督:ピーター・ジャクソン
出演:マイケル・J・フォックス トルニ・アルヴァラード ピーター・ドブソン 
ジョン・アスティン ジェフリー・コムズ

前半はコメディタッチの幽霊ものの雰囲気で、『ゴーストバスターズ』の換骨奪胎か、あるいは『ポルターガイスト』のパロディかと期待したのだが、後半は猟奇殺人鬼ものに変貌してしまい、ちょっと残念な展開。

死神の物々しさと邪悪な感じはよく出てたのに、それも(幽霊なのだけど)正体はただの殺人鬼ってのが明かされて、肩透かしを食らう。M・J・フォックスの相棒的な3人のゴーストにしたって、もうちょっとマシな物語への絡ませ方ってもんがあるだろう。掘り下げ方が甘い。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

JAWS/ジョーズ

Jaws
1975年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ロイ・シャイダー リチャード・ドレイファス ロバート・ショー 
ロレイン・ゲイリー マーレイ・ハミルトン

いやあ、何度見ても最高に面白い! 文句なしにスピルバーグの最高傑作でしょう。 なんのことはない、才能ある演出家が巧みに演出すれば、幽霊でも ドラキュラでも怪物でもなく、「水」で観客を怖がらせることができるのだ。

巧みな演出を挙げればキリがないのだが、署長ロイ・シャイダーがサメをおびき寄せるために魚を海にまくシーンが秀逸。ロバート・ショーに何か言われ、それに答えるシャイダーを画面のやや右寄りに据えて観客の目をそちらに逸らせ、次の瞬間、画面の左寄りにサメの巨大な顔がザッパーン!と現れる。 これが、セリフの間といい画面の中の配置といい音楽の入れ方といい、ほんと絶妙だ。巻き戻して何度も見てしまったよ。

改めて見てみると、それ以外にもとても印象的な場面がある。ドレイファス演じる海洋学者がサメを称し「あれは人間を食べる機械だ」と表現するシーンがそれ。観客は、ドレイファスのこのセリフをきっかけにこの作品に爽快な海洋冒険映画を期待することをやめ、「機械」との陰惨な死闘を待ち望むしかなくなる。 映画のなかでの大きな節目は、このようなクールなひとつのセリフによってもたらされるという、象徴的なシーン。

いったんこの原理が機能し始めると、巨大人食いザメは別になにもしなくてよくなる。3人の無謀な冒険者たちを深い海の中でジッと待ち続ければよい。そうすれば獲物が向こうから勝手にやってくるのだ。 これはもう「ホラー映画」と呼んでしまっていいのではないか。

★★★★★★★★★☆

2009年7月13日

天国の口、終りの楽園。

Y Tu Mama Tambien
2001年/メキシコ
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル ディエゴ・ルナ マリベル・ベルドゥ 
ファン・カルロス・レモリーナ アナ・ロペス・メルカード マリア・アウラ

男女問わず自慰シーンがある映画は好きになれないし、(あ、リンチの『マルホランド・ドライブ』は別格だけど。)主役の若者2人があまりにバカだし、年上の人妻はフィフィみたいだし、まあ20歳くらいにときに観てると印象違うのかもなあ。

3人の掛け合いよりも、メキシコの地元民の生活を映し出した何気ない場面のほうが魅力的。漁師一家とのふれあいや、98歳のおばあちゃんとの会話、豚の群れにキャンプを荒らされたりとか、ああいうちょっとしたエピソードを納得性を持ってストーリーに紛れ込ませることができるのは、監督に確かな演出力がある証明だと思う。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年7月12日

ノウイング

Knowing
2009年/アメリカ
監督:アレックス・プロヤス
出演:ニコラス・ケイジ ローズ・バーン チャンドラー・カンタベリー 
ララ・ロビンソン ベン・メンデルソーン ナディア・タウンゼント

お話はムチャクチャなんだが、まあ映画なんだからこれでいいじゃないか。

最初のクライマックスである飛行機墜落シーンの驚きは、ティーンエイジャー・ホラーの佳作『ファイナル・デスティネーション』において、飛行機の空中爆破場面を、空港の待合室からワンカットでとらえたシーンの興奮に似ている。この場面が迫力に溢れているのは、一連のシークエンスをワンカットで撮影しているからなのだ、と断言してしまおう。こうなると、どこまでが実写でどこからがCGかなんてどうでもよくなる。

ダイアナの車がトラックに横から弾き飛ばされる場面も、ワンカットの驚きだ。地下鉄の大惨事がどうも作り物めいて見えるのも、その場面がほとんどCGで構成されているからという理由もあろうが、カットをひたすら割っていることも原因のひとつだと思うわけです。

人類滅亡の描写をしっかり押さえてくれたのもポイント高し、です。こういうパニック映画では、やっぱ、人がバタバタ死んでいくシーンをちゃんとキープしてくれなきゃイカンよね。

撮影現場の創意工夫が伝わってくる佳作。

★★★★★★★☆☆☆

呪われた森

The Watcher in the Woods
1980年/アメリカ
監督:ジョン・ハフ
出演:ベティ・デイヴィス キャロル・ベイカー リン=ホリー・ジョンソン 
カイル・リチャーズ デヴィッド・マッカラム イアン・バネン

『ヘルハウス』のジョン・ハフ監督作品だが、なんとも地味な映画。84分がオリジナル版なのかどうかはわからないけれども、カット終わりのタイミングが唐突というか、編集に難があるように感じる。

また、それぞれのシーンをもっと怖くできるはずなのに、もったいない。特に遊園地のミラールームの場面なあ。ここは、たくさん映っている自分の中にひとりだけ違う人物が紛れている、という演出をすべきでしょう。下品なズーミングを多用してるあたりも、どうもジャンルに不誠実な印象を受ける。単にヘタクソなだけかもしれんが、これじゃぜんぜん怖くないんだもの。

★★★☆☆☆☆☆☆☆

2009年7月9日

喜劇 とんかつ一代

1963年/東宝
監督:川島雄三
出演:森繁久弥 フランキー堺 淡島千景 加東大介 三木のり平 
池内淳子 木暮実千代 水谷良重 団令子 岡田真澄

講談社から出版された「501映画監督」という、古今東西の映画監督を501人紹介した本があり、資料としても読み物としても良さそうだと思い、3000円も出してアマゾンでそそくさと購入したわけです。

しかしこれがまた何ともふざけた本でして、索引は全てファーストネームという馬鹿げたシロモノ。しかも、まあ元々の監修がアメリカ人だから仕方ないとしても、日本でほとんど作品が見られない監督も501人中200人くらいいて、果たしてこれは日本の書店で大きなスペースを取って発売する必然性があったのだろうか。

だいたい、傑作『スウィート・ムービー』を撮ったユーゴの鬼才ドゥシャン・マカヴェイエフが載っていないのはまだご愛嬌としても、『ポゼッション』のアンジェイ・ズラウスキー(ソフィー・マルソーの元夫)や、『顔のない殺人鬼』『幽霊屋敷の蛇淫』のアンソニー・ドーソンすら抜け落ちているというお粗末さ。日本映画に目を移すと、マキノ雅弘や中川信夫の名前がない。この『喜劇 とんかつ一代』の稀代の演出家、川島雄三も除外されている。これはもう質の悪い冗談としか思えない。映画史にとって、勅使河原宏や今村昌平なんぞより川島雄三の名前が遥かに重要なのは、火を見るより明らかである。

のっけから脱線してしまったが、この『喜劇 とんかつ一代』は久々の川島雄三との再会だ。流れるようなアクターズ・ディレクションと人物配置。これはもう、彼のセンスが成せる業としか言いようがない。良い意味で、日本映画っぽくないのだ。ズーミングやクローズアップを殆ど使用しないのはカメラの岡崎宏三の影響もあろうが、川島の慎み深さも感じられる。

題材はまったくのコメディ映画だが、この映画が公開されたとき、場内はアハハ笑いでなくウフフ笑いで満たされたであろう。多くの登場人物を処理しきれてない部分はあるのだが、シーンひとつひとつがとても面白く、特にクロレラ研究の三木のり平と、クロレラ料理ばっかり食わされる妻の池内淳子がとてもいい。加東大介は相変わらずここでも厳格。演技云々ではなく存在自体が厳格だ。

★★★★★★★☆☆☆

2009年7月5日

狼の血族

The Company of Wolves
1984年/イギリス
監督:ニール・ジョーダン
出演:サラ・パターソン アンジェラ・ランズベリー スティーヴン・レイ 
デヴィッド・ワーナー グレアム・クラウデン テレンス・スタンプ

どこまでが現実でどこからが幻想なのか錯綜していて、何が何やらよくわからない映画ですが、悪魔的な存在にテレンス・スタンプを配し、寓話回想シーンにおける人間から狼への見事な変身シーンもあるので、なかなか見どころ満載な作品。この変身シーンはカット割りも控えめにじっくりグロテスクに陰惨に見せてくれており、けっこうポイント高めです。

監督のニール・ジョーダンは『インタビュー・ウィズ・バンパイア』なんていう吸血鬼映画も撮っているが、もともとこのジャンルに興味があるのだろうね。

★★★★★☆☆☆☆☆

キル・ビル

Kill Bill: Vol.1
2003年/アメリカ
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン ルーシー・リュー デヴィッド・キャラダイン 
ダリル・ハンナ 栗山千明 千葉真一 マイケル・マドセン

初公開以来、2度目の観賞。

しかしまぁ、『デス・プルーフinグラインドハウス』といいこれといい、メジャー資本でよくこんな企画通せますなタラちゃんは。自分の欲望とマーケットを一致させる、稀代の幸福な映画人です。

オーレン・イシイの幼少時代をすべて劇画でやっちゃったりしてて、それはさすがにどうなの?と思うわけだが、まあ青葉屋でのチャンバラシーンがあるんで、全体として許せるレベル。”ゴーゴー夕張”栗山千明の冷たい眼と立ち振る舞いは完全にユマ・サーマンを食ってる。やっぱこの子すげー女優だな。

サーマンとルーシー・リューが対峙する場面でむりやり日本語を話すのはかなりの違和感を覚えるし、だいいち、日本人が日本語を話す場面も録音の状況が悪いのか役者の滑舌が悪いのか、何言ってるかわからん。まあ日本語に日本語スーパーつけろって注文すんのも哀しいが・・・

タランティーノは『パルプ・フィクション』で何をどう間違えたのかカンヌでパルムドールを獲ったおかげで、今んとこは好き勝手やれてますね。(余談だが当時のカンヌ映画祭の審査委員長はクリント・イーストウッド。) でもさ、そろそろちゃんとした映画撮らないとヤバイんじゃないの?

そういえばデヴィッド・キャラダイン、こないだ亡くなってましたね。

★★★★☆☆☆☆☆☆

ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場

Heartbreak Ridge
1986年/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド マーシャ・メイソン エヴェレット・マッギル 
マリオ・ヴァン・ピープルズ モーゼス・ガン ボー・スヴェンソン

BS朝日での短縮版。

イーストウッド先生が金八よろしくダメダメな海兵隊のクズどもを鍛え直すのだが、恫喝しようとしても相変わらずいつもの嗄れ声なもんで、いまいち迫力がない。鬼軍曹っぽくないのだ。つまり、自分で自分をミスキャストしており、これは致命的だと思う。まあ、流石に『フルメタル・ジャケット』のR・リー・アーメイを持ってこいとは言わんけどねw

★★★★★★☆☆☆☆

2009年7月4日

暗くなるまでこの恋を

La Sirene du Mississippi
1969年/フランス
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:ジャン=ポール・ベルモンド カトリーヌ・ドヌーヴ ミシェル・ブーケ


共同名義の預金をすべて持ち逃げした女を、自分で探偵まで雇ってやっと探し出したのに、せっかく買ったピストルで殺すでも脅すでもなく、そのままドヌーヴを許してまた一緒に暮らしてしまうベルモンド。

そこまでベルモンドが女に惚れ込んでしまうことに対して、劇作上も演出上も納得性が皆無なもんだから、映画を見てるほうとしては、狐につままれたような感じがしてしまう。これは脚本だけじゃなく演出家の責任も大きいと思う。

ドヌーヴのヌードが拝める映画は珍しいんで、そこはきっちり愉しんだけどw オープンカーでセーターに着替えて、それに見惚れた対向車が木に衝突するシーンは笑いました。

★★★★☆☆☆☆☆☆

2009年7月3日

アパッチ砦

Fort Apache
1948年/アメリカ
監督:ジョン・フォード
出演:ヘンリー・フォンダ ジョン・ウェイン シャーリー・テンプル 
ペドロ・アルメンダリス ジョン・エイガー ウォード・ボンド

なんつってもこの映画はヘンリー・フォンダの気高く優雅な演技に尽きます。ウェインの忠告を無視して無謀にもインディアンの罠に突っ込み、見事に袋のネズミになってしまうわけだけども、そこに至っても表情を崩さず、ウェインからサーベルを受け取ってまたまた突っ込み、死んでしまう。ラストはヘンリー・フォンダの肖像画で締めるあたりも、徹底したキャラ付け。

しかし、全体的にはどうも物語が散漫な印象を受ける。ボンドとテンプルのラブロマンスが浮き上がってしまってるし、フォードお得意の下士官たちの陽気な掛け合いも、スベってるなこれw まあ脚本に問題あるんだろうけど、演出的にももうちょい纏めてほしかった。

★★★★★☆☆☆☆☆

2009年7月2日

ミスト

The Mist
2007年/アメリカ
監督:フランク・ダラボン
出演:トーマス・ジェーン マーシャ・ゲイ・ハーデン ローリー・ホールデン 
アンドレ・ブラウアー トビー・ジョーンズ ウィリアム・サドラー

陰惨、あまりにも陰惨なモンスター・ホラー映画。出てくる人間はイヤな奴ばっかりだし、ラストはまったく救いがないし、やっぱりホラーはこうでなくっちゃいけません。

監督がダラボンだから、スーパーマーケットに立て篭もるまでの描写をダラダラボンボンやってんだろうなぁと懸念してたんだけども、意外や意外、すんなりドラマの核心に入っていて安心した。わざとピンボケさせたようなカメラの使い方が溜息モノだったんだが、まぁ後半は割とちゃんと撮ってるし、まぁ良しとしましょう。ミセス・カーモデイのヒトラーばりの演説と煽動が「うっとうしいなぁ・・・」とちょうど思ってたところで、店員のオッチャンに腹と頭をズドンとやられたときは思わず拍手しちゃったよ。ナイスタイミング!

バカでかいイナゴやクモ、10トントラック級のカマキリ、ラストに出てくる天突く超巨大怪獣等、クリーチャーの毒々しさと禍々しさも素晴らしい。「虫が嫌いな人」は必見の最凶”バグズ”パニックムービー。

★★★★★★★★☆☆

2009年7月1日

ひき逃げ

1966年/東宝
監督:成瀬巳喜男
出演:高峰秀子 司葉子 小沢栄太郎 加東大介 黒沢年男 
賀原夏子 中山仁 浦辺粂子 佐田豊

ストーリーとしては「家政婦は見た」レベルだなぁ。中盤以降はほとんど柿沼家でのサスペンスが展開されるわけだが、ガス漏れで子供の殺害を謀る場面とか、絹子とふみ江の取って付けたような修羅場とか、どうも成瀬にしては演出のケレン味が強い。フラッシュバックを露出オーバー気味に撮っているが、これも雑だ。

しかし、子供が車にひかれるシーンのカット割りのあざとさ。ひかれたあとに一瞬起き上がるもすぐまた倒れてしまう残酷さ。これらの演出を見ると、成瀬に一度でいいから恐怖映画を撮ってほしかった。

★★★★★☆☆☆☆☆